単細胞生物と作戦と穴掘り
『あれ!?何でコウが2人いるの!?もしかして、コウ、分裂できるの!?生殖する必要がない生物なの!?』
「「誰が単細胞生物だ」」
事情を知らない籠手に俺と平行世界の俺──異世界に転移した本物のリリィを匿った上寺光──は、ほぼ同じタイミングで同じツッコミを繰り出す。
「……やっぱ、あんただったのか。自称神様が連れて来た助っ人って」
「俺だけじゃないぞ」
俺よりも少しだけ背が高い俺は、苦笑いを浮かべると、持っていた木刀で上空を差す。
そこには黒い狐と激しい空中戦を繰り広げる騎士団長がいた。
「──■■■■■っ!」
赤黒い光が黒い狐の巨体を覆う。
山1つ吹き飛ばす事ができる騎士団長の一撃は、黒い狐が身に纏う黒い炎によって掻き消された。
当然、黒い狐本体に傷1つつけられていない。
「あの脳筋バカ。あの黒い炎を何とかしないと、攻撃通じないっての」
銀色の狼の口から自称神様の声が聞こえて来る。
「もしかして、自称神様なのか?」
「あり?あんたらに本当の姿見せた事ないっけ?」
俺とルルとレイは同時に首を横に振る。
「そうよ、この狼の姿が私の本当の姿よ。カッコ良いでしょ?」
「カッコ良いというより美味しそうです」
「「涎垂らすな」」
俺と自称神様は空気を読めない腹ペコの発言にツッコむ。
俺達のツッコミが終わった途端、翅を失った黒い狐が地面に墜落した。
それと同時に騎士団長も着地する。
彼女は尋常じゃない極力で後退すると、俺達の下にやって来た。
「おい、自称神!何だあれは!?お前の言っている通り、攻撃が通じないぞ……!」
「そりゃあ、そうよ。だって、あれは尋常じゃない魔力で身を守っているんだから。大陸1つ吹き飛ばすような攻撃でも放たない限り、あいつを傷つける事なんて不可能だわ」
"或いはあの黒い炎を無効化するか"と付け加えながら、自称神様は眉を顰める。
「ちっ……!だったら、どうやったらあの黒い炎を退かせる!?」
苛立った様子で騎士団長は右足で地面を踏み割る。
そして、何故か大学生の俺を親の仇でも見るような目で睨みつけた。
「ここにいる奴等じゃ無理ね。どいつもこいつも脳筋だらけだし」
「誰が脳筋っすか」
「あんたは無能よ」
「ムッキー!」
怒り狂うレイを羽交い締めする。
今ふざけている場合じゃねぇんだぞ、コラ。
「以前、私が純粋悪の成り損ないと闘った時はアイギスの使い手がいたから、何とかなったけど……今回は風をぶっ放す事しかできない脳筋2人と対象を強化する事しかできない脳筋、バカの1つ覚えのようにバルなんちゃらを放つ事しかできない脳筋に、木刀片手に暴れ回る脳筋しかいないから、かなり厳しい闘いになると思うわ」
『え、私、ナチュラルにハブられてない?』
籠手に魂を封じ込められたリリィはショックを受けたような声を発する。
そりゃあ、そうだろ。
だって、今のお前は喋る籠手なんだから。
「まあ、何が言いたいかと言うと、あいつの魔力が尽きるまで闘うしかないって事。とりあえず、ここから離れましょう。じゃないと、15分先に飛ばされた人達を巻き込んでしま、……」
『長期戦じゃ先にこっちが力尽きるわ。短期決戦でいきましょう』
そう言って、リリィは自称神様が立てた作戦を否定する。
「……何か考えがある訳?」
『要はあの黒い炎を打ち破れば良いんでしょう?簡単よ、こんなに人数がいるんだったら』
そう言って、リリィは自らの作戦を俺達に告げる。
その作戦はバカでも分かるくらい単純かつ明瞭なものだった。
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・
