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危険地帯からの脱出

クリストフは持って来たマジックポーションをありったけ出した。エルネスタとテオフィルはそれらを飲んで、失った魔力を補う。エルネスタは小瓶の半分程度で魔力量いっぱいに回復するが、テオフィルは二、三本飲んでも全回復はしないという。


それから三人で、狭い結界(バリア)の中にぎゅうぎゅう詰めになりながら、この危機を脱する方法を相談し合った。まず、エルネスタが提案する。


「ドミニクにクリスとテオが乗って、前線基地まで下がったらいいよ」


それを聞いたクリストフが、心配を口にした。


「エルはどうするんだ?」

「ボクは、来た道を帰ればいいだけだよ」

「そもそも、どうやって来たんだ?」

「ボクの精霊魔法で、精霊の近道っていうの。ヘルムート様によれば、今居る場所と知っている場所や人の居る所を、魔法で結び付けるらしいよ」

「よく分からないが、便利だな」


そこへ、テオフィルも口を挟む。


「その案だと、退避する間の防御が薄い。俺は結界や(シールド)は使えないし、隠遁(ハイド)(ミスト)の応用だから、ここにいる魔物には通じない」

「そりゃ厳しいな」


クリストフが頷くと、エルネスタが反論する。


「ドミニクは足が速いから、魔物も捲けるんじゃない?」

「ここの魔物は、実体が薄い分、動きが速い。二人乗ってたら、ドミニクでも危ないな」

「そう……じゃあ、救援が来るまで、この場所を動かない方がいいの?」

「そうだな。なら、救援信号弾を打とう」


クリストフはそう言うと、冒険者協会から持たされた信号弾に魔道具で火を点け、上に放り投げた。信号弾は、パンっと軽い破裂音を響かせて、上空で光って消えた。


救援を待つ間、思い出したように、クリストフがテオフィルに尋ねた。


「そういや、お前、何で一人だったんだ? 魔術師なら、前衛と組んで出てる筈だろう?」

「俺はお前じゃない。テオフィルだ。一人だったのは、魔物に押し込まれた時、はぐれたから」

「そうか。俺はクリストフ、エルの兄だ」

「ああ、王都に兄弟が一人居るって言ってたな」

「誰が?」

「エルと、後、フリッツさんかな」

「お前、俺らの実家にまで顔出してんのかよ」

「お前じゃない、テオフィルだ」


エルネスタは二人の会話を背中に聞きながら、ひたすらドミニクを撫でていた。モフモフに埋もれて、癒される。至福のひとときだ。


穏やかな時間も、長くは続かない。再び、ゾワリと魔物の気配が近付く。先程よりも、かなり数が多そうだ。三人と一頭は、素早く身構えた。エルネスタは、結界を展開する。


「うわー、ちょっと多過ぎない?」

「俺が孤立した時の数よりは少ない」

「何の慰めにもならないよー」


魔物の群れを前に、軽口をたたくエルネスタとテオフィルを横目に、クリストフは残り少なくなったマジックポーションを準備する。二人に出来る限りこれを供給する他、クリストフに出来ることはない。


「クリス」

「何だ、エル? ……!」


エルネスタに呼ばれて振り向くと、クリストフの眉間の皺を伸ばすように触れられた。


「また難しい顔してるー」


そう言って笑うエルネスタの頭を、クリストフは撫でて、その旋毛に口吻(くちづけ)を落とす。その様子を見たテオフィルは、顔を背けて舌打ちした。


「来るぞ!」


魔物が結界近くに迫り、テオフィルが声を上げる。辺り一面が、魔物の黒い色で埋まった。ドミニクが咆哮を上げ、魔物を硬直させた隙に、テオフィルとエルネスタの術が魔物を薙ぎ払っていく。


水弾(ウォーターバレット)!」

水刃(ウォーターエッジ)!」


合間を縫って、クリストフから渡されたマジックポーションを呷り、二人は魔力を補う。しかし、魔力は補えても、体力や持久力は消耗していく。魔物の群れは、まだ尽きない。


「エル、もう攻撃はいいから、結界の維持に専念してくれ」

「……分かった」


そう言うテオフィルも、消耗が激しい。もう幾らも保たないだろう。クリストフは、何も出来ない自分がもどかしい。マジックポーションがとうとう尽きた。魔物は未だ数多い。


「くっ……どうしろってんだ?」

「いよいよ、ジリ貧だな」

「……」


絶望的な空気が漂う。


──その時、遠くからドミニク以上に大きな咆哮が響き、結界を取り巻く魔物達が硬直した。続いて、ギョエーだかギャオーだかの鳴き声が聞こえ、白い鳥に似た姿をしたモノが、フヨフヨと飛んで来た。


「あっ、ルーイ!」

「あれを知ってるのか、エル?」

「ヴィルさんの従魔で、羽根竜(フェザードラゴン)のルーイだよ」


クリストフの問いに、エルネスタは満面の笑みで答えた。やって来たルーイは、青白いブレスを吐いて群れを一掃する。程無く、巨大な翼犬が姿を現すと、上から冒険者達が降りて来た。


「大丈夫か?」

「君達、無事かい?」


協会からの救援が来たようだ。彼らの姿を見たエルネスタは、結界を解いて駆け寄った。


「ヴィルさん! ステフさん! デューイ!」


駆け寄るエルネスタを、大猿のデューイが抱き止め、冒険者二人がその頭や背を撫でた。


「よく頑張ったな。さぁ、前線基地まで戻るぞ」

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