表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

継縁神社物語 終

お待たせ致しました! これにて、祝☆完結です!

「瑞希・・・?」


竦み、顔から血の気が引いた斎の、か細く震えた声が、瑞希を呼ぶ。

ーーーーーーーー違う、斎は、もっと元気で生意気な、でも物静かな性格をしてる。瑞希にとって、兄のように慕う彼が、こんな顔をしている。それが、いくらお客様でも、許せなかった。


「勝手な事を言わないで下さい! ここは現実なんですよ? 物語の中じゃないっ!」


自分よりも幼い少女からの思わぬ反撃に、一瞬、少女は怯むものの、すぐにまた、迫力満載の吊り上がった目が、獲物として斎を凝視していた。美少年の斎を、自分の物にとか考えているのが、丸分かりである。少女の体から、黒い糸が斎を狙っているかのように、ユラリと立ち上がる。ピンと張り積めた空気の中、突然、柏手が二回、鳴り響く。黒い糸は、そのまま力を失ったかのように、たらりと垂れた。鳴らした相手は、柔和な笑顔のまま近くに立ち、突然の事に驚く三人をそのままに、優しい声で呼び掛けた。


「フフッ、瑞希の勇姿は見せてもらいましたよ、斎、落ち着いてよく見てごらんなさい、お客様には良くないモノを憑けていらっしゃるみたいよ」


あれ程、震えて竦み上がり、上手く動けなかった斎が、僅かに驚いて、御師匠様を見上げる。優しい顔に、先程まで動かなかった体から、無駄に力んでいた力が抜けた。


「斎、大丈夫?」


逆に不安そうな瑞希の表情に、俯いて歯を噛み締める。いつも妹のように思ってる、守るつもりでいた子に、守られているのだ。子供でも男としてのプライドが許さなかった。次に顔を上げて瑞希を見ると、そこには覚悟を決めた、幼くても凛々しい顔があった。


「ありがと、瑞希、・・・もう大丈夫」


ついでとばかりに、瑞希の頭をぐじゃりと撫でる。慌てて瑞希が手を払いのけようとするが、立ち上がった斎は、瑞希よりも背が高いため、上手くいっていなかった。


「二人とも、お客様の前ですよ、・・・・・神器を使う事を許可します、二人とも、いいですね」


御師匠様の有無を言わさぬ発言に、二人は密かにお師匠様がお怒りだ!! と、内心悲鳴を上げていた。勿論、斎は顔には出さなかったが、瑞希はピンと背筋が伸びた。怒りを顔や態度に出さないお師匠様だが、叱られた時はとにかく怖いのだ。笑顔のまま、素晴らしい迫力で叱られるのだ。二人は知ってるため、すぐに作法通りに家宝であり、神器と呼ばれる物を、恭しく手にした。

瑞希は、飾られている五色の紐が付けられた御鏡を。斎は大和の時代に作られたという古い型の日本刀を。御師匠様は美しい彫刻をなされた幅広の弓を、それぞれが手にする。


『鏡よ、真実を映したまえ』


瑞希の持つ御鏡は、普段は何も映す事はないが、とある時だけ正確にその姿を映すのだ。───────そう、真実を願った時だけ。


「なっ、何なのよっ!? そんな武器もって、何をしようというのよ!!」


彼女は取り乱しているが、それでもこちらに近付いては来ない。多分、憑いているモノが、嫌がっているのだろう。ここの空気に。勿論、武器となる物を自分に向けられている事もあるだろう。


「まあ、大丈夫ですよ、これはここの家宝でしてね、悪いモノを退治する時にだけ使うのですよ、──────さあ、御覧なさい、何が見えますか?」


優しく諭す御師匠様に、少女は睨みつけるが、鏡を見て、甲高い悲鳴を上げた。現実が見えたようである。彼女はここが、自分がヒロインの世界と思っていたようだが、そんな訳ない。現実である。そんな勘違いを与え、心の隙間に住み着いた妖は、忌々し気に此方を睨みつけた。


『─────久方ぶりの餌であったのに、邪魔をしよって!!』


こういった妖は、鏡に映されると、正体がバレて、その体に居られなくなる。自分から知らない声が聞こえた上に、黒い霧が風となって吹きすさぶ事態に、流石に少女はパニック状態になっているのか、必死で頭を振っていた。


