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上の階と赤い部屋と黒い塊

 ルルの言う通りに敵を拘束──拘束の仕方は想像に任せる。多分、想像している1.5倍酷いと思う──した後、俺達は上の階に移動する。


「コウさん、私、気づいちゃいました」


「やめろ、気付くな」


「私、人の苦しむ顔を見るのが好きなのかもしれません」


「気づくなって言ってるだろ」


 気づいたらいけない事に気づき始めたルルに釘を刺す。


「さっきの煙になる人の悶絶する顔を見て、確信しました。私は人が苦しむ姿でいけるタイプです!」


「確信するな!」


「ご主人!人の趣味嗜好に口出しするのは良くないと思うっす!」


「普通の人だったら、とやかく言わねぇよ!こいつが普通じゃねぇから言ってんだよ!普通にやったらいけない所までやるんだよ、こいつは!」


「褒めないでください」


「褒めてねぇよ!」


 古典的なツッコミをしながら、俺達はリリィがいるであろう場所に向かって駆けていく。

 だが、上の階も下の階と同じくらい広大で、幾ら走ってもリリィがいるであろう王間に辿り着く事はできなかった。


「くそ……!東京ドーム何個分だよ、この城!?」


 真王城の広さに毒吐きながら、俺は扉を蹴破る。

 蹴破った先の部屋は寝室らしく、寝具しか置いていなかった。

 

「そういや、コウさんって人とか魔獣とかの気配を探れるんですよね?何で探らないんですか!?」


 ルルは部屋の扉を開けながら、俺に疑問を呈する。


「探らないんじゃなくて、探れないんだよ!何かこの城、異様な雰囲気が漂っているというか、……とにかく外と違うんだよ!」


「もしかしたら気配遮断系の魔術使っているかもっすね!」


「ああ、クソ……!さっきの赤煙に聞いときゃ良かった……!」


 後悔を口にしながら、俺は扉を蹴破る。

 扉を蹴破った瞬間、赤く染まった部屋が先ず目に入った。


「これ、……全裸、血なのか……?」

 

 壁と床、そして、天井を見つめる。

 壁も床も天井も血に濡れていた。

 鉄の臭いが鼻腔を擽る。

 部屋の中に充満した血の匂いは俺に吐き気を催させた。

 部屋の中心にある肉塊を見る。

 その肉塊は辛うじて人の形を保っていた。


「どうしたっすか……っ!」


 背後からレイの声と息を呑む音が聞こえて来る。

 振り返った俺は口元を両掌で覆い隠すレイと無表情のルルを目にした。


「うお、……えっ……」


 青くなったレイの顔色を見て、彼女が人の死体に見慣れていない事を理解する。

 ルルはというと、冷静な態度で肉塊を見つめていた。


「コウさん、あれ……」


 レイの方に歩み寄った俺は、彼女の身体を抱き寄せる。

 彼女の視界を俺の胸で覆い隠した後、俺は再び肉塊の方に視線を向けた。

 四肢を捥がれた肉塊を見る。

 肉塊の四肢の付け根部分から指らしき肉棒が飛び出していた。


「……多分、あの肉塊は真王四天王なんだろう」


 右肩の部分から生え出ようとしている右腕から目を逸らしながら、俺は部屋全体を見渡す。

 赤く染まった床や壁には無数の斬り傷が刻まれており、部屋の隅には腕らしき肉塊が数え流のがアホらしくなるくらい転がっていた。


「……部屋の惨状から察するに、超速再生中に殺されたんだと思う」


「誰に殺されたんですか?」


「……平行世界の俺(フクロウの獣人)だ」


 フクロウの獣人を思い出しながら、俺は壁の斬り傷に視線を向ける。

 

「この斬り傷……俺の感覚が正しければ、この傷は"風斬(ふうぎり)"を応用した技でつけられたものだ」


「え?でも、あのカナリアっていう自称神様みたいに平行(べつの)世界から来た人は、この世界の人間に手出しできないんですよね?だったら、平行世界のコウさんも手出しできないのでは……?」


「自称神様と違って、平行世界の俺はティアナとやらに脅威扱いされていないんだろう。ほら、自称神様が言っていただろ?"自分はティアナ──集合無意識体ってのに追い出された"って」


 水の都──温泉に入った時の事を思い出しながら、俺はレイの後頭部を優しく撫でる。

 彼女はまだ落ち着きを取り戻していないのか、顔は青褪めたままだった。


「多分、あのフクロウはティアナってのに感知されないようなやり方でこいつを倒したんだろう。……不味いな、あいつよりも先にリリィを探し出さないと。下手したらリリィが殺されてしま……」


 俺の声は天井から聞こえた轟音に遮られてしまう。

 すぐさま俺はレイとルルの手を引くと、赤い部屋から飛び出した。

 赤い部屋の天井が崩れ落ちるのを目視する。

 俺は彼女達を背後に追いやると、砂埃に包まれた赤い部屋に太刀の鋒を向けた。

 

「な、何が起きたんですか……!?」


 これが答えだと言わんばかりに、赤い部屋から白銀の槍が飛んでくる。

 即座に俺は太刀を握り直すと、飛んできた槍の鋒を太刀の腹で受け止めた。


「るる、いええええええ!!!!」


 獣染みた慟哭がルルの名を叫ぶ。

 声の主の方を見る。

 そこには銀の槍を握る黒い塊が鎮座していた。

 

「おれは、おれは、つよくなったぞ!おまえなんかに怯えなくてもいいように、つよく、つよくなったぞ、あははははは!!」


 黒い塊の腹部から聞き覚えのある正気を失った声が聞こえてくる。

 迫り来る槍を捌きながら、塊の腹部辺りに視線を落とす。

 そこには"勇者"の顔が嵌め込まれていた。



 


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は1月7日金曜日20時頃に予定しております。

 本編完結までまだまだかかりますが、これからも週3ペースで更新していきますので完結までお付き合いよろしくお願い致します。


 


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