告白の行方
エルネスタは、なるべく普段通りに振る舞おうと思っていたが、周りの人達はすぐに彼女の変化に気付いた。特に、街からずっと一緒に仕事してきたマーサは、エルネスタを心配して声を掛けた。
「どうしたの、エル。何かあった?」
「え? 別に何も」
「嘘つかないの! エルは分かり易いんだから」
マーサからズバリと言われて、エルネスタは観念した。クリストフとのことを掻い摘まんで話し、心情を吐露した。
「あの、実は……ずっと兄と思って親しんできた人から告白されて、どうしていいか分からなくて……」
「エルは、その人を好きではないの?」
「好きです。でも、兄としてで……そりゃ、いつも過保護だなーと思ってたけど……いきなり、所帯を持とうだなんて言われても……」
「そうだったのね」
マーサはエルネスタから話を聞いて、項垂れるエルネスタの肩をポンと叩く。
「エルは、そのお兄さんも、他の兄弟や友達も、皆が同じように好きなのね?」
「そうです」
「じゃあ、誰か特別に好きとか、その人を思うと夜も眠れないとか、そういう人は居る?」
「うーん……心配で眠れないってことはあるけど……特別に好きっていうのは……」
「エルは、まだ恋したことがないのね」
「ええっ!?」
驚いて顔を上げたエルネスタを、マーサは優しく諭した。
「焦ることはないわ、人それぞれだから。恋なんて、探すものじゃないわ。突然、落ちたりするから」
「落ちるものなんですか?」
「そうね。だから、放っておいてもいいの。エルはそのままでいいわ」
「はぁい」
エルネスタは、少し気が楽になった。
楽にはなったが、さっぱりと気持ちが晴れた訳ではない。エルネスタは、ふとした拍子に憂い顔をしていることが多くなり、周りの大人達は気を揉んだ。
アレクシスも気を揉む一人だった。エルネスタに直接尋ねるのも気が引けて、マーサに問い質すが、笑って往なされた。
「年頃の子には、よくある話ですよ」
「そうなのか?」
「そうですとも。最も、唐変木のアレクシス様には、ご縁のない話ですわね」
「……」
アレクシスはぐうの音も出なかった。
魔術師団塔の面々も、エルネスタの変化には気付いた。しかし、アレクシス以上の唐変木集団である学究派魔術師達に、気の利いた対応など望むべくもない。
「エル、元気ないな。どうした?」
「ううん、何でもないよ」
──終了。
エルネスタは、これまでの人間関係で、このようなデリケートな話題を相談できる人をほとんど持っていないことに気付いた。
マーサには一応相談もしたし、頼りにはしているが、どちらかというと仕事の場での上司という感じで、本音を打ち明けるような関係ではない。この邸で働く他の人達も、マーサと同じく、親しくしていてもどこか一線を引いている。
街の養父母や兄弟にしても、同様だ。育てて貰った恩もあるし、大好きなことは間違いないが、どこか遠慮というか、踏み込めない感じが自分の中にある。
他に誰かいないかと思い浮かべてみて、ふと浮かんだのはテオフィルの顔だった。
「うーん……無いな」
気安い間柄ではあるし、魔術訓練では共に助け合う仲間だけれど、とてもこんな相談を出来る相手とは思えない。如何に女の子らしくない自覚のあるエルネスタとはいえ、深刻な相談に「プロポーズ? 何それ、美味しいの?」なんて言われたら、立ち直れない。
そんなことを思いながら過ごした一日の終わりに、魔術訓練後の休憩をとっていたエルネスタに向かって、テオフィルが問い掛けた。
「訓練、全然身が入ってなかったけど、何か悩みでもあるの?」
「え、別に……」
「エルは顔とか態度とか、モロに出るんだよ。知ってた?」
「……知らない」
まさか、密かに無神経な奴扱いしていた相手から、先に気遣うようなことを言われるとは。エルネスタは、己の認識不足に溜め息が出る。
「テオって案外、繊細なんだねぇ」
「なんだ、そりゃ」
しかし、幾ら繊細だろうと、こんな女の子同士の恋バナのような相談を、テオフィルにする気にはならない。今さらながら、男の子のように過ごしてきた日々を、少し後悔した。
「うぅー、女友達が欲しい!」
「はぁ? どういう悩みだよ、一体?」
もし女友達が居て、相談や恋バナが出来たとしても、最後に結論を出すのは自分である。それは分かっている。でも、親身になって相談に乗ってくれる相手が今、切実に欲しい。
魔術師団塔からの帰り道で、エルネスタは鬱々としながら魔力を練った。いつもなら、精霊の近道ですぐ執務室に着くところが、余計なことを考えていた為に、思い掛けない場所に辿り着いた。
「あれ? ここ、何処?」




