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神域と数百の敵と手加減

「いいのか?彼女を拘束しなくて?」


 気絶している騎士団長を横目で見ながら、オークキングは俺に疑問を投げかける。


「拘束する必要はない。だって、あいつは既にボロボロなんだから」


「は?ボロボロ?」


「俺とやり合った時の傷が癒えていないんだよ、こいつ」


 青白い顔をしている騎士団長を眺めながら、俺は事実を淡々と告げる。


「だから、こいつがコツを掴むよりも先に勝負をつけさせて貰った」


「コツ?それって"神域"の事か?」


「ああ、そうだ」


 神域に至った時の事を思い出す。

 "あれ"はほんの一瞬の出来事──ルルの強化魔法を受けた魔王と闘っている途中に起きた。

 あの時、俺は唐突に見知らぬ空間に放り出された。

 膝の丈まで伸びた草原と月しかない夜空が特徴的な空間に。

 そして、俺はそこで出会った。

 桃色の竜と。

 俺達人類の始祖である全能の生命体──"フィアナ"と。

 その竜を見た瞬間、俺は本能的に理解した。

 あの竜が俺達人類の始祖である事を。

 あの竜の力により、俺達人類が生まれた事を。

 リリィが扱う魔術も、ルルや魔王達が酷使する魔法も、平行世界の(あのフクロウ)や俺が扱う黄金の風も、全部あの竜から派生したものである事を。

 俺はそれを本能的に理解した。

 理解した瞬間、俺は元いた場所に戻された。

 黄金の太刀── "天乃叢雲(つむがり)(つるぎ)"を握った状態で。


「……にしても、凄いな」


 オークキングは真っ二つに割れた地面を見ながら、驚きを露わにする。


「たった一撃で地形を変えるとは……」


 オークキングの瞳に映し出されたのは、斬撃波により両断された大地と斬撃の余波により薙ぎ倒された木々、そして、前方を覆い尽くす土煙。


「あの斬撃はどこまで飛んでいったんだ?城壁を破壊できたのか?」


「いや、壁に大きな凹みを作っただけだ。破壊してしまうと、城壁の破片が壁の内側にある民家に飛んでしまうかもしれないし。敢えて破壊しなかった」


「……やろうと思えば、破壊できたのか」


 俺の放った黄金の斬撃波──"草薙(くさなぎ)により生じた結果を見て、オークキングは顔を青褪める。

 そりゃあ、そうだ。

 これを放った俺でさえ自分自身にドン引きしているのだから。

 

「──っ!コウくん!」


 オークキングが指差す方向を見る。

 先ず目に入ったのは空を飛ぶ鎧武者の姿だった。

 両の手を使っても数え切れない数──恐らく100は超えている──の鎧武者が、次々に壁を乗り越え、宙を滑空する。

 当然、目的地は敵対者である俺達。

 彼等は鎧で身を覆った状態で装飾過多な剣を握り締めると、地に足を着けたままの俺達目掛けて飛翔する。


「オークキング、伏せてろ」


 俺は太刀を持っていない左手の指を豪快に鳴らす。

 渇いた音と共に生じた黄金の竜巻は、あっという間に飛翔する鎧武者達の制空権を奪うと、瞬く間に彼等の身を覆っていた鎧を破壊し尽くした。


「なっ……!?指を鳴らしただけで数百人もの騎士達を……!?」


 上空から聞こえて来る戸惑いの声と悲鳴を聴きながら、俺は再び指を鳴らす。


「こうしないと、殺してしまうからな」

 

 再び壁の内側から現れた鎧武者に黄金の竜巻を喰らわせる。

 先程と同じように鎧武者から鎧と武器を剥ぎ取ると、俺は彼等を優しく地面に叩き落とした。


「凄え……」


「よし、行くぞ」


 感心するオークキングの手を掴んだ後、俺は指パッチンにより竜巻を引き起こす。

 竜巻により砂埃を巻き起こした後、俺はオークキングを引き連れて近くにあった森の中に隠れる。

 そして、木と砂埃で身を隠しながら、城壁の方に向かって走り始めた。

 慣れない森の中を走りながら、敵──騎士団員達の動向を伺う。

 武器と鎧を砕かれた挙句、俺達を見失った敵はかなり動揺していた。


「なあ、コウくん。あいつらと闘わないのか?」


「まだこの力に慣れていないから闘いたくない。下手したら、あいつらを殺してしまう」


 今の俺にとって有象無象の輩と闘う事は、足下に群がる蟻を踏まないように歩く事と同義だ。

 かなりの集中力を要求される上、無駄に体力を消耗してしまう。

 だから、なるべく闘いたくない。


「それに時間の無駄だ」


 俺達の話し声を聞きつけた敵──鎧も武器も身につけていない目の据わった騎士団員──が襲いかかる。

 俺は軽く左指を鳴らすと、襲いかかってきた騎士を黄金の風で吹き飛ばした。

 指パッチンした所為で、敵に自らの居場所を教えてしまう。

 鎧と武器を失った数十人の敵は、すぐさま俺達を取り囲むと、連携の取れた攻撃を繰り出してきた。

 それを指パッチンにより引き起こした竜巻で撃退する。

 強風に煽られた数十人の敵は、後方に吹き飛ばされると、木の幹や地面に衝突してしまった。

 人の気配を感じ取った俺は、後方に視線を向ける。

 すると、矢の形を象った無数の炎が視界に飛び込んできた。

 雨のように飛んでくる炎の矢を指パッチンで引き起こした竜巻で搔き消す。

 そして、次の攻撃を繰り出すよりも先に指を鳴らすと、再び砂埃を巻き起こした。

 再度敵の目から逃れた俺とオークキングは再び森の中を駆け始める。

 だが、今度はすぐに見つかった。

 武器も鎧もないまま、敵である男が砂埃の中から現れると、俺に殴打を浴びせようとする。

 俺はそれを紙一重で避ける──今の俺に触れてしまうと、身に纏っている不可視の風により敵の拳が潰れてしまう──と、すぐさま指パッチンにより生じた竜巻で敵を吹き飛ばした。


