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事態の解決方法

その時、魔術師団塔の中から、続々と魔術師や見習い達が出てきた。エルネスタが師事するヘルムート師やガイラル師を始め、テオフィルら顔見知りの見習い達を含めた、学究派(ひきこもり)魔術師のほとんどが、この訓練場に集まっているように見える。


王宮の方からも、エルネスタが親しくしている侍従達が訓練場に向かって、次々に現れる。その中には、エルネスタの主のアレクシスもいた。


「……皆、ボクを助けに来てくれたの?」


エルネスタは、自分の窮地に駆け付けてくれた多くの人々を目にして、思わず涙を零した。人垣の中からテオフィルが駆け寄って来て、エルネスタの傍に寄り添った。


一方、流石(さすが)のイェレミアスも、いきなり現れた大勢の人々に囲まれてたじろいだ。


「何なんだ、お前ら!?」


集まった人々の大半は、状況が把握出来ていなかった。ただ、助けを呼ぶ声に呼ばれて集まっているに過ぎない。ざわめく人々から一歩離れて、この騒ぎの内実を知る者達がいる。その者達を代表して、ヘルムート師が口を開いた。


「自分の弟子ではなく、魔術師見習いでもないこの子に対して無理強いするのは如何なものかね、魔術師団長?」

「この者は、既に塔で散々魔術を使っているではないか。何故俺を責め立てるんだ?」

「本人の意思で、研究目的の魔術発現と、強要されるものとを同列に挙げないで頂きたい」


エルネスタは、窮地に陥って出した伝言魔法に、宛先を指定せずに放った。思いつく限りの、王宮内での知り合いを思い浮かべて放った為に、伝言魔法は広く薄く届けられた。受け取った方は、か細いエルネスタの声と、場所、最後の「助けて!」を耳で拾い、慌ててやって来たのだった。


騒ぎを聞き付けた武闘派(のうきん)魔術師達が、イェレミアスの許に駆け付けた。こちらも実情は分かっていなかったが、とにかく師団長の危機であるという認識のみで、いきり立っている。武闘派と学究派の魔術師達が睨み合い、場は一気に緊張の度が高まった。


その場を収めようと、アレクシスが口を開く。


「これ以上の押し問答は無意味だ。解散して、後日話し合いの場を設けてはどうだろうか?」


武闘派魔術師達は、うろうろと視線を漂わせて、最後は師団長に集まる。学究派は基よりヘルムート師が掌握している。二つの派閥トップは顔を見合わせて、同じ結論に達した。


「異議なし」

「それで構わん」


双方の魔術師達が合意して、一同は解散して戻って行った。他の人々も、三々五々元の持ち場に戻って行った。


自分の発した伝言魔法から、思わぬ大事に発展してしまったエルネスタは、顔色を悪くして縮こまっていた。そんなエルネスタの隣で、場が収まるまで居残っていたテオフィルがぎゅっと肩を抱いた。


「エル、無事でよかった」

「ありがとう、テオ」


傍らにガイラル師も来て、労いの言葉を掛ける。


「エル、よく頑張った。この窮地に、エルは自分の出来る範囲で最良の事を成し遂げたよ」

「こんな大騒ぎが、最良?」

「ああ、そうだとも。エルは自分自身を守るだけでなく、相手も傷つけずに事を収めた。魔術師同士のぶつかり合いで、こんな平和的解決は珍しい」

「平和的解決なんですか? これが」

「何処も破壊されず、誰の血も流れていない。平和的だ」


ガイラル師の言葉に、エルネスタは青ざめた。確かに、武闘派魔術師達が暴れたら、この辺り一帯が焼け野原になっていたかも知れない。魔術師団塔の裏にある、この演習場だけでもかなりの広さがある。隣接する軍の施設と合わせれば、相当な規模で彼らは暴れることだろう。


学究派といえども魔術師の端くれだ。攻撃されれば、当然のように反撃すると思われる。武闘派と比べて、火力は劣るかも知れないが、魔力操作や術の精度は格段に上だ。死屍累々たる惨状が、容易に想像できる。


「そう言われると、安心します。ありがとう、ガイラル様」


ガイラル師は微笑んで、塔に帰って行った。テオフィルもポンとエルネスタの背中を叩くと、ガイラル師の後を追う。途中で振り返り、エルネスタに「またな」と声に出さずに口だけ動かして言った。ヘルムート師も去り際に、エルネスタの頭を撫でて言葉を掛ける。


「今日は訓練を休んで、ゆっくりしなさい」


エルネスタは頭を下げて、皆を見送った。エルネスタを取り巻く人々の温かさに、感謝がこみ上げる。


「エル、戻るぞ」

「はぁい、アレクシス様」


主の後に着いて、エルネスタは執務室に戻って行った。

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