脅しと情報収集と嘘
「手短に聞く」
持っていた白銀の剣を金髪の青年に突きつける。
この浮島の王子であり本物のリリィの婚約者だった"トスカリナ・フォン・フェスティリア"は、怯えた様子で剣の鋒を見つめると、身体を小刻みに揺らし始めた。
「──食料庫はどこですか?」
「レイ、腹ペコを黙らせろ」
シリアスな雰囲気を保ちたいので、レイにルルの口を塞いで貰う事にする。
そして、俺は改めて王子と向かい合うと、聞きたい情報だけを尋ねた。
「トスカリナ・フォン・フェスティリア、真王とやらは何処にいる?」
「し、知らないっ!」
「惚けるな。さっさと吐かないと、お前のチ○コ、ちょん切るぞ」
「ねえ、レイさん。あの人、今、チ○コって言いましたか?」
「言ったっすね」
「何か男の人の口から淫語を聞くのって、軽く興奮しませんか?」
「するっすね」
「ちょん切られたくなかったら黙ってろ、変態2人」
「はっ!残念でしたね、ご主人!私達にはちょん切られる所がありません!」
「お前らには立派な手足がついているじゃないか」
「「手足ちょん切られる!」
俺の目が本気だったので、レイとルルはお口にチャックする。
ごめん、今、ふざけている場面じゃないから。
「答えろ、変態王子。じゃないと本気でチ○コ切り落とすぞ」
王子のチ○コを切り落とす覚悟を決める。
真王城探索と黒い塊との闘いの所為で時間が押しているのだ。
その遅れを取り戻すには、王子の口からリリィの居場所を聞き出すしかない。
ここで変な情けをかけていたら、更に時間を浪費してしまう。
だから、心を鬼にするんだ、俺。
大丈夫、殆どの男はチ○コ切り落とすという脅しに弱いから。
「し、知らないっ……!本当に知らないんだ……!!この真王城は王族の中でも初代国王である真王の直系の者にしか立ち入る事ができない……!俺だって、ここに立ち入るのは今日で初めてなんだ!」
以前、リリィが言っていた言葉を思い出す。
『いや、アレじゃないわ。ここからじゃ見えないけど、アレの下にある王宮がそうよ。アレは王族の中でも初代国王の直系の者にしか立ち入る事ができないお城。今は真王とその妻、そして、子ども数十人しか住んでいないと聞くわ』
確かあれはこの浮島に来て直後の事だった。
リリィと一緒にディア街にある建物の屋上から街を一望した時に聞いたものだ。
「なら、リリィがどこにいるのかも分からないのか?」
「わ、分からない!でも、真王様の所にいると思う!」
王子の口から真王とリリィの居場所を聞き出す事はできない。
そう判断した俺は次の質問を口にする。
「もう1つ質問だ。何でお前らは黒い塊の中にいた?何で俺達を襲った?」
「知らない……!いつの間にか俺達は黒い塊にされていた……!」
「誰にされた?」
「わ、分からない……!気がついたら俺様達は黒い塊にされていた……!本当だ!俺様は嘘を吐いていない!信じてくれ!」
王子は本当に何も知らないのか、潤んだ瞳をしたまま首を横に振る。
「で、でも、これだけは覚えている……!俺様は黒い塊にされる直前、狐を見たんだ!」
「……きつね?」
「そ、そう!狐だ!その狐を見た瞬間、気がついたら俺様達は黒い塊にされたんだ……!」
「その狐ってのは何だ?何かの隠語か?それとも本物の狐なのか?」
「本物の狐……いや、黒い毛をした狐だ!俺様は黒い狐に……って、ひえっ!何で魔王の娘がこんな所にいるんだっ!?」
レイの存在に気づいた王子は、その場で飛び上がる。
どうやら俺が城壁を壊すよりも前に黒い狐と遭遇したらしい。
(黒い狐ってのは何だ……?真王とやらの差金か?それとも天使の羽根みたいなのをつけたピエロか?)
いや、今は考える場面じゃない。
時間がないのだ。
王子が何も知らない以上、ここで色々考えたとしても無駄だろう。
新たに生じた謎の解明を後回しにして、俺は王子に問いかける。
「真王の正体について教えろ」
「か、……顔を合わせた事がないから、よく分からない。でも、声だけは聞いた事がある。女の人だ。それ以外は知らない」
「羽根がついたピエロの事は?」
「……知らない」
「神堕しと神器に聞き覚えは?」
「……ない」
剣の鋒を王子の首に突きつける。
「ほ、本当に何も知らないだ!だって、知らなくても問題なかったから!真王様の勅令を聞くだけで、真王様の言う通りに国を動かすだけで、俺様達は優雅な暮らしができたから!何年も、…….いや、何千年も……!」
「……つまり、お前は……いや、お前ら王族は真王の影武者だったって訳か」
きっと真王とやらは王子達に指示する事で、この国を統治していたんだろう。
ここで俺は違和感を抱く。
(……なら、何で真王は間接的なやり方で統治していたんだ?何で王子達を使って、この国を統治していたんだ?表舞台に出たくない理由があったのか……?)
またもや謎が生じてしまう。
質問を重ねれば重ねるだけ謎だけが増えてしまう。
(いや、待てよ……)
俺は新たな違和感を抱いてしまう。
(王子達は真王とやらの命令に従っていた。だったら、何で王子は本物のリリィと婚約破棄をしたんだ……?)
この騒動のきっかけを思い出す。
そう、この騒動は王子と本物のリリィの婚約破棄から始まった。
もし王子が婚約破棄していなかったら、本物のリリィもリリィも真王の下に留まっていただろう。
俺はこの浮島に呼ばれなかっただろう。
リリィの脱走というハプニングが起きなかったら、真王達の目的は滞る事なく達成できただろう。
王子と本物のリリィの婚約破棄は、真王達にとって百害あっても一利なしだ。
なのに、何で王子は本物のリリィに婚約破棄を言い渡したんだ?
「……最後の質問だ、王子」
白銀の剣の鋒を王子の股間に向ける。
"嘘を吐いたら即座にチ○コ切り落とすぞ"という目で王子を睨みながら、俺は最後の問いを口にする。
「何でお前はリリードリ・バランピーノに婚約破棄を言い渡した?」
俺の質問を聞いた瞬間、王子の顔が青褪める。
その顔を見て、俺は彼が嘘を吐いている事を理解した。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
次の更新は1月14日金曜日20時頃の予定です。
恐らく来週の金曜日からラスボス戦に突入するので、お付き合いよろしくお願い致します。