「……ああ、もう拉致が明かねぇ」

 

 次々に襲いかかってくる武器なし鎧なしの騎士団員を睨みながら、俺は指を鳴らし続ける。

 黄金の竜巻で敵を次々に吹き飛ばすも、吹き飛ばすだけでは敵を戦闘不能状態にする事はできなかった。


「オークキング、邪魔だ」


「へ?」


 右手で握っていた太刀を強く握り締める。

 

「先に行ってろ。ここは俺が何とかする」


「はぁ!?何を言って、……」


 指パッチンにより生じた黄金の竜巻で近くにいたオークキングを城壁の内側目掛けて吹き飛ばす。

 一応、彼が墜落死しないように彼の身体を黄金の風で包んだ。

 仮に地面に衝突したとしても、彼の身体に纏わりついている黄金の風が地面衝突の際に生じる衝撃を吸収してくれるだろう。

 少しだけ自由になった俺は太刀を逆手に持ち直す。

 そして、太刀を地面に突き刺した。


「"風斬(ふうぎり)"・(いん)


 "風斬(ふうぎり)"を応用した技で砂埃を広範囲に巻き上げる。

 敵の視線から逃れる事に成功した俺は、城壁の方に向かって走り始めた。

 が、進行方向に突然隆起した地面が壁のように立ちはだかったため、俺の足は一瞬止まってしまう。

 その隙を見逃す事なく、敵である騎士団員達は素手で俺を制圧しようとする。


「くっそ……!」


 "今の俺──不可視の風を身に纏う俺の身体に触れたら彼等が重傷を負ってしまう"。

 たったそれだけの理由で俺は回避を選択する。

 進行方向に立ちはだかる土の壁を壊す事は容易い。

 しかし、火力を調整しなければ必要のない怪我人を出してしまう。

 強くなった弊害を今になって痛感する。

 強くなる前だったら、こんな事に躓かなかっただろう。

 適当に"風斬(ふうぎり)"を放っていたら、敵を倒せただろう。

 しかし、今の俺はそれができない。

 "風斬(ふうぎり)"でもない唯の一振りだけで、太刀を軽く振るうだけで岩塊を砕く事ができるのだ。

 そんな俺が迂闊に太刀を振ってしまったら、間違いなく死人が出てしまう。

 誰かが言っていた、"進化は前進でも改良でもない、環境に適合した結果である"と。

 "故に進化は時と場合によって後退する場合もある"と。

 俺は間違いなく進化した。

 しかし、その所為で今まで闘えた格下と闘えなくなってしまった。

 

(くそ……!これが人間相手じゃなかったら、太刀を振っていたのに……!)


 敵を殺さないように気をつけながら、俺は指を鳴らし続ける。

 が、敵を吹き飛ばすだけでは敵を無力化する事はできなかった。

 

(このまま城壁に向かうか……!?いや、ここでこいつらを倒さなきゃ、こいつらは地の果てまで追って来る……!レイやルル、そして、協力して貰っている魔王軍の事を考えると、ここで倒すのがベストな筈だ……!)


 考える。

 強くなり過ぎた自分にできる最善を考える。

 しかし、幾ら考えても良い案は1つも思いつかなかった。

 

(こんな時にリリィがいたら……!)


 そんな事を考えていると、上空から何かが降り落ちる。

 降り落ちた"何か"は俺にとって見慣れた奴等だった。


「ご主人、困っているっすね!」


「でも、大丈夫です!私達が来ましたから!」


「「そう!パーティメンバーである私達が!!」」


 ……地面から降り落ちた"何か"は、変態と腹ペコだった。

 彼女達は決めポーズを取りながら、俺にドヤ顔を見せつける。

 

「おい、作戦はどうした?」


「あ、待機するのに飽きたんで、こっちに来てみました」


魔王(おとうさん)と一緒に行動とか鳥肌立つくらい嫌っす!だから、途中で抜け出して、こっちに来たっす!!」


「お前ら、作戦をなんだと思っているんだ」


「「いずれ朽ち果てるもの」」


「やかましい」


 懐から取り出したハリセンで彼女達の頭を叩く。

 ……今頃魔王と愉快な仲間達は作戦の要であるルルとレイがいない事実に驚いて困惑しているだろう。

 最後の最後まで自由人である彼女達(こいつら)を見て、俺は胃を痛めてしまった。

 ……ごめん、リリィ。  

 俺、お前を救えないかもしれない。




 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。 

 恐らくStage8.0は残り3〜4話くらいで終わると思います。

 Stage8.0終了後、Final stageを8〜10話くらい投稿する予定なので、本編完結は来年1月中頃〜末になると思います。

 もしかしたら文章量が想定以上に膨らんで、1月中に完結できないかもしれませんが、更新スピードを落とさずに投稿していくので、もう暫くお付き合いよろしくお願い致します。

 次の更新は明日12月28日20時頃に予定しております。

 

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