継縁神社物語 中
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お茶の準備をそそくさと終らせ、御師匠様が居る本殿に戻れば、何やら依頼人たちと話す御師匠様が居て、部屋を移るところだった。
「広間がありますから、そちらで食べましょう」
机は多めに用意してあるので、ボディーガードの皆さんも、交代で食べれるだろう。
「さあ、神様とお恵みに、そして皆様に感謝をして食べましょう」
こうして包みを開けたお弁当は、瑞希が人生で初めて食べるくらい豪勢なもので、恐る恐る食べては、あまりの美味しさに一々反応するため、隣に座った斎が珍獣を見るような目で見ているのだが、本人は一切気付いても居なかった。
食事も無事に終わりーーーーー暴れていた残りの二人は、可哀想だが、依頼人の方が指示をして、別の部屋にいるーーーーー、途切れていた会話が始まった。
「なあ、俺は本当に暴れていたのか?」
とは、不思議そうな顔で、辺りを見渡している、最初に一番暴れまくっていた青年である。お師匠様が糸を解いた後は、ちょっと俺様のところはあるものの、比較的好青年になっていた。いくら事情説明を受けても、やっぱり納得できなかったらしい。
「仕方ありません、恐らくは黒い糸が悪さをしたのでしょう」
そう、黒い糸は、色んな事を滅茶苦茶にしてしまう、危険なモノなのだ。中には、それで人生を滅茶苦茶にしてしまう人もいる。
「失礼ですが、おかしくなったのはいつからですか?」
御師匠様も言葉に、俺様青年と、眼鏡青年ーーー名前を知らない為ーーーは揃って、2カ月前と答えた。
「記憶があいまいなのも、その頃からです」
「確かに・・・、最初は面倒だったんだが、だんだんとあいつとの時間が増えるに従い、記憶もあいまいになってきてる」
「まるで自分が、他の人にでもなった気分ですよ」
と、嫌悪感を滲ませているが、そっと依頼人の女性が俺様青年に寄り添っていくと、まるでありがとう、とでもいうように、笑顔を見せていた。確かに彼らは、彼女のお陰で救われた。
「さて、そろそろ、次の方々も解きましょう、お二人よりも絡まりは少ないと思うので、楽だとは思いますよ」
なんてお師匠様が言っていたが、ハッキリ言おう。確かに幾分まし、というだけで、糸の絡まりは、あまり変わっていない。でも、修行中の二人は、文句何て言う必要もない。
そもそも、二人が連れてこられた時、明らかに全員がどよめいたのだ。なんせ、布団に巻かれた人間というのを、誰しもが初めて生で見たからに他ならない・・・・・。先程まで、嫌悪感を出していた二人でさえ、ギョッという言葉が似合う表情になったのだから。
・・・・・残念ながら、瑞希も、斎も、初めてではないので、スッと視線を逸らしただけで済んだが。唯一変わらないのは、恐らくは一番見慣れている、御師匠様だろう。慈愛という微笑みを一切変えなかったのだから。
「始めましょう」
その言葉と共に、ほどいて行くが。ふと、瑞希が気付いた。
「ねえ、斎・・・これ・・・」
そう、運命の糸にギリギリと食い込む、異様な程に、それこそしつこいくらいに絡まっている、その”黒い糸”を。
「うわぁ、凄い絡まってる・・・」
斎も嫌そうにそれを解こうとするけれど、糸は頑なに絡まりを解かせない。瑞希は他の糸を上手く解いていったけど、最終的にそこだけは解けなかった。チャレンジはしたけど、絡まっている運命の糸が、切れてしまいそうで、恐ろしくて触れなかったのだ。
「お師匠様・・・」
流石に、斎は無理と判断して、素直に彼女を呼んだ。代わりに、御師匠様が手掛けていた、気真面目そうな青年の糸を解いていく。とはいえ、ほぼ終わりだったため、後はハサミで切るだけだ。
「あらまぁ、凄い絡まってるわね」
糸を見たお師匠様からも、驚きの声が上がった。でも、御師匠様が丁寧に糸を撫でていくと、あれほどまでに頑なだった彼の糸が、力を失ったようにスルスルと解けていく。後はハサミで、絡まった部分をチョキンと切れば、先程まであれほど暴れていた可愛い顔立ちの青年が、急に動きを止めた。
「・・・・・・・・・・えっ、ここどこ?」
どうやら、正気に戻ったようである。同じく、斎もお師匠様に切る場所を確認してから切ると、真面目な青年も正気に返った。
「ふう、これにて依頼は完了ですね、お疲れ様でございました」
これにて、一件落着。
