エルネスタの受難
自分らしくある為に、そう在りたい自分になる為に、エルネスタはまず形から入ってみた。ずっと男の子のような格好をして、その外見に見合った振る舞いをしていた自分を変えるべく、女の子らしい格好にしてみようと思い立ち、その象徴とも思えるスカートを穿いてみた。
結果、自分の気持ちは置き去りになり、周りが大騒ぎになった。やはり、自分は少し考えが足りないのだろうか。エルネスタは、溜め息と共に思考を一旦、棚上げにした。一日で結果を断ずることもない。暫く続けてみて、自分の気持ちが追い付いてから、また考えよう。
エルネスタは、日課の魔力放出をして、キラキラした光の粒に包まれて眠りに入った。気疲れした分、よく眠れるだろう。
そして、エルネスタのスカート姿を周りが見慣れてくる頃、エルネスタ自身もスカートを穿き慣れてきて、振る舞いもそれなりに落ち着いてきた。一人称はなかなか「ボク」が抜けなかったが、その他ではエルネスタを男の子と見誤ることは無くなった。
そして、また転機が訪れた。
エルネスタの師事するヘルムート師のところには、数人の弟子達が居るが、テオフィルの師匠のガイラル師には、弟子がテオフィル一人だった。その為、魔術訓練はヘルムート師の弟子達と合同でする事が多かった。
しかし、最近になって、もう一人弟子が増えた。セレンディアというその少女は、ガイラル師の弟子だけに希少な属性の魔力持ちで、外見はエルネスタより幾分年上に見えた。弟子が複数になり、魔術訓練は自然と各々の師匠の部屋でする事が増えた。
エルネスタは当初、これで自分にも待望の女友達が出来るかもと期待した。しかし、その期待は脆くも崩れ去った。セレンディアは、女の武器を振り翳し、周囲の男性に片っ端から粉を掛けて回るようなタイプだった。
エルネスタは、一目見て相容れないタイプと思い、当たり障り無く距離を取った。セレンディアの方も、エルネスタには全く関心が無かったので、このままなら無難に過ぎる筈だった。
波風を立てた張本人は、テオフィルだ。ご多分に漏れず、セレンディアから粉を掛けられたテオフィルは、それに全然取り合わなかった。そればかりか、妹弟子の彼女を差し置いて、別の部屋に居るエルネスタばかりを構いに行く。エルネスタが彼女から敵認定を受けるのに、然程時間は掛からなかった。
ある日の帰り掛けに、エルネスタはセレンディアから呼び止められた。ちょうど魔術訓練をしていたヘルムート師の部屋を出たところで声を掛けられて、そのまま誰も居ない予備の部屋に連れて行かれる。
「ちょっと話があるんだけど、いいかしら」
「何の話?」
「テオフィルさんに色目使うのやめてくれない?」
「色目って何?」
「ちょっと、アタシを馬鹿にしてるの?」
セレンディアが怒り狂い、彼女から静電気がパチパチと火花を散らす。彼女は、希少な雷属性の魔力持ちだった。今、彼女に触れたら、感電して痛い目に遭いそうだ。エルネスタは、逃げ腰で言い募る。
「何だか分からないけど、ボクは関係なくない?」
「アンタがテオフィルさんに色目使うから、テオフィルさんはアタシに構ってくれないのよ!」
「濡れ衣だよー」
セレンディアは聞く耳を持たず、ますます怒り狂い、派手に火花を散らしながらエルネスタに詰め寄った。エルネスタは悲鳴を上げて、部屋中を逃げ回る。そこに、騒ぎを聞き付けたテオフィルが駆けつけた。
「おい、何している!」
「あ、テオ! 助けて!」
「この性悪が! アタシを馬鹿にして!」
「誤解だよー濡れ衣だってばー」
テオフィルは、咄嗟に部屋の中を霧で覆いセレンディアの目を眩ませ、逃げ回るエルネスタを抱えて窓から飛び出した。
部屋は塔のかなり高い位置にある。エルネスタはその高さに身を竦ませた。
「隠遁! 浮遊! 移動!」
テオフィルは立て続けに術を繰り出して、エルネスタを抱えたままゆっくりと地面に降り立った。
「ふぅ、助かった。ありがとう、テオ」
「一体どうした?」
「それがねーセレンディアが言うにはーボクがテオに色目使ってるって怒ってーで、色目って何?」
エルネスタが事情を説明すると、テオフィルの眉根がぐぐっと寄った。額に青筋も立っている。立ち話も何なので、エルネスタの向かう王宮方向に歩きながら、二人で対策を話し合った。
「このままじゃ、ボク、セレンディアに丸焦げにされるよー」
「ったく、あの糞アマが……」
「テオ、セレンディアと付き合う?」
「御免被る!」
「うーん……誰か他の魔術師見習い、セレンディアに紹介出来ない?」
「学究派に無茶言うな」
「じゃ、武闘派に紹介出来そうな知り合いは居る?」
「そうだな、そっちの方が可能性あるか」
テオフィルは、以前に魔術師団長から強引に魔術訓練を受けた時、武闘派の方に幾人か見習いの顔見知りが出来た。その中に、心当たりが居るらしい。
「我々の心の平安の為、このカップリングを是非とも成功させよう!」
「応!」
エルネスタとテオフィルは、気炎を上げた。
「それで、色目って何?」
「……」




