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大規模合同討伐

エルネスタは王宮に勤めているおかげで、情報収集に関しては恵まれていた。其処此処で交わされる噂や、顔見知りと挨拶する度に聞き囓る情報を拾い集める事で、知りたい事について大凡の状況を把握することが出来る。


「ねぇねぇ、聞いた? 例の合同討伐の話」

「えー、何?」

「今回のは、未だかつてない規模になりそうだって! あの『翠聖(すいせい)』が一度で浄化しきらない量の瘴気溜まりらしいよ」

「うわー、それって大丈夫なの?」


合同討伐クエストは今、大詰めを迎えているらしい。瘴気溜まりは『翠聖』によって何度も浄化されて、やっと消えたそうだ。後は、湧き出た魔物や引き寄せられた魔物の殲滅が済めば片が付くという。


「ねぇ、エルは何か聞いてないの? 魔術師団塔に出入りしてるんでしょう?」

「ええと、ボクは学究派(ひきこもり)の方だから、何も……」


ただ、当初からの懸念通り、湧き出た魔物に物理攻撃が効き辛いことが妨げになり、進捗が思わしくないと聞いた。引き寄せられた魔物については従来通りの方法でいいので、一般の冒険者達も対処出来るが、湧き出た魔物に関しては、上級冒険者か魔術師団頼みになってしまう。クエストが長引くにつれ、エルネスタの心配も増していった。ふと気になり、呼び掛けてみる。


『テオ……大丈夫?』


テオフィルの声は拾えなかった。


エルネスタは、このところ魔術師団塔での訓練で、ヘルムート師が呼び寄せた様々な属性の魔術師や見習いと魔力を掛け合わせて、可能性を探っていた。属性魔法と同時にエルネスタが魔力を放つと、多彩な光の粒のいずれかが反応して、効果が高まる。


この訓練の為に、エルネスタ達は塔の裏手にある訓練場に出ていた。学究派も魔術の研究や検証とあっては、進んで外に出るんだな、と妙なところに感心した。


「どうやら、エルの精霊魔法は、属性魔法のブーストになるようだね」

「ヘルムート様、ブーストって何ですか?」

「効果を上げる働きのことだよ」


それから、テオフィルの声を拾って以来、エルネスタにはテオフィルの居る場所や状態がぼんやり分かるようになった。お互いに意識を向けていないと気配が拾えないが、どちらか一方が苦しい時などは、かなりはっきりと感じた。


「……あっ、テオが魔力切れそう」

「分かるのか?」

「この間の声ほどはっきり聞こえませんけど、ぼんやりとは分かります」

「ほう、それは興味深いな」

「……回復したみたいです。マジックポーションでも飲んだのかな」


その時のエルネスタは知る由もないが、前線ではクリストフら騎獣に乗った冒険者達が、魔術師達へマジックポーションを届けに走り回っていた。物理メインの冒険者達は、自分達が攻撃するより、魔術師達のフォローに徹することに切り替えたのだ。


クリストフは、出発前にエルネスタが懸念した通り、騎獣で最前線を駆け抜けることになった自分に、誇らしいような怖いような、複雑な感情を抱いた。実力に見合わぬ今の立ち位置を、歓迎していいのか悪いのか。取り敢えず、個人的な感情は胸に秘め、我武者羅にドミニクを駆った。


一方、色々な属性の魔術師と訓練場で検証を重ねるうちに、エルネスタは相手の魔術師と互いの術を教え合ったりして交流した。おかげで、エルネスタは幾つかの術を覚えることが出来た。相手の術に対応した精霊が、その属性の術を覚えるらしく、回復(ヒール)浮遊(フロート)結界(バリア)等を使えるようになった。


「ヘルムート様、回復って、いろんな属性で出来るんですね」

「水術ならヒールウォーター、土術ならアースヒール等があるな」

「ヴィルさんの浄化魔法は、何術になるんですか?」

「あの人の術は、神官の聖魔法に近いから、魔術師のとは少し系統が違うんだよ」

「……? よく分からないです」


そんな中で、エルネスタは再び、テオフィルから危機を知らせる声を聞いた。


《……エル……》

「テオ?」


届いた声は一言、エルネスタの名前のみだが、同時に感じた気配が深刻なものだった。テオフィルの魔力が一気に削られるような感じがして、血の気が引く。エルネスタは、それらをヘルムート師に告げた。


「その様子だと、魔物からマナドレインを受けたかも知れん」

「マナドレイン?」

「相手の魔力を奪う魔法だ。主にアンデッド系の魔物が使う」

「アンデッド……て事は、相手は死んでるの? 怖っ!」

「死んでいるというか、何というか、思念体だな」

「しねんたい? 何ですか? それ」


エルネスタの理解を超えた魔物を相手に、テオフィルが危機に陥っている。ヘルムート師の言葉に、一段と恐怖心を煽られた。エルネスタは、居ても立っても居られない気持ちで、ヘルムート師に訴えた。


「ヘルムート様、ボク、テオを助けに行って来ます!」

「早まるな、エル! お前が前線に行っても、何も出来ん。返って足手纏いになるだけだ」

「でも、放っておいたら、テオが死んじゃう!」


エルネスタは泣きながら駆け出した。咄嗟に、ヘルムート師の弟子の一人が、エルネスタにマジックポーションの小瓶を握らせる。エルネスタはマジックポーションだけを持って、侍従のお仕着せ姿のまま精霊の近道を行った。

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