因みに、お布団に巻かれた人達は、何故こんな事になっているのか分からず、盛大にハテナを飛ばしていたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・と、喜んだのも、つかの間の事であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この世界には、どの動物にも生き物にも、運命の相手が居て、必ず小指に赤い糸が伸びている。
でも、それが気に入らなくて、本当の運命の赤い糸を忘れてしまう人がいる。
人の物が素晴らしく見えて、欲しくて欲しくてたまらなくて・・・・・。
そこに、心の隙間が出来てしまうのだ。その隙間を好む、妖がいる。厄介な妖は、常に人の側で暮らしてきた。そう、闇を克服した、現代でさえ、それらは蠢いている。
あの依頼完遂から3日目に、またあの依頼人から電話が来た。
これには、御師匠様も心当たりが無かったらしく、不思議そうに電話に出ていたが、直ぐに表情が真剣な物へと変わっていた。
「斎、瑞希、明日の朝、宝物殿から家宝を出して祀ります」
それの意味を知っている二人は、勿論、突然の事ではあるものの、素直に頷いた。
「あの、御師匠様、何かあったんですか?」
頷いたものの、不安になって瑞希が聞けば、何故か一気に疲れたような姿の御師匠様に、首を傾げる。
「あの依頼人からです、御守りのお陰で彼らは無事に復帰出来たそうなんですが、どうも原因の子がおかしいみたいで、見て欲しいと」
原因の子、という言葉に、事情を聴いた3日前の夜を思い出す。といっても、簡単な事情説明で、詳しい事は教えてもらえなかった。確か、一人の少女に、あの四人-----他にもいたらしいが、取り合えず助ける必要があったメンバーらしいーーーーーが、恋をしてのめり込んでしまい、様子がおかしいから見て欲しい。そんな依頼だったと聞いた。
「原因て・・・、あの黒い糸の発生源てことですよね? お師匠様、そんなに危ない人なんですか?」
心底嫌そうな斎に、困った顔の御師匠様。斎は恋愛事にはかなりの潔癖症で、前にも依頼人の事で色々あったこともありーーーーー子供相手を恋愛対象にする人とか諸々ーーーーー、この手の会話は禁句に近かったりするのだ。
「ええ、念の為です、糸を我々が解いた事もあり、彼らは既に正気に戻っています、それが気に入らないみたいですよ、原因の子は」
「それって、いきなりチヤホヤされなくなったから、文句を言いに来るってことですか?」
瑞希にはそうとしか取れなかった。が、御師匠様から見たら、言ってはダメな事であったらしい。
「瑞希、お客様に対して、そのように言う物ではありません、いいですね?」
「はーい・・・」
「とりあえず、明日は日の出前に起きて準備します、いいですね?」
「「はい」」
こうして、この話は終わり、各々が寝静まったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
依頼人との約束の日。
この日は、いつもとは違い、朝から瑞希と斎、御師匠様は、潔斎を行う為、朝から身を清めていた。こんな日に食べれるのは、ほぼ、野菜のみに成る為、成長期の二人には中々にキツイものがあるが、厳しい冷たさから、暖かいごはんが食べれるのだから、結局、満足してしまうのだ。子供である以上、おかわりも許可されている。ありがたい事である。
そして約束の時間。いつものように、チャイムが鳴る。
「いらっしゃいませ、佐藤様、お待ちしておりました」
前回同様に、瑞希が出迎える。今回も、依頼人はマスクやサングラスをしていたが、数人のボディーガードと一緒だった。唯一違う事は、明らかに場違いな恰好の女の子・・・いや、瑞希からしたらお姉さんだが、その人と、おじさんにはまだ若い、少しチャラチャラした男の人がいるくらいだろうか。二人とも、デートでもする気か、明らかに空気がおかしい。見れば、依頼人も疲れた様子で二人を見ている。・・・・・大変らしい。思わず同情してしまった、瑞希である。こんなのまで面倒みるなんて、依頼人さんが可哀想である。
「ご案内いたします」
そう言って、瑞希は後ろを気にしつつ、本殿へと歩いていく。何やら後ろで、キャーキャー煩いが、今回は無視することにした。あの場違いさんだろうから。
こうして、無事に本殿に案内すると、明らかに依頼人さんが驚いていた。まあ、当然だろうと思う。
そこには前回は用意してなかった、とある家宝が祀られていたのだから。
