援軍と作戦負けと助っ人
「というか、ご主人、何で苦戦しているっすかっ!?強くなったんでしょ!?」
素手で襲いかかる騎士団員を蹴りながら、変態奴隷志願少女レイは俺に話しかける。
「強くなり過ぎて、手加減できなくってんだよ!」
敵の攻撃を避けながら、俺は左指を鳴らす。
指の鳴る音と共に生じた黄金の竜巻は、周囲にいた敵を一瞬で蹴散らした。
だが、吹き飛ばしただけで敵に大したダメージを与える事はできず。
吹き飛ばされた騎士団員達は、すぐさま体勢を整えると、再び俺達との距離を縮め始めた。
「なら、殺せば良いじゃないですか!」
「殺せるか!」
全力疾走で敵から逃れる腹ペコ僧侶ルルに怒声を浴びせる。
「ほら!コウさんって、いつも魔獣をコロコロしているじゃないですか!アレと同じ感じでやっちゃってください!」
「俺の都合で人の命を奪えるか!」
「大丈夫です!死体の処理は任せて下さい!どんな人格者であったとしても口に入れてしまえば、ただの肉です!」
「食う気かよ!?」
腹を豪快に鳴らしながら、腹ペコはサムズアップを披露する。
「いや、確かに今までの道中で大した活躍してないっすけど、空気扱いはあんまりだと思うっす!」
「そっちの"くうき"じゃねぇよ!」
「分かりました!植物の方です」!?」
「それは茎!」
「分かったっす!酸素っすね!」
「漫才やりに来たのか、お前ら!?」
どこに行っても、彼女達は彼女達のままだった。
「ご主人が闘えない……だったら、私の出番っすね!」
そう言って、レイは拳を握り締めると、軽快な動きで接近する騎士団員達の顔面を殴りつける。
「ようやくこのパーティの役に立てるっす!来いや、雑魚共!私が蹴散らしてやるっすよ!」
"雑魚共"というワードにカチンと来たのか、騎士団員達の纏う雰囲気がザラついたものに変わる。
それを知らないと言わんばかりに、レイは襲いかかる騎士団員の拳を舞でも舞うかのように躱すと、敵の顎に重い一撃を叩き込んだ。
「流石、レイさん!格下狩りに関しては右に出る者がいません!」
「誰が雑魚狩り専門っすか!?こう見えて、私、結構強敵と戦っているっすよ!」
「でも、雑魚しか狩れていないですよね?」
「うぐっ!」
ルルは言葉のナイフでレイの傷口を容赦なく抉る。
「騎士団長にもカナリアっていう自称神様にも負けていますよね?覚えていないですけど、それ以外でも結構負けていますよね?」
「そういう言葉責めは欲しくないっす!メス豚とかマゾとかそっち系の罵倒が欲しいっす!」
「レイさん、言葉責めというものは相手を喜ばせるものじゃないんですよ。相手を辱めるためのものなのです」
「お前ら、ここに羞恥プレイしに来たのか?」
ルルを狙う騎士団員を黄金の竜巻で吹き飛ばしながら、俺は溜息を吐き出す。
レイは涙目になりながら、迫り来る騎士団員達に殴打を浴びせた。
「コウさん!あっちから魔術による攻撃が飛んできています!」
ルルの指差す方向に向かって、指を鳴らす。
指パッチンと共に発生した黄金の竜巻は、一瞬で飛んできた火の矢・氷の槍・雷の剣を粉々に砕いた。
「うおっ!?危ないっす!」
襲いかかる騎士団員を殴っていたレイの頬に岩でできた矢が掠る。
攻撃が飛んできた方に視線を向けると、そこには両腕を妖しく光らせる騎士団員──先程、俺が黄金の竜巻で鎧と剣を砕いた奴等──が立っていた。
「くそ!数が多過ぎる!」
火の矢や氷の槍などの飛び道具を使ってきた敵を黄金の竜巻で吹き飛ばす。
「コウさん!ここから離れましょう!この人数相手に不殺は無理です!」
「それは無理だ!ここでこいつらを無力化しないと、後々面倒な事になってしまう!」
黄金の竜巻で敵を遠くに吹き飛ばすも、敵はすぐさま飛んで戻って来てしまう。
(くそ……!想定していたよりも数が多い……!!)
