表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

変化

エルネスタの日常は、表面上では元のまま続いた。王宮に通い秘書見習いとして走り回り、午後は魔術師塔へ研修生として出向く。休日には、里帰り代わりに兄を訪問して過ごす。穏やかな日々だ。


ただ、その内面は以前とは打って変わり、針鼠のように臆病になっていた。自分に対する周りの思いを知らされて以来、エルネスタは常に自分を律し、必要以上に踏み込まないように心懸けた。まるで、自分をぐるりと囲む線を引き、中に誰も立ち入らせないかのようだった。


エルネスタの変化は、多くの人には見落とされたが、彼女を思う者達は深刻に受け止めた。


主のアレクシスは、自分の言動が彼女に悪影響を与えたと思い、警戒心を和らげようと腐心した。


「エル、王宮での使い走りは不満か?」

「いいえ」

「そうか? 何なら、邸内で働くか?」

「今まで通りで充分です。魔術師団塔へも通えますから」

「そうか……」


兄のクリストフは、絶対に個室で二人きりにならないエルネスタに、やや不満を抱いた。


「エル、部屋に来ない?」

「行かない」

「リビングじゃ他に人も居て落ち着かないし、部屋に行こうよ」

「ボクはここで話すので充分だよ」

「……俺の癒しが……」


魔術師塔で会うテオフィルだけは、エルネスタの警戒振りを面白そうに見ていた。


「最近、エル一人で帰っちゃうんだな」

「この前みたいに、テオに隠遁(ハイド)で消えられたら嫌だもの」

「打ち消す魔法もあるよ」

「それ、何? 教えて!」

魔法無効(アンチマジック)っていう術さ。武闘派(のうきん)との研修で習った」


そう言って、テオフィルは手本を示そうと、エルネスタに魔法を出すように指示した。エルネスタは魔力を練り、放つ。部屋の中に、精霊魔法の光がキラキラと浮かんだ。


「これを消すの?」

「まあ、見てて。魔法無効!」


テオフィルが魔力を放った範囲だけ、光の粒が消える。正確には、光の粒を外へ押し退ける感じだろうか。エルネスタは目を瞠った。


「こうやって、魔法が消えるんだ! 凄い!」

「やってみなよ。隠遁!」


テオフィルは、自分の周囲に霧を発生させて、景色に溶け込み身を隠す。エルネスタは、先程見た術を、自分の精霊魔法で再現した。


「魔法無効!」


エルネスタの放った光の粒が、魔法の霧を巻き込んで消え、その範囲だけ消えていたテオフィルの姿が覗いた。


「やった! 出来た!」

「相変わらず、再現が上手いな。大したもんだよ」


テオフィルがそう言って、エルネスタの頭をポンと叩く。エルネスタは嬉しいのか恥ずかしいのか分からず、頭を押さえてテオフィルを上目遣いに睨んだ。目の合ったテオフィルは、笑みを深める。


「これで、俺が姿を消しても問題ないな。送ってくよ」

「……うん」


魔術師団塔からの帰り道を、エルネスタはテオフィルと並んで歩く。もう精霊の近道を使っても問題ないのだが、帰りは歩く習慣になっていた。暫く、二人とも言葉は無く、静かに歩いていく。やがて、思い出したように、エルネスタは口を開いた。


「そう言えば、もうすぐヴィルさんのところ、産まれそうなんだよねーお祝い、何がいいかなー」

「俺も世話になったし、何か買うなら俺も出すよ」

「とりあえずーお金より案を出してー」

「服とか菓子ぐらいしか思い付かない」

「平凡だけどー無難かなー」

「調子、戻ってきたな」

「えっ?」

「喋り方、前みたいに戻ってる」


そう言われたエルネスタは、立ち止まり口を押さえて、目をぱちくりと見開いた。テオフィルはエルネスタに合わせて止まると、慈愛の眼差しで見下ろす。


「ビシバシ警戒して、距離置いてるのも面白いけど、やっぱりエルはその方がずっといいな。可愛い」

「……か、可愛いって、何……」

「エル、可愛い」


真っ赤になって俯くエルネスタを促して、テオフィルは歩を進めた。別れ際に、また霧で姿を隠し、魔力譲渡する。エルネスタは、これがもう単なる魔力譲渡とは思えなかった。送り込まれる魔力以上に、クラクラする。


エルネスタが躰を押すと、テオフィルはさっと離れた。無理強いはしない。霧で姿が消えたままのテオフィルに、エルネスタは魔力を放って霧を一部消した。顔が見えると安心する。もう、見知らぬ男の人じゃない。


「じゃ、また明日」

「お祝いの案があったら、伝言ちょうだいね」


テオフィルは浮遊(フロー)移動(ムーヴ)を放って、塔へ戻って行く。その後ろ姿を見送りながら、エルネスタは外宮へ戻った。


エルネスタは、自身の変化を自覚した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