盗賊のアジト
その顔立ちもあり、魅力的な笑顔にウェンは、
(よかった。鎧で表情が読めないからロボットのような印象だったが、やはり表情があるとわかりやすい)
と、安堵した。
「確かに。でも、王宮では握手できなかっただろ?」
ウェンはそういって自分の両手を動かして見せる。
自由になったウェンの両手を見て、リーフは左腕を指さす。
「でもそれも忘れないでほしい。今のあなたは自由ではありません」
「ああ、わかってる」
ウェンは自分の左腕に付けられている腕輪に触れる。
この忌々しき腕輪はウェンの魔力を封じている。実はウェンは先ほどから何度もこの腕輪を外そうと試行錯誤しているが、情報が少なすぎる為に外れる気配はない。
おそらく、これはリア神父の作ったものではないとウェンは推察する。材質といい、効力といい王宮の地下牢の特徴に酷似しているからだ。つまり魔王の作った装備、ガラド王には皮肉を言ったつもりが本当に呪いの装備を渡されたというわけだ。
(今はとにかく外す方法を探さなくては)
魔王の道具は総じてリア神父が管理している。外せる人間は彼が第一候補であることは間違いない。
そして、目の前に居るリーフ。彼女はリア神父の部下ではないが、優秀であることや監視役であることを考慮に入れると腕輪を外せる可能性は高い。事実、この腕輪を付けたのはリーフだ。
(リーフに直接聴いてみるか?)
ウェンは思料しつつリーフを見ると、興味深そうに部屋をキョロキョロと動き回っていた。
止めておこう、とウェンははやる気持ちをおさえる。
仮にリーフが腕輪を外せるとして、今一番大事にすべきはリーフの信頼を得ることだ。いきなり腕輪から逃れる方法を探していると思われるのは、これからの行動を考えると得策でない。
「何もない部屋だと思うけど、なにか面白いものでもあった?」
相変わらず部屋を巡回するリーフにウェンは問いかけた。
「……綺麗に整頓されているというか、全体的に家具がないですね」
「まぁ、押収されたみたいだ」
「押収?普通ここまで持っていかないと思いませんが」
「うーん、ロンドの嫌がらせかも」
ウェンが冗談めかして言う。
「それはいくらなんでもやりすぎです。私が返してもらってきましょう」
「いや、ロンドかどうかはわからないし、物も古かったから丁度いいよ」
「でもーーーー」
「それに四ヶ月後にはまた塀の中かもしれない。申請なんかに時間をかけたくないし、【騎士】の反感を買う真似はしたくない」
納得のいってないリーフが何か言いかけたところでウェンが遮った。
「わかりました。あなたがそう言うなら何もしません」
リーフはそういいつつ、少し不満な顔をしている。
「確認したら一応金はそのままだったから買い物に不便はないと思うし、俺は大丈夫だから」
「そこまで言うなら。でも新しく買うのも大変だと思いますよ?しかも2人分も」
「え……2人?」
リーフの予想外の言葉をウェンは聴き返した。
「? はい」
「君もここに住むってこと?」
「そうなります。あなたの監視役だから当然だと思いますけど」
嘘だろ、とウェンは頭を抱える。もちろんウェンもその可能性は考えていた。
しかし、それはリーフの素顔を見るまでの話だ。リーフの顔を見るとともにその可能性はウェンの中で自然と無いものとして考えていてしまっていた。
「せめて隣の家にするとかダメかな?」
「有事の時に隣の家だと間に合わない可能性があります。こればかりは私の判断ではないですし、譲歩できません」
「……わかった。ああ、それなら二階は寝室だったんだが、俺は一階で寝ることにするから自由に使ってくれ」
ウェンは諦めたようにリーフに言う。その言葉に少し嬉しそうに二階への階段を見るリーフ。
一階の様子から考えるに、二階も何もないのだがリーフにとっては【盗賊】の部屋は物珍しいのかもしれない。
「取り合えず見に行ってみるか」
ウェンはそう言って階段に足を運ぶ。少し遅れてリーフが後を追った。
二階に続く階段は思ったよりも綺麗で、埃もそこまで目立たない。手すりのない階段を登りきるウェンとリーフ。一階に比べて窓の少ない二階は照度は低いように感じるが、茶色の木目調の壁やアンティーク家具たちが落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「……綺麗」
リーフが言葉を零す。
「二階の物はそのままみたいだな。大きい家具を買い直さなくてよかった」
「これ、とても希少なものじゃないですか?」
リーフは部屋の中の家具を観察する。
「希少品の収集は【盗賊】の性だからな、気に入った?」
「ええ、素敵な雰囲気です」
「俺は行ったことはないが、女神の神殿はそれはそれは神秘的なんだろ?【女神騎士】のリーフなら綺麗なものなんて見飽きていると思っていたが」
「確かにアーリーメージの神殿は綺麗です。でもこういう落ち着いた雰囲気は味わえません」
と、食い入るようにアンティークを見るリーフ。そんなもんかと、ウェンは思いながら段々と日が傾いてきたのに気付く。
「そろそろ必要なものを買いに行かないとまずいな」
「明日でもいいと思います。あなたは今日は疲れているでしょうし」
リーフが提案する。しかし、今この家には今日を過ごすことすら難しいほど物がない。
「流石に今のままだと物がなさすぎる。それに必要最低限のものだけなら近場で揃えられるハズだ」
「わかりました、それなら行きましょう」
リーフは家具から離れ、一階に降りようとする。
リーフが階段を降り始めると、ウェンは急いで部屋奥の古い置き時計を確認する。カチ、カチ、と一定のリズムを鳴らす時計の裏蓋を外す。折り畳まれた白い紙が一枚出てきた。
「ウェン?」
降りる気配のないウェンに、リーフが呼びかける。
ウェンは急いでその紙を紙飛行機に折り直す。そして横にある窓を開けた。
「あ、ああ。窓を開けてから行くよ。少し埃っぽいから換気したい」
リーフの呼びかけに答えるウェン。
(イステルの元へ)
ウェンは持っている紙飛行機に念じて、勢いよく窓から投げた。
紙飛行機が見えなくなるのと、リーフが二階に戻ってくるのは殆ど同時だった。
「ごめん、今行くよ。この景色もなんだか懐かしくて」
「……ええ。気持ちは分かりますが、急ぎましょう」
リーフに続いて、ウェンも階段を降りた。