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地下と籠手と真王

 魔力によって強化されたレイの嗅覚のお陰で、俺達は何とか真王の居場所を特定する事ができた。


「……あの城は囮だったんだな」


 真王城中庭にある隠し通路の扉を蹴破る。

 扉を蹴破ると、地下に続く階段が俺達の前に現れた。


「多分、あの城が無駄に広いのは、戦力を分散させるためだと思うっす」


「なるほど、あの城は生活するためのものでも権威を示すためのものでもなく、敵が少数になった所を叩くためのものなんだな」


 あの城が合理的かつ戦略的な理由で使われている事に少しだけ感心する。

 どっかの欲望のまま動く王子と腹ペコとは大違いだ。

 真王城食糧庫──中庭近くにあった──に向かったルルに思いを馳せながら、俺はレイと共に階段を降る。


「この奥にお嬢はいるっす」


「真王とやらは?」


「分からないけど、お嬢の匂いの他に女の人っぽい匂いがするっす」


「となると、真王ってのは女なのか……?」


「いや、それはないと思うっすよ。魔王(おとうさん)曰く、真王は男の可能性が高いって言っていましたし」


 レイの話を聴きながら、蝋燭の灯りで照らされた階段を下る。

 

「まあ、私も真王に関しては良く分かっていないっすけどね。真王はあまり表に出ていないとかで、情報が少ないらしいっすよ」


「もしかしたら、真王の正体はリリィを攫った奴かもな」


 リリィを攫った羽根の生えたピエロを思い出しながら、階段を降り続ける。

 

「まあ、どっちにしろ、真王は私の獲物っす。ご主人、間違っても真王を殺さないで欲しいっす」


「……魔人にされた人達を元に戻す方法を真王から聞き出すのか?」


 砂漠の迷宮の出来事──自称真王の右腕を尋問するレイの姿──を思い出しながら、俺は言葉を濁らせる。


「ご主人の世界浮島(ここ)じゃないっす」


 レイは俺の前を歩きながら、いつも通りの声色で諭すように語りかける。


「だから、浮島(こちら)側の事情に首を突っ込まないで良いっす。ご主人はご主人の事情で動いてください。こっちの問題(こと)は、こっちで処理するんで」


 そんな事を話している内に、俺達は階段を降り切ってしまった。

 階段を降り終えた俺達の前に豪華な装飾が施された扉が立ちはだかる。

 この先に"何か"がいると、本能的に察知した。

 何が来ても良いように身構えながら、俺とレイは扉を蹴破る。

 扉を蹴破った瞬間、俺達の視界に銀髪の女性の死体が映り込んだ。


「貴様か、我の邪魔をしたのは」


 床の上に寝転がっている死体に驚愕する暇もなく、聞覚えのある声が俺達の鼓膜を揺るがす。

 彼女の声は俺たちにとって馴染みのあるものだった。

 豪華な衣服に身を包んだ銀髪の女性の死体から目を逸らした俺達は前を見据える。

 黄金の玉座。

 そこに座っているのは俺たちにとって見慣れた女性だった。


「リリィ……!」


「残念だったな、異邦人。我は貴様が知っている女ではない。──我は真王だ」


 黄金の椅子に座りながら、リリィは妖艶な笑みを浮かべる。

 その笑みは俺にとって見慣れないものだった。

 その言動で否応なしに理解させられる。

 目の前にいる彼女が俺の知っているリリィではない事を。


「……っ!」


 驚きながら、本物のリリィが言っていた事を思い出す。

 彼女は言っていた。

 リリィの過去──パランピーノ家に拾われる以前のリリィの過去──は明らかになっていないと。

 リリィの正体は不明だと。

 だが、リリィの正体が真王であると仮定したら、ある程度の事は説明がつく。

 彼女は真王である過去を隠すために、パランピーノ家に拾われて、記憶喪失したフリをしていたんじゃ……


『コォォオオオオウウウウウウ!!!!』


 ……聞き慣れたバカみたいな声が俺の名を呼ぶ。

 振り返る。

 そこには羽根の生えたピエロが立っていた。

 "それ"の手中にある黄金の籠手が俺の視線を奪う。

 その籠手には見覚えはないが、その籠手から聞こえる声には聞き覚えがあった。


『コウ!あの女、私の身体を奪いやがったの!早く私のパーフェボディ取り返して!こんな籠手の身体、めちゃくちゃ嫌なんだけど!!??」


「…….お前、誰だよ」


『無視しないで!久しぶりの出番なのに!?』


 籠手から聞こえるリリィの声──疑うまでもなくリリィ本人。彼女の言動から、おそらくリリィの身体は真王に奪われたのだろう──を無視しつつ、リリィの身体に疑問をぶつける。


