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黒い枝と末路と災厄

 隣にいたレイが俺の身体を突き飛ばす。


「うお、……!?」


 フクロウ──平行(ちがう)世界の俺との問答に熱中した所為で、俺は籠手(リリィ)を抱えたレイに押し倒されてしまった。


「な、何をして……」


 突然、俺を押し倒したレイに疑問を投げかけようとする。  

 だが、その言葉は俺の瞳に映ったフクロウの変わり果てた姿によって遮られた。


「なっ……!?」


 先程まで傷一つなかったフクロウの身体が血に濡れている。

 右肩の肉と左脇腹の肉が抉れており、右太腿には大きな風穴が空いていた。

 フクロウの足下に滴る赤い水溜りを見て、レイは声なき悲鳴を上げる。

 だが、フクロウはまだマシな方だった。

 首を失った天使の方を見る。

 天使の身体には黒い枝のようなものが数え切れないくらいに突き刺さっていた。

 薔薇の茎のような黒い枝は、天使の身体を蜂の巣にする。

 ナイフで滅多刺しにするように、黒い枝は何度も何度も天使の身体を突き続けた。

 黒い枝に突かれる度、天使の身体は原形を失い、ただの肉塊になってしまう。

 天使は悲鳴を発しなかった。

 声なき断末魔を上げながら、天使は肉塊から肉片に変わり果てる。

 それでも黒い枝は天使だった肉片を突き続けた。

 まるで天使の存在をにくんでいるかのように。

 すぐさま黒い枝の発生源に視線を向ける。

 発生源は壁に叩きつけられた真王からだった。


「あ、ぎぃ!?あぎゃ、あ!?何じゃ、これは、あああああ!!??」


 真王の身体から黒い炎が噴出する。

 彼女の身体から噴出した炎は、瞬く間に固形化すると、黒い枝と化した。

 新たに生じた黒い枝が俺達の方に伸びる。

 俺は迫り来る黒い枝を持っていた太刀で砕くと、レイと籠手になったリリィの前に立つ。


『な、何あれ!?何で私のパーフェクトボディーから黒い炎が出てんの!?』


「もしかして、神なんちゃらが成功して、始祖なんちゃらが出てきたんですか!?」


「いえ、あれは始祖ガイアじゃありません」


 傷ついた身体を引き摺るように、フクロウは迫り来る黒い枝を刀で弾き飛ばす。


「だったら、あれは何なんだよ!?」


「分かりません……!だが、あれの正体は大体予想がつきます……!」


「だったら、その正体を言えっ!何勿体振っているんだ、厨二病バカ!」


 フクロウへの罵倒が全部自分に突き刺さる。


「自分をバカ呼ばわりとか、パネェっすねご主人」


『一種の自虐かしら?』


 リリィとレイに弁明する暇もなく、再び黒い枝が迫り来る。

 新たに飛んできた黒い枝を俺とフクロウは"風斬(ふうぎり)"で粉々に砕いた。

 たった一振りで無数の黒い枝は俺の視界から消え失せてしまう。

 が、俺の一撃により、大理石の床と壁に亀裂が走ってしまった。

 地下空間全体に嫌な音が響き渡る。

 あと2〜3発"風斬(ふうぎり)を撃ったら、この地下空間は崩壊してしまうだろう。

 だから、俺はこの状況をどうにかするため、この黒い枝の元凶の方に視線を向けた。


「痛いいいい!!何で、何で、何でじゃあああ!!!神堕しをしたら、我は完璧な存在になるんじゃなかったのかあああああ!!!!」


 断末魔を上げながら、真王の身体は黒い炎に灼かれる。

 いや、厳密に言えば、あの炎が灼いているのは真王(リリィ)の身体じゃない。

 真王の精神(こころ)だ。

 あの黒い炎が憎悪によって構成されているのを本能的に理解する。

 あれは──あの炎は人間が抱く憎しみや怒りをより単純化したものだ。

 悪感情の塊。

 いや、悪感情というよりも呪いの塊と言った方適切だろう。

 あの炎は人間が持つ攻撃性を更に鋭利化したもの。

 理由や理性なんて高尚なものは存在しない、ただの憎しみ呪いの塊。

 あの炎を纏う者は目に映る全てのものを破壊し尽くすまで止まらない。

 あの炎は文字通り全てのものを喰らい尽くすために生まれたバグそのもの。

