協力者
外は赤みがかって、人の増えた大通りの賑わいはウェンの家にまで伝わって来た。
本当は人混みの中を歩きたくないのだが、今回ばかりは仕方ない、とウェンは支度を整えた。
紺色の上着を羽織り、所持金を確認するが、今手元にある金額では心もとない。
仕方ないので、ウェンは『ギルドカード』を使うことにした。『ギルドカード』はこの街の証明書の様なものだ。自分の魔力を登録することにより、身分証明やギルドに預けている金で買い物が出来る。
支度が終わったウェンが玄関げと向かおうとすると、リーフが再び全身鎧姿になっているのに気付く。
「まさか、その姿で行くのか?」
「透明化出来るのはあなたも知っているはずです」
「……わかった。じゃあ出発だ」
言葉ではそういうものの透明化はウェンにとって予想通りだ。むしろそうしてくれないと困る。
ウェンがドアを開けると同時にリーフの姿は視界から消えた。
ウェンの家の前の通りは、裏通りなだけあって人が少なかったが、一本横の表通りとなると人の流れで地面が見えなかった。
道の両側にはそれぞれ二階から三階建ての煉瓦作りの建築物が並んでいる。レンガの色はそれぞれで、店によっては独自に装飾を行っているところもあり、全体的に華やかな街並みといえるだろう。
(とりあえず最低限の生活用品と食料だな)
辺りを見渡すウェン。夕日の赤みが周りの建物たちのレンガに染み込んでいる様を見つつ、ウェンは二つの目的地を決めた。
道の人通りはあと少し待てばさらに酷くなるだろう。反対側へと渡るならその時が最適だ。ウェンは先に自分が今いる側の店に入ることにした。
生活用品を売っている店で適当に買うものを選ぶウェン。今家には何もないのだ、買って困るものはそうそうない。
(そろそろか)
ウェンは通りを観察する。先ほども人であふれていた道が、今ではさらに増えている。その様子から道の許容量が悲鳴をあげているのがわかる。
素早くカードで会計を済ませ、店を出る。目標は二百メートル先、向こう側にある裏路地への交差点だ。
店と道との間すら人の流れが耐えない状況こそ、ウェンが待ち望んだものだ。リーフの気配は何となく掴むことができている。今リーフはウェンの真後ろにいる。
道行く人の流れを割いて、向こう側を目指すウェン。リーフがなんとかウェンの後ろを追おうとするのがわかるが、ただでさえ通りにくい人混みなのに透明化しているリーフは、他の人から避けられることはない。次第に距離が離れていった。
「あ、ちょっと……」
そんなリーフの訴えはいつしかウェンには聞こえなくなるほどに遠ざかる。
ウェンは何とか目的地、人通りが少なくなる裏路地の入口についた。裏路地には入らず、その真横の壁に寄りかかるウェン。遠くの様子をみると、絶え間なく続く人通りにぽつりと小さな穴が開いているのがわかる。あれがリーフの現在位置だろう。あの様子だとここまで来るのにあと二分はかかりそうだ。
「いきなり呼び出すなんて、こっちの都合も考えてほしいわ。ホント」
「悪いな。監視役がいるせいで自由にコンタクトをとれないんだ」
女の声が裏路地から聞こえる。
ウェンは大通り側に寄りかかったまま、女の顔を見ず話しを進める。
「それで?要件は?」
「助けてほしい。イステル」
ウェンはそういうと、アハッ!と邪悪さを帯びた笑いが聴こえてきた。
イステルと呼ばれた女は一通り笑い終わると話を続けた。
「君が私に助けを求めるなんて、世の中何が起こるかわからないものね」
「こっちの状況はわかっているはずだ。とにかくやってくれるのか?」
「ええ、いいわよ。大方今の君じゃ報酬は払えないだろうけど、貸しにしといてあげる。それで何をすればいいの?」
「話が早くて助かる。リーフがここまで来るのにあと一分程度だ。手短に話すぞ」
「リーフ? ああ、【女神騎士】の監視役ね。もう名前で呼ぶような仲になれたんだ?」
焦るウェンとそれを茶化すイステル。イステルに構わずウェンは話を続けた。
「そんなことはいい。俺が嵌められた事件と容疑者の情報、それに関係している可能性がある組織の情報を出来るだけ集めてほしい。不要だと思っても事件に関係してれば集めてくれ」
「必死だねぇ、無実の証明ができなきゃ四か月後にはまた死刑囚なんだから当然か。いいよ、調べといてあげる」
「それからあと一つ」
そういってウェンは裏路地側に自分の左手を差し出した。
「この腕輪についてもだ。おそらく魔王が作った物だ、リア神父達が知らない解除方法があるかもしれない」
「間違いなく魔王製だね。とりあえず調べてみる。……と、そろそろあなたの相方が着きそうね。一通り調べたら報告するわ」
そう言ってイステルは裏路地の奥へと消えた。
ふぅ、と思わず安堵のため息が出るウェン。透明化の少女はやっとのことでウェンのいる裏路地の入口へとたどり着いた。