「真王じゃと言っておろうに。貴様はバカか?」

 

 リリィ──バカ令嬢の顔をした真王にバカ扱いされた。

 何この得体の知れない屈辱感。

 

「なっ……!?あいつ、ご主人が意外とバカな事を一瞬で見抜いた……!?」


『コウが意外とバカな所を見抜くに、最低限の観察眼は持ち合わせているみたいね……!』


「お前ら、陰でそんな事を思っていたのか」


 自分が意外とバカだと思われていた事に少しだけ傷つく。

 

「で、何の用だ?また我の邪魔をしに来たのか?」


 真王を名乗るリリィの真の姿と思わしき女は、黄金の玉座に座ったまま、欠伸を浮かべる。

 隙だらけだった。

 

『ちょっと、コウ?何で突撃態勢になってんの?何で攻撃仕掛けようとしているの?あれ、私のパーフェボディよ?』


 今なら真王に攻撃を仕掛けられる。


『ねえ、何か『今なら真王に攻撃を仕掛けられる』みたいな顔してない?あれ、私の身体よ?コウ、貴方は私のパーフェボディに傷をつける気?』


 リリィには悪いが、状況が状況だ。

 骨の1本2本は覚悟して貰おう。


『ねえ、何で『骨の1本2本は覚悟して貰おう』みたいな目をしているの?できれば無傷で奪い返して貰いたいんだけど』


「俺の心の声を拡散してんじゃねぇよ」


 バカ令嬢の所為で、俺の考えが敵にバレてしまう。

 本当、口を閉じていろ、バカ。


「何をするつもりか分からぬが、下手な事は止めといた方が良いぞ。その籠手を壊されたくなければ、な」


 バカ令嬢の身体を奪った真王の瞳に俺達の姿とピエロの姿が映る。

 ピエロはニタニタと笑いながら、リリィの声がする籠手を弄んでいた。


「なるほど、お嬢の魂をその籠手に憑依させたんすね」


「そうじゃ、魔王の娘。貴様はそこにいる馬鹿と違い、貴様は頭が切れるみたいじゃな」


 バカ令嬢の身体を奪った真王からバカ扱いされてしまった。

 何この屈辱感。

 あの偉そうにドヤ顔している顔面、今すぐ殴り飛ばしたい。


「はっ、それがどうした?終わり良ければ全て良し。一時はあのバカ王子の所為で計画が破綻しかけたが、我の計画は達成寸前。何も恥じる事はない」


 真王の一言によって、彼女(?)の威厳が一気に喪失する。

 そうか、やっぱ破綻しかけたんだ。

 王子の尻の所為で、破綻しかけたんだ。


「あとは我の身体に始祖ガイアを降ろすだけで、我は完璧な存在になる」


「それがあんたの目的っすか?」


 満足そうに嗤う真王を睨みつけながら、レイは威嚇目的で拳を鳴らす。


「ああ、そうだとも。完璧な存在になる。そのためだけに、我は2000年間生きてきた」


 そう言って、真王は指を鳴らす。

 その瞬間、大理石の床から獣の形をした石像が沢山湧き出た。


「気が乗った。少し話そう、我の生い立ちを」


 真王は不敵な笑みを浮かべる。

 その笑みはラスボスに相応しいものだった。

 

(ねえ、ご主人りあいつ、王子の尻の所為で計画が破綻しかけたのに、何でこいつ偉そうな態度を取れているんすか?恥知らずっすか?)


(しっ、思い出させるな。ラスボスとしての風格が損なわれるだろうが)


(んなもん、とっくの昔に損なわれているっす)


 はい、そんな訳でラスボス(?)戦突入です。


 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方にお礼を申し上げます。

 次の更新は1月21日金曜日20時頃に予定しております。

 多分、金曜日は2話連続投稿になると思うので、お付き合いよろしくお願い致します。

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