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選択と最善と挑戦

 自称神様は見抜いていた。

 俺に覚悟がない事を。

 以前、レイの父である魔王は言っていた。

 "今までの生き方を貫くか、それとも今までの生き方を捨てるか"、そのどちらかを選ぶ時が来る、と。

 多分、今がその時なんだろう。


「あんたは偽物やこの浮島にいる赤の他人のために命を賭けられる訳?」


 その問いに即答できる程、今の俺に覚悟なんてものはなかった。

 ……俺はどうしたいんだろう?

 今まで震災孤児になった義父母に報いるために生きてきた。

 そのために俺は勉強とか色んな事を頑張った。

 義父母が誇りに思えるような息子になろうとした。

 けど、ここで死んでしまったら、彼等に報いる事はできなくなる。 

 始祖ガイアとやらの顕現を阻止出来なかたら、彼等に危害が及ぶ。

 近くにいたら義父母達を始祖ガイアとやらの魔の手から守れるかもしれない。

 けど、もしリリィの救出を優先したら助けられないかもしれない。

 だったら、自称神様の言う通り、下界に帰るべきだ。

 帰る手段もある。

 俺よりも強い自称神様や平行世界の(あのフクロウ)がいる。

 ここでリリィを助けないという選択肢を選んでも誰も俺を責めたりしないだろう。

 だって、俺には関係ない話なのだから。

 今までの生き方を貫いた所で、何も問題ない筈だ。

 

(……でも、)


 レイとルルの方を見る。

 もし俺がここから立ち去っても、彼女達はリリィの救出に向かうだろう。

 下界から来た俺と違い、彼女達は浮島(ここ)で生まれ育ったのだ。

 俺にとって関係ない話であっても、彼女達にとって関係のない話じゃない。

 それに、このまま放置していたらリリィは死んでしまうかもしれない。

 今まで一緒に旅してきた彼女を、形はどうであれ、俺に好意を向けていた彼女を見捨てる事ができる程、俺は人でなしなんかじゃない。

 彼女を助けたい気持ちは、ある。

 けど、その選択肢を選んだ場合、俺は死んでしまうかもしれない。

 義父母に報いる事ができなくなるかもしれない。

 仮に死ななくても、最悪の場合が起きた場合、義父母を守れなくなるかもしれない。

 でも、義父母を優先したらリリィが、……


「大丈夫っすよ、ご主人」


 思考がごちゃごちゃになっている俺にレイは俺に声を掛ける。


「私達がお嬢を救うっす。だから、ご主人は……いや、コウさんはやりたいようにしてください。あの憎たらしい自称神様をこき使ったら、多分、お嬢を救えると思いますし」


 レイは俺の選択を尊重する。


「そ、そうです!だから、コウさん、自分の気持ちに素直になってください。自分の思った通りに動くのがベストですよ」


 ルルも俺の選択を尊重してくれた。

 ……なら、彼女達に託すのもアリかもしれない。

 最悪の場合に備えて、下界に向かうという選択もアリかもしれない。


(ああ、……でも)