読みが外れた。
恐らく正門よりも此方側に戦力を注いでいるのだろう。
想定した数の2〜3倍の数の騎士団員が、万全な装備状態でないにも関わらず、俺達に襲いかかる。
敵の瞳を覗き込む。
彼等の瞳には騎士団長の姿が映っていた。
「ちっ……!騎士団長の仕業か……!」
敵が多い理由を察する。
俺の予想が正しければ、これは騎士団長の作戦だ。
想定以上に敵が多いのは、恐らく俺という脅威を足止めするため。
彼女は自分が負ける事を見越して、この作戦を立案したのだ。
「作戦負け、……か!」
指パッチンにより生じた黄金の竜巻を地面にぶつける。
そうする事で俺は砂埃を広範囲に撒き散らした。
砂埃に紛れる形で俺はレイとルルを回収する。
その時、俺の脳裏に騎士団長の言葉が過った。
『実戦経験が足りな過ぎる』
『才能に頼り過ぎている』
『人を殺す覚悟を持ち合わせていない』
今になって、ようやくこの言葉の意味を実感する。
ああ、確かにこれは俺の弱点だ。
油断と慢心と違い、一朝一夕で克服できるものではない。
彼女はその弱点を突くため、この作戦を立案したのだろう。
自分の守りたいものを確実に守るために。
(くそ──!)
戦士としても軍師としても優秀な彼女に敬意と苛立ちを覚えながら、俺はこの状況を覆す策を練り始める。
(恐らく俺達を見失ったら、城壁の内側に戻るように指示しているだろう。なら、この場に残って闘うのが最善か?時間はまだある。敵の体力も無限じゃない。このまま吹き飛ばし続けた方が確実なんじゃ……?)
考える。
だが、俺はリリィのように頭が切れる訳でもなければ、騎士団長のような歴戦の猛者でもない。
故に現状維持以上の作戦が思い浮かばな──
「ほら、ボサッとしないで、こっちに来る!」
聞き覚えのある声が聞こえて来る。
そちらの方に視線を向けると、自称神様──の声をしたオオカミのぬいぐるみが地面の上にポツリと置いてあった。
「ほら、私の背後に穴があるでしょ!?そこに飛び込んで!早く!」
オオカミのぬいぐるみの背後を見る。
砂埃の所為で、薄らしか見えなかったが、確かにぬいぐるみの言う通り、黒い穴みたいなものがあった。
「この穴は真王城に繋がっているわ!ここは私に任せて、早く穴に入って!」
「で、でも、お前、闘えないんじゃ……」
「強力な助っ人を呼んだから、大丈夫よ!足止めはその助っ人がする!だから、早く中に入って!」
自称神様に急かされる形で、俺はレイとルルを抱えたまま、穴の中に入る。
穴の中に入った瞬間、黒を基調とした異空間と辺り一面に散らばった固形化した極光が俺達を出迎えた。
「ここを真っ直ぐ行ったら、真王城に辿り着くわ」
固形化した極光の上に乗った自称神様──ぬいぐるみではなく彼女本体──が、俺達にこの異空間から出る方法を伝授する。
「でも、あいつらを足止めしないと、リリィを助けた後に苦労する事にな……」
「そこら辺は大丈夫よ。今、強力な助っ人があいつらを足止めしているから」
「強力な助っ人って誰っすか?」
「あんたらも知っている人よ」
「平行世界の俺か?」
「惜しいけど、違うわ」
そう言って、自称神様は俺達が入ってきた穴の方に向かい始める。
「私は助っ人の手助けするから、あんたらはさっさと偽物の方を助けに行きなさい。ある程度終わったら、そっちに向かうから」
「だから、誰っすか、強力な助っ人って」
「──悪役令嬢を拾った男よ」
その言葉を最後に自称神様は俺達の前から姿を消した。
「誰っすか、悪役令嬢を拾った男って」
「そりゃあ、"俺"だろ」
俺の言葉を理解できなかったのか、レイとルルは可愛らしく首を傾げた。
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次の更新は明後日12月30日20時頃に予定しております。




