しるこ姉さん
そうね。しるこ姉さん、おもちの数は、いつも二個だった。だからこんなにエロいんだろうなあって、みんなでわいわい騒ぎたてて、そしたら姉さん、
「女をほめてどうすんの?」
って、ひとりひとり、おでこを指でつついてた。それがうれしくて……わたしたちは、しるこ姉さんのことが大好きだった。
姉さんにかまってもらいたくて、ちょっとでも余裕があったら話しかけてた。美肌の秘訣なんかをたずねたりもしたかな。姉さんの腕をとりながら、どうしたら姉さんみたいなもちもちの白肌になれるんですか~って。
「こ~ら、だれがうさぎさんやの」
って、叱られるのも楽しくて、ぷんぷんする姉さんは、どことなく幼くみえたかな。ほんとの年齢は、わたしたちより若いかもっておもったくらい。口にはしなかったけどね。
スキンシップが激しい? わたしはまだ可愛いほうで、どうしたらこんなに胸が大きくなるんですか~て質問しながら、姉さんの胸に顔をうずめる子もいたし、姉さんもその子の頭をなでながら、
「角もちよりも丸もちのほうがええんよ」
って、こたえてくれた……そう、女は丸もち。しるこ姉さんの口ぐせ。
包丁はいれないほうがいい。切れば切るほど味は落ちる。内にうるおいがあるのなら、隠れるていど切れ目はいい。そこからきれいにふくらんで、きれいな形ができあがる。
しるこ姉さんは、いつも内側にうるおいを秘めていた。
「うちはぜんざいにはなられへんのよ」
そんな言葉を残して、姉さんはこの街を離れた。
満月の夜、涙をこぼした姉さんを、わたしは見たことがある。姉さんの過去に何があったのか、それをたずねるような真似はしなかったし、姉さんを探そうともしなかった。あなたがしるこ姉さんの行方を追っている理由も、たずねようとは思わない。
姉さんがどこに向かったか?
わたしが知っているのは、ちょっぴりしょっぱい姉さんが、だれよりも甘くてやさしいひとだったこと。理解できるのは、しるこ姉さんが、だれが惚れてもおかしくない女ということ。それだけよ。
でも、そうね。しるこ姉さんのおかげで、この街はすこしだけあったかくなった。きっと姉さんは、ここより寒い街にいる。そんな気がするわ。