脱出と破壊と装着
「■■■■■■!!!」
黒い狐の口から黒を基調とした光弾が吐き出される。
その光弾の大きさはトラックと同じくらいの大きさだった。
膨大なエネルギーを秘めた光弾が法定速度を超える速さで迫り来る。
その光弾を瞳に映した瞬間、リリィとレイはようやく理解した。
敵の力量を。
「"風斬"……!」
黄金の竜巻を纏った太刀で光弾を受け止める。
光弾は騎士団長が放つ全力の一撃──「■■■■■■(バルムンク)よりも威力が上だった。
"風斬"と黒い狐が吐いた光弾により、辛うじて保っていた地下空間が倒壊してしまう。
「"風突"・穿っ!」
黄金の竜巻を纏った太刀で天を衝く。
地上に繋がる穴を開けた俺は、太刀に纏っていた黄金の風を操作する事で、レイと籠手を地上目掛けて打ち上げる。
彼女達が穴を通過したのを目視した後、俺も地下空間から脱出した。
黄金の風を逆噴射する事で、俺は宙を駆け抜ける。
地下空間からの脱出は10秒も経たなかった。
『な、何よ、アレ……!?騎士団長何人分の強さなのよ……!?』
「ご主人っ!アレは地上に出したらいけないものっす!もしアレがここに出たら、……」
「んな事、言われなくても分かっているよ……!」
真王城中庭に着地した途端、先に地上に出たレイが籠手を抱えた状態で恐怖を口にする。
すると、立っている地面が激しく揺れ始めた。
すぐさま左指を鳴らした俺は、レイと籠手と共に浮上する。
黄金の風によって、上空に浮上した俺は彼女達と共に地上──中庭を見下ろした。
──中庭の地面が隆起する。
すると、肥大化した黒い狐──全長は既に50メートルを優に超えている──の頭が地面から這い出る。
まだ大きくなっているのか、黒い狐は更に肉体を肥大化させると、瞬く間に真王城の背丈を越してしまった。
黒い狐が兎のように跳び跳ねる。
飛び跳ねた奴の四肢が地面に着いた瞬間、地面は縦に大きく揺れた。
「■■■■■■■■!!!!」
小さな山と変わらない背丈になった黒い狐の咆哮が真王城の窓硝子を、外壁を、庭園を粉々に砕く。
否、被害は人工物だけじゃない。
真王城の周囲にあった木々も一瞬で枯れ果ててしまう。
空を飛んでいた鳥達も地に堕ち、空に浮かんでいた灰色の雲が漆黒に染まる。
先程よりも声量も威力も増している咆哮は、あっという間に真王城周辺の生態系をガラリと変えてしまった。
『うそ、でしょ……』
咆哮を上げただけで真王城を半壊状態に追い込んだ上、真王城周辺にあった木々を枯らした黒い狐に対して、籠手は言葉を失ってしまう。
「……災厄っす。アレ、人間がどうこうできるもんじゃないでしょ」
いつも能天気だったレイの顔が絶望に染まる。
いつもお気楽な彼女達が絶望するくらい、あの黒い狐は圧倒的だった。
『……コウ、一応、聞いておくわ。アレに勝つ事はできる?』
「……無理だな」
太刀を強く握り締めながら、俺は彼女達に現実を突きつける。
「最低でも自称神様級の奴らが十数人いないと話にならねぇ。アレは獣の形をした災厄だ。個人で勝てるものじゃない」
突きつけられた現実によって、彼女達は言葉を失う。
だから、俺は可能性を提示した。
奴に勝てる可能性を。
「……だが、アレはまだ本調子じゃない。見ろ、あいつの尾を」
黒い狐を見下ろしながら、俺は奴の尾を指差す。
「まだあいつの尾は"3本"しかない。あいつの正体が本当に"九尾"だったら、6本の尾が追加される筈だ。今の本調子じゃないあいつだったら、俺1人でも何とかできる」
そう言って、俺はレイの方に視線を向ける。
「だけど、本気で闘う事はできない。真王城周辺には、まだ人が残っている。今の俺が全力を出したら、間違いなく真王城周辺にいる人達は巻き込まれるだろう。だから、お前らはその人達を俺と九尾から遠去けてくれ」
「遠去けるって……私達にどうしろって言うんすか!?」
「ここには魔王軍がいる。彼等を動かせば、何とかなる筈だ」
レイの瞳を見つめながら、俺は彼女にお願いする。
「頼む、こんな事を頼めるのはお前しかいない。魔王の娘であるお前にしか」
「……仕方ないっすね」
レイは呆れたような笑みを浮かべると、後頭部を掻き始める。
「10分くれっす、10分あれば何とかできると思うっす」
「分かった。んじゃあ、ここにいる人達を避難させたら、何かしらの合図をくれ」
黒い狐から目を逸らした俺は、魔王軍がいるであろうディア街に降りようとする。
『コウ、私を連れて行きなさい』
籠手は誇らしげな声色で、俺達の注意を惹くと、俺にこんな提案を投げかける。
『この状態でも魔術は使えるわ。それに、今の私は籠手。持ち運び簡単だから、いつものようにコウのお荷物にならないと思うわ』
「お荷物の自覚はあったんだな」
『私の魔術だったら、テレパシーみたいなもので魔王軍と連絡が取れるわ。私が言うのもなんだけど、お得だと思うわよ?』
籠手の提案を呑むかどうか一瞬だけ迷う。
が、悩んだのは一瞬だった。
「……んじゃあ、よろしく」
リリィの案通り、俺は左手に籠手を着ける。
彼女の案を呑んだのは至って明瞭。
魔術云々よりも彼女の頭脳が欲しかったからだ。
彼女と離れ離れになって痛感した。
彼女の頭のキレを。
実際、俺が遭遇した難局の幾つかは彼女のアドバイスのお陰で切り抜ける事ができた。
今回も彼女の頭のキレが必要になるかもしれない。
そう思った俺は籠手を左手に装着する。
「ん、……ピッタリだ」
ゆっくり落下しながら、俺は籠手のフィット感に少しだけ驚く。
これなら戦闘に支障はないだろう。
そんな真面目な事を考えていると、空気を読めていない籠手の声が俺の鼓膜を貫いた。
『よっしゃああああ!!コウの初めてをゲットおおおおお!!!これって実質セック……』
俺は籠手を外した。
そして、外した籠手を地面目掛けて放り投げた。
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次の更新は明日1月25日の22時頃に予定しております。
今から明後日も更新できるように書き溜めしてきますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。