「何よ、これ・・・あたしは知らない、あたしはヒロインでしょ? 何なのよ、これっ!?」


『チッ、もう少しで混乱に陥れてやれたものをーーーーーー!!!!』


忌々し気に、少女の体から出た妖は、不気味な霧のまま、少女の頭上を旋回する。唸るような風の音と、実体のない妖が動き回る所為で、室内は異様な事になっていた。とはいえ、ここは強固な結界が張られているため、他の部屋に妖が行く事はない。あらかじめ、依頼人には呼ぶまで来ないようにお願いしている。初めて目にした妖に、少女は耐えられなかったのか、そのまま気を失って倒れてしまった。


「あらあら、ダメですよ、オイタをしては」


ピーンという、独特の音を出すそれは、弦の音だ。何度となく鳴らされる音に、妖が苦悶の表情を見せ、動きが止まる。弦の音は、昔から縁起物とされ、よく鳴らされてきた。ここでも勿論、例外ではない。先程まで、あれほど縦横無尽に辺りを飛び交っていた黒い霧、瘴気も同時に動きを止めている。


『御鏡よ、彼の者の動ぎを封じ給え!』


絶妙のタイミングで、瑞希が鏡を使い動きを封じる。そこに、妖を前に、少々大きいサイズの日本刀を持った斎が動く。その動きは、武術を嗜むものの動きだ。斎は何か口中で唱えると、日本刀が輝き始め、それは斎のサイズに合わせた、立派な刀へと生まれ変わる。


『払い給え! 清め給え! 悪鬼調伏っ!!』


呪文と共に、そのまま一刀両断された妖は、黒い霧のような瘴気を撒き散らしながら、凄まじい砲口を上げて、そのまま霧散した。気付けば、部屋は元の静けさを取り戻し、取り付かれていた少女は、途中で余りの事に気絶したため、大変静かである。畳の上に、髪が乱れた状態で倒れていた。心の隙間がある以上、彼女は狙われやすい存在でもある。多分、しばらくは精神面で、大変であろう。周りが手を貸してあげねば、何度でも繰り返してしまうだろう。


「ふう、久しぶりの調伏は、流石に疲れますね・・・」


疲れた表情を見せるお師匠様には悪いが、二人もくたくたである。更にこの後、依頼人には事情説明があるため、休む暇はないのである。


「瑞希、お客様を呼んできて、斎は家宝を御前に戻したら、片付けを手伝ってちょうだい」


「「はい」」


そういう二人も、心なしか疲れて元気が出ない。今日は、いや、ここしばらく色々あり過ぎたのだ。こればかりは仕方ないだろう。

こうして、無事に妖を退治し、依頼人とお客様への事情説明がおわり、そこで目を覚ました少女と一波乱あったものの、依頼人が皆と帰宅したのは、お昼をとうに過ぎた時刻だった。子供である二人は、既にグッタリして、畳に寝そべっていた。勿論、二人とも巫女服のままだ。


「疲れた・・・」


「うん、疲れたし、お腹空いた・・・」


「あ、お昼のそうめん・・・」


唐突に、斎が思い出したのだ。とても、肝心な事を。


「斎・・・、ナイスチョイス」


寝そべった姿のまま、瑞希がグーと親指を立てたら、何とも微妙な顔をされた。


「いや、汁を作り忘れた・・・」


「え・・・」


朝、忙しいからと茹でて下準備していた斎も、流石に汁の事は頭から抜け落ちていたらしい。暖かいそうめんは、瑞希と斎の大好物で、シイタケや豆麩、糸こんにゃくなど具入りの醤油味の汁を、そうめんをあらかじめ器に入れた状態でかけるのだ。特に潔斎をした後は、生ものは食べれないので、ごちそうとも言えた。


「斎、今から作って!!」


「無茶いうなよ、瑞希・・・」


下準備も無しにつくれば、最低でも、30分はかかる。明らかにおやつの時間になっているだろう。流石にグッタリしている状態で、今さら作りたくはない。


「二人とも、元気ねぇ、お昼は冷たいそうめんでもいいんじゃない?」


御師匠様はそういうが、育ち盛りの二人には、いささか物足りないのである。この辺りは、年代故のギャップとも言えるかもしれない。

とはいえ、大きな仕事終わり、食事で悩むというのは、大変平和な悩み事であった。



継縁神社は、とても穏やかな時間が流れていた。これは、この神社のある日の物語ーーーーーー。

お読み頂きまして、ありがとうございますm(_ _)m

無事に完結する事が出来ました! 感無量です!

秋月の趣味を思いっきり詰め込みました(笑) 余は満足なり(笑)


秋月忍様、素敵な企画をありがとうございます! 『和語り』企画、他にも素敵な作品が、目白押しです。是非是非、覗いてみて下さいね☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和語り企画
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