 砂漠の迷宮で見た助けを求める魔人達の姿が脳裏を過ぎる。

 あの時、俺は彼等を助けようとも思わなかった。 

 いや、あの時だけじゃない。

 震災の時も、だ。

 俺は実の家族を見殺しにした。

 瓦礫の下敷きになった両親と姉から目を背けた。

 両親に言われるがまま、俺は避難所に行ってしまった。

 避難所の外で人々が苦しんでいるのを知りながら、俺は何もしなかった。

 今の状況はあの時と同じだ。

 助けられる(ちから)がある。

 助ける理由もある。

 助けたいと思う気持ちも。

 けど、致命的に覚悟だけが足りなかった。

 人の命を救うという覚悟。 

 自分にとっての最善を選ぶ覚悟。

 でも、どっちを選んでも後悔が残るような気がする。

 最悪の事態が起きなかった場合でも、だ。

 義父母を選んだとしても、リリィを見捨てたという後悔が付き纏う。

 リリィを選んだとしても、恩人である義父母を軽視したという後悔を抱いてしまう。

 ……どっちを選んだら良いのだろうか。

 どれを選ぶのが最善なんだろうか。

 考える。

 けど、幾ら考えても答えは──


『なあ、そっちの俺』


 今の今まで沈黙を貫いていた平行世界の俺──今時の大学生みたいな格好をした俺。本物のリリィに好意を抱いている──が俺に声を掛ける。


『そっちの世界の姉ちゃんがどうなのか知らないけど、こっちの世界の姉ちゃんは俺が中学の時に自殺してしまったんだ』


 本物のリリィの隣にいる平行世界の俺が、パソコンの画面越しに話しかける。


『自殺の原因はイジメだった。こっちの世界の姉ちゃんは心の病を患って、死んでしまったんだ』


 平行(ちがう)世界の俺は優しい口調で俺に語りかける。

 彼の表情は罪悪感に満ち溢れたものだった。


『俺にとって姉ちゃんは大切な家族だった。だから、幸せになって欲しいと思っていたし、本気で"長生きしてもらいたい"と思っていた』


 俺だって、そうだ。

 俺も姉に幸せになって欲しいと思っていたし、長生きしてほしいと思っていた。

 

『──思っていただけだった』


 俺の心の声に被せる形で、平行世界の俺は苦笑いを浮かべる。


『俺は──俺達家族は、自分の思いを押しつけただけだった。その結果、俺達家族は苦しんでいる姉に気づけなかった。追い詰められている彼女のために具体的な行動をする事ができなかった。……俺も父さんも母さんもも最期の最後までSOSに気づく事なく、姉ちゃんを見殺しにしてしまった』


 震災と人災。

 形は違えど、平行世界の俺も俺と同じように姉を見殺しにしていた。

 その気持ちは何となく理解できる。

 多分、彼も覚悟がなかったんだろう。

 姉と向かい合う覚悟を。


『説教臭い言葉だけど、これだけは言わせてくれ。思っているだけじゃ何も変えられない。どれだけ長生きして欲しいって思っても、思っているだけじゃ唯の自己満足だ。誰のためにもならない』


 でも、彼は違った。

 姉を見殺しにした痛みを教訓に変えていた。

 そして、今、彼は自分と同じ失敗をしないように俺を導こうとしている。


『そっちの俺は長生きして貰いたい相手がいるか?』


「……いるよ、少ないけど」


『なら、それがお前の答えだろ』


 平行世界の俺は言葉を選びながら、優しく俺に語りかける。


『挑戦しろよ、そっちの俺。その答えが最善になるように』


 彼が伝えたい言葉を伝え終えた瞬間、パソコンの画面が真っ暗になった。


「あ、やべ。通信切れた」


 自称神様はパソコンを軽く叩く事で、通信を繋ぎ直そうとする。

 それを眺めながら、俺は右の拳を握り締めた。


「……思っているだけじゃ変えられない、か」


 たとえ間違っていたとしても、最善の道を選ぶ事ができなくても、選択しなきゃ何も変える事ができない。

 平行世界の俺が告げた言葉は、俺が聞いてきたどの言葉よりも重く深く突き刺さった。

 

「……長生きして貰いたい奴がいる。それで良いじゃねぇか。動く理由なんて」


 右の拳から黄金の風が少しだけ漏れ出る。

 それを見たルルとレイは目を大きく見開いた。


「……決まったみたいね」


 俺の覚悟が決まった事を自称神様は肌で感じ取る。


「ああ、ごちゃごちゃ考えるのは止めた」


 長生きして貰いたい人がいる。

 そして、今、長生きできないかもしれない人がいる。

 なら、今の俺がやりたい事は唯1つだ。

 この選択は最善じゃないかもしれない。

 もしかしたら俺が行動しなくても良いかもしれないし、俺が行動した所為で最悪な状況に陥るかもしれない。

 それでも、今、俺が1番やりたい事は。

 今の俺が挑戦したい事は。


「俺、行くよ」


 東の空に視線を向ける。

 藍色の空には無数の星と欠けた月が浮かんでいた。

 ルルとレイ、そして、自称神様の顔を見ながら、俺は自分が出した答えを口にする。


「──あのバカを助けに」




 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを書いてくださった方、本当にありがとうございます。

 今回の回でStage7.5はお終いです。

 次回更新予定の話からstage8「■■■」を始める予定なので、よろしくお願い致します。

 また、今回のStage7.5は月〜火かけて推敲し直します。

 大幅に書き直す予定(本筋は変わりません)なので、書き直した際はTwitter(@norito8989)で告知致します。

 次の更新は12月22日水曜日12時頃にやる予定です。

 次の章では本作品のラスボスが出てくる予定なので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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