 人類だけでなく、生きとし生きる全ての者にとって害悪な存在。

 ──あれは存在しちゃいけないモノだ。


「我は、こんなのが欲しかったんじゃないいいい!!!我は、私が欲しかったのは、……ああ……!」


 真王は救いを求めるかのように両腕を天に突き出す。

 だが、その手を握ってくれる人はどこにもいなかった。


「私は、詩人になりたかっただけなのに、いいいいいいい!!!!」


 その言葉を最期に真王(リリィ)の身体は黒い炎に覆われてしまった。 

 真王(リリィ)の身体を覆った黒い炎は、膨れ上がったかと思いきや、徐々に何かの形になる。

 その姿形は俺がよく知っている獣と酷似していた。

 全体的に細くしなやかな身体。

 犬よりも細く厚みが薄い鼻先に小さい口。

 頭頂部に着いた両耳はアンテナのようにピンと張っており、賢さを感じさせる顔立ちは人に媚びない意思を否応なしに感じさせる。

 必要最低限の肉しかついていない四肢が大理石の床を踏み割る。

 犬と酷似している四足歩行の獣は、その身体を更に肥大化させる。

 が、幾ら大きくなってもシャープな雰囲気を損なう事はなかった。


『な、何よ、あれ……』


 徐々に異形へと近づいていく自分の姿を見て、リリィは絶句してしまう。

 

『何で、私の身体が、狐みたいになってんの……?』


 リリィの言う通り、真王(リリィ)の身体は巨大な狐みたいな形になろうとしていた。

 それを見て、レイは声を荒上げる。

 

「ま、間違いないっす……!アレは、呪術師達が生み出した始まりの魔獣……!"狐の魔獣"っす!」


「狐の魔獣……!?」


 砂漠の迷宮の時の記憶が頭に過ぎる。

 リリィ達は言っていた。

 百数年前、真王を呪い殺すため、この浮島にいた呪術師達が魔獣を生み出す呪術を完成させた、と。

 呪術師達が完成させた始まりの魔獣──"狐の魔獣"は浮島全体に大きな被害を及ぼした、と。

 狐の形をした魔獣は不完全だったらしく、誕生した数日後に自然消滅した、と。

 たった数日で狐の魔獣は浮島全土を半壊させた、と。

 背筋に冷たいものが伝う。

 目の前の脅威が俺の警戒心を駆り立てる。

 目の前のアレは今まで闘ってきた魔獣とは格が違う。

 もしリリィ達の言っていた事が本当だったら、アレはこの浮島に大きな被害をもたらすだろう。

 瞬く間に黒い狐(リリィの身体)は全長10メートル級の巨体に成り果てる。

 まだ大きくなるのか、黒い狐はその巨体を更に膨張させた。


「いえ、あれは魔獣なんて生優しいものじゃありません」


 黒い枝により負傷したフクロウは、舌打ちしながら、黒い狐と化した真王(リリィ)の身体を睨みつける。


「今、理解しました。あれは凡ゆる生命(いのち)に害を成す存在。凡ゆる生命に仇を為す害敵。理由もなく全てのものに害を与える存在──純粋な悪」


 フクロウの緊迫感に満ちた声が俺達の危機感を更に駆り立てる。

 

「間違いありません。アレは傾国の(けだもの)。人心を惑わす最悪にして災厄の(けだもの)。──純粋悪『九尾』………!」


 フクロウの言葉を肯定するかの如く、狐の形をした黒い炎は複数の尾を生やす。

 そして、呪詛に似た雄叫びを上げる事で地下空間を破壊し尽くした。














   ──純粋悪『九尾』変現──
















 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを書いてくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 今回のお話でStage8『■■■』はお終いです。

 次の章であるFinal stage「全てのものに災厄を」は1月24日月曜日20時頃から始める予定です。

 あと残り僅かでありますが、これからも更新し続けるので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

 

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