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文官秘書見習いの交渉力

それからのエルネスタには、王宮での仕事中や魔術師団塔での訓練中に、ずっと護衛が付くことになった。とはいえ、庶民のエルネスタに、要人警護のようなことをする訳ではない。イェレミアスの関わってきそうなところにピンポイントでラインハルトが介入して、エルネスタの身の安全を保っていた。イェレミアスの思考や行動パターンを熟知したラインハルトならではの護衛方法だった。


エルネスタの魔術師団塔での訓練も、テオフィルと共にガイラル師によって行われた。エルネスタの魔力はガイラル師は勿論のこと、ラインハルトにとっても興味深いもののようだった。訓練中によく二人から凝視(ガン見)されて、エルネスタは苦笑した。


「じゃあ、始めるよ。(ミスト)!」

「ボクも。霧!」

「巧いもんだな。聖霊魔法の光の粒を細かく薄く広げて霧を再現するなんて」

「へへへっ」


エルネスタは魔力量こそ少ないが、割と器用に人の使う魔法を真似て再現出来た。テオフィルの使う水術による魔法も、一緒に訓練するうちに出来るようになっていた。ただ、攻撃魔法だけは身に付かなかった。


「次はボクからね。結界(バリア)!」

「結界!」

「……凄いねぇ、泡で結界を張るなんて」

「風術の程じゃないけど、防音効果もあるんだ」

「ふーん、何か役に立つの?」

「隠密行動中には役に立つよ。物音を結界の外に漏らさないのは、気配を隠して潜むのにいいのさ。後は、部屋で密談する時とかには使えるね」

「へぇ、そうなんだ」


一方、テオフィルもエルネスタの魔法に影響を受けていた。魔力循環をよく一緒に行っていたのもあり、テオフィルの出す術に極微量ではあるが光の粒が混じっていた。その為か、テオフィルの回復(ヒール)隠遁(ハイド)は、他の水術遣いより効果が高くなった。だが、さすがに聖霊の近道は真似出来なかった。


二人の訓練に、側で見ていたラインハルトも参加し始めた。


「エル、手を貸してみろ」

「ん? はい、どうぞ」

「魔力を流すぞ。ほれ!」

「ぎゃーーー!! 痛い! ラインハルトさん、痛い!」


特に、エルネスタの魔力のブースト効果が気になったらしい。テオフィルのように、エルネスタと魔力循環すれば、自分にも光の粒が混じるかも知れない。ラインハルトはエルネスタと魔力循環をしたがった。だが、ラインハルトの魔力は強烈過ぎて、訓練相手はよく音をあげる。エルネスタも悲鳴を上げた。


「テオフィルもやってみろ。ほれ、手を貸せ」

「……遠慮します」


テオフィルは難を逃れた。


当分の間はこれで凌げるにしろ、エルネスタに延々と護衛を付け続けられない。根本的な解決方法を探る必要がある。エルネスタは、疑問に思っていたことを、ガイラル師に聞いてみた。


「そもそも、何故ボクが魔術師団長に絡まれるんでしょうか?」

「イェレミアスの奴は、ガチガチの武闘派(のうきん)だ。魔術師団全体の攻撃力を高めたり、地力を上げることにしか興味がないんだよ。エルの能力は、その珍しさもさることながら、イェレミアスに『使える』と見なされてしまったんだろうな」

「ボク、攻撃魔法はさっぱりなのに」

「多分、イェレミアスの狙いは、聖霊の近道じゃないか? あれが他の術で再現出来れば、とても有用だからね」

「確かに便利だけど……」


エルネスタは、イェレミアスの執着がガイラル師の言うような理由だけではない気がした。でも、はっきりと言葉に出来なかったので、口を噤んだ。


暫くして、ラインハルトに別の指名依頼が入り、王宮に来られない日があった。そんな中、エルネスタは運悪くイェレミアスに見つかり、お遣い途中に魔術師団塔の演習場へ連れて行かれた。


「お前、名前は?」

「エルです。文官のアレクシス・リーベルトの秘書見習いをしています。今は仕事中です。勘弁して下さい」

「エル、一文官と魔術師団長、どちらの権限が上だと思う?」

「ボクは秘書見習いです。攻撃魔法は使えません。帰して下さい」

「お前のその奇妙な術を見せてみろ。使えるかどうかは俺が決める」


エルネスタは観念して、魔力を練った。練りながら、どうしたらいいのか、必死に考える。幸い、どの魔法を出すかは、師団長から指定されていない。掌から魔力を放ち、光の粒を出す。それに向かって、小声で呟いた。


「ボクはお遣い途中に、魔術師団長様に演習場へ連れて来られました。助けて!」


エルネスタは、伝言を光の粒に込めて空に向かって押し出す。光の粒は、上空でキラキラ光ると、やがて消えていった。


「今のは何だ?」

「魔力を出しました」

「ただ魔力を出しただけか。それより、あの変な転移術を出してみろ。この演習場の範囲でな」

「……」


エルネスタは殊更ゆっくりと魔力を練りながら、助けを待った。

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