依頼人と、場違いさん二人が座り、ボディーガードさんは少し後ろに待機している。勿論、斎と瑞希も指定の席に座り、場は整った。一気に場の空気が張りつめた。
「お久びりですね、その後、いかがでしょうか?」
なのに、まったく気にした様子もなく、御師匠様は席に着いた彼ら三人に、普通に問いかける。これには、依頼人も驚いた様子であるものの、腹を括ったのか、慣れているのか、後者だと思われるが、普通に挨拶を交わしていた。
「はい、前回はありがとうございました、お陰様で、本当に助かりました」
心からの声であった。相当、大変だったと察せられたものの、解決はしたようで御師匠様もホッとしたようである。二人もホッとした。彼らは最後、子供の二人にも、ちゃんとお礼を言ってくれたからである。いい人である以上、黒い糸の所為で、人生を変えて欲しくない。
「で、今回の依頼は?」
この問いには、依頼人の視線が少しさ迷ったものの、意を決したかのように、頭をガバリと下げた。所謂ところの、土下座である。
「この二人を、視て、解いて下さい、お願いします!!」
後ろの二人は、聞いていなかったようで、目を白黒させている。とはいえ、原因の子と呼ばれた少女は早かった。すぐに立ち上がり、出て行こうとする。が、ボディーガードに阻まれて、出る事は叶わなかった。
「酷いです、だまして連れてくるなんて・・・帰してください!」
「な、泣かないで・・・、ね?」
男性が必死で宥めても全く意に返さない姿。それどころか、可愛らしい姿で、庇護欲をだかせるつもりか、可愛らしく涙を見せる。ハッキリ言って、斎の大嫌いなタイプの人種であった。隣に座っていた瑞希は、ヒヤリとする。隣から、物騒な気配が漏れてきていたから。さぞや冷たい目で、斎は彼らを見ていることだろう。
「分かりました、拝見しましょう、先にそちらの男性から・・・・・運命の人を見てみましょうか」
穏やかに、御師匠様が手を差し出すと、いきなりの事に驚いたのか、それとも、運命の人に惹かれたのか、彼は素直に手を取った。
「始めましょう、斎、瑞希、手伝って下さい」
「「はい、御師匠様」」
いきなり始まった儀式に、原因の子も驚いて呆然としている。とはいえ、彼はそれほど絡んで居なかった事もあり、すんなり解けて、黒い糸も、指示された斎が、縁切りハサミで切り、ものの数十分で終わりを告げた。最初の依頼人や、次の四人に比べれば、とても楽なものであった。
「あれ? 何で俺、ここに? えっと、どこでしょうか、ここ」
事情説明は依頼人さんが受け持つらしく、そちらは別室である隣の部屋へと通した。そして、原因の子は、必死でボディーガード達の気を引こうとしていたが、誰も手を取るどころか、役目は終わったとばかりに、隣の部屋へと行ってしまう。この場には、御師匠様と、斎、瑞希、そして問題の少女が残った。
「何で? おかしいわ、わたしがヒロインのはずでしょう!?」
いきなり叫び始めた原因の子は、確かにヒロインみたいに可愛いけど、正直、性格は悪いと瑞希は思う。依頼人さんが本当に可哀想だ。きっと優しいから、断れなくて連れてきたんだろうから。あんなに素敵な人を泣かせた、あの俺様男に、ちょっとばかり怒りがわいた瑞希だが、取り敢えずは、原因である目の前の子を、どうにかすべきと姿勢を正す。
「次は貴方を拝見しましょう、運命の相手、気になりませんか?」
穏やかな御師匠様の声にも、少女は此方をキッと睨み付けるだけ。どうやら、これが本性らしい。
「あんた達、一体何をしたのよ! もうちょっとで、隠しキャラのあの人に会えるはずだったのに! 余計な事しないでよ!」
御師匠様を睨み付ける彼女は、此方にも視線を向けて、ふと、斎で視線が止まった。僅かに目が見開かれ、急に唖然とした表情で、斎を凝視している。ふと、笑顔を見せた。正直、ちょっと怖い。
斎自身も、あまりの迫力に、竦み上がり動けないでいた。
「ねぇ、君だって、そう思うでしょう? 私は可愛いでしょう? ねぇ、そうでしょう?」
無理矢理、信じたいとでも思うかのように、斎に問いかける少女は、斎に手を伸びそうとして、ピタリと動きを止めた。
瑞希が庇うように手を大きく広げて、少女と斎の間に立ちふさがったからだ。
読了お疲れ様でした☆ お読み頂きまして、ありがとうございます♪♪
ようやく、お話が進みました。ちゃんと予定通りに、書けてますか? もう、ヒヤヒヤですよ(汗
さぁ、残すところ、あと一話!
最後まで宜しくお願いします!!m(_ _)m