前略、牢屋より
「後悔している」
薄暗い、牢の中。食料を届けに来た看守に気晴らしで話しかけた。
「人を殺したことをか?」
この看守は他と比べて気のいい若い看守だ。暇を潰す相手には丁度いい。
「殺してない。……助けようとしたことを後悔しているんだ」
雨の日だった。
いつも通っていた道。今や思い出すだけで懐かしいが、その日は突然大きな物音がした。
駆けつけると人が倒れていて、ナイフが落ちていた。状況が飲み込めなかった。倒れている人は無数の刺し傷があり、かなり危険な状態なのは目に見えていた。
いや、もしかしたらもう亡くなっていたかもしれない。
しかし、そんな思考は直後に聴こえた後ろから誰かが走ってくる音で消された。瞬時に落ちていたナイフを拾った。俺ならまるで最初から何も見ていない、通っていないかのように逃げることだって簡単だった。
でもこの人を守らないといけないと感じた。とっさの判断を間違った。
駆けつけた兵隊達に俺は殺人の容疑者として連行された。
殺人犯として、言い分も通らず言い渡されたのは極刑だった。
暗い、質素な部屋の中。ネズミ一匹もいない静寂の空間。まるで世界のすべてを奪われたかのように空白の時間を過ごす青年のもとに、カツカツ、一定のリズムが鉄格子を越えて聴こえてくる。
「出ろ」
見るとこの薄暗い牢屋を見下すように男が立っている。
グリーンを基調とした高そうな制服に身を包み、帽子を深く被っている男の顔は見えないが、この王宮の兵士であることは疑いようがない。
「聴こえないのか、108番」
(聴こえていなければどんなにいいだろうか)
呆れながら男の前に歩き出す。
「俺の感覚が間違ってないなら、処刑の日は当分先のはずだ」
「いいから、出ろ」
問答無用、と兵隊はこちらを見ることもせず牢の鍵を開ける。
はいはい、と言われるがままに牢を出る。
「まて、後ろで手を組め」
兵士の言葉に大人しく従う。ガチャン、と重苦しい金属音が聴こえた。見えないが恐らく魔力を封じるための手錠だろう。
「行くぞ」
手錠が外れないことを確認した兵士はそう言うと階段の方へ歩き始めた。
薄暗い地下牢にいい思い出は今のところないが、のこのこ付いて行って処刑されては笑えない。
「なぁ、説明ぐらいしてくれてもいいだろ」
そう言うと兵士はやはりこちらをチラリとも見ず、
「王が引見を希望されている」
といい、またリズミカルに歩き始めた。
(今更、王様が何の用だ)
口数の少ない兵士からそれ以上有益な情報は得られえそうにはない。
黙って兵士の後ろを歩いていく。
階段を上り、厳重なドアを開けると三ヶ月ぶりの青空が見えた。