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『んじゃあ、作戦通りに行くわよ。自称神様と大人っぽいコウと騎士団長は敵の攻撃を防ぎつつ陽動。ルルはいつでも黒い狐の尾を掴めるようにしといて』
リリィの作戦通り、俺とレイ以外のメンバーは動き始める。
大学生の俺は自称神様の背に乗って移動し、騎士団長は魔力で強化した脚力で黒い狐の下に向かって駆け出し、ルルは超強化した身体能力で黒い狐の背後に回り込んだ。
「じゃあ、コウ、あとはよろしく!」
「頑張るっす、ご主人!」
「なあ、リリィ!本当にこの作戦、上手くいくのか!?」
地面に太刀を突き刺し、黄金の風で大地に大穴を開ける。
「大丈夫っす!あいつは落とし穴作っている事に気づいていないっす!」
「リリィ!時間がなかったから、とやかく言わなかったけど、本当に『リンチしようぜ〜落とし穴編〜』は成功するんだよな!?これが1番勝率高い方法なんだよな!?」
『大丈夫よ。昔、この方法でお尻大好き王子を嵌めたから』
「大丈夫の要素がどこにもねぇ!」
さっき出会ったお尻弄り虫改め王子のドヤ顔が脳裏を過ぎる。
あいつ相手に成功した所で、この作戦が上手くいく保障はどこにもない。
ていうか、あの王子相手だったら、猿の罠でもかかるだろ。
「というか、大学生の俺と自称神様と騎士団長が陽動するって言ってたけど、大丈夫なのか!?特に大学生の俺!木刀1本しか持っていないけど、あれで闘えるのか!?」
「闘えているみたいっすよ。ほら、あれ」
レイに急かされる形で大学生の俺を見る。
狼と化した自称神様の背に乗った彼は、黒い狐が吐き出した炎の塊──大きさは大体トラック3台分くらい──の群れを木刀1本で掻き消していた。
俺の持っている木刀には不思議な力が作用していなかった。
黄金の風さえも纏っていない。
俺の勘が正しければ、俺は木刀と技術だけで黒い狐の攻撃を受け流しているのだ。
……え?あんな事できるの?
というか、どういう理屈であの炎塊を"風斬"(ふうぎり)系の技を使わずに掻き消してんの?
もしかして、俺が感知できないだけで俺は魔法とか魔術とか使っているのでは……?
「あっちの大人っぽいご主人、ヤバいっすね。魔力なしで化物の攻撃を破壊しているっすよ」
使っていなかった。
俺は技術だけで黒い狐の攻撃を掻き消していた。
どんな修羅場を潜ったら、あんな事できるんだよ。
『きゃー!あっちのコウもカッコいいー!!あっちのコウといつものコウに挟まれる日々を送りたーい!!』
「レイ!黄色い声を上げるバカ令嬢を黙らせろ!」
「んな事よりもご主人、さっさと穴を掘るっすよ!じゃないと、騎士団長達がガス欠するっす!」
全力の一撃──バルムンクで受け流しながら、騎士団長は額に脂汗を滲ませる。
恐らく殆ど力が残っていないんだろう。
彼女の動きはいつもよりもキレがなかった。
「ちっ……!あまり時間は残っていなさそうだな……!」
太刀から出た黄金の風を巧みに操りつつ、俺は穴を掘り続ける。
『コウ、急いで!じゃないと、作戦始める前に彼らが倒されてしまうわ!』
「分かっているよ、こんちくしょう!」
太刀から出た黄金の風を酷使する事で、俺は穴を掘り続ける。
掘っては出た土を遥か後方に吹き飛ばし、掘っては土を吹き飛ばしの繰り返し。
穴を掘りながら、俺は思った。
……落とし穴にハマるラスボスっているの?
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次の更新は明日2月4日22時頃に予定しております。




