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出世?

タイトル変更しました(^◇^;)

エルネスタは、おっかなびっくり給仕をした。初めてのことで、無論、完璧には程遠い。アレクシスはエルネスタの所作を都度、指摘する。


「皿は静かに置くように」

「はぁい」

「水を注ぐボトルは、クロスを添えて持て」

「え……はぁい」

「カトラリーの種類が違う」

「?」

「これは、デザート用のナイフだ。肉料理用の物を出すように」

「……はぁい」


一々口煩いアレクシスに、エルネスタは辟易した。とにかく、今日を乗り切れば、この難行苦行は終わる、と思っていたエルネスタに、更なる試練が降り掛かる。


「これからは、夕食後のお茶をエルが給仕するように」

「ええーっ!?」

「どうした?」

「いえ……ナンデモナイデス」


この間、ずっと主の視線は、エルネスタに絡み付いた。毎日の見送りや出迎え時だけのことと、なるべく気にしないようにしていたのに、これが夕食後も続くのか、とエルネスタは遠い目をした。


食器を下げ、ワゴンを押して厨房に戻ると、マーサが待っていた。エルネスタは、先程の遣り取りを逐一報告して、更に主の視線の不可解さを訴えた。


「マーサさん、聞いて! ボク、初めてで分からないの知ってて、ご主人様、ずーっと小言言いっ放しなんだから。それに、ボクのことジトーッて睨んでるんだよ、ずーっと!」

「あらあら」

「それに、今日だけって思ってたら、今度からお茶出しはボクがしろって! ずーっと!」


マーサは困ったように眉をハの字に下げ、苦笑いしながら言う。


「実はね、バルドルがご主人様から打診されていたの。下働きをもう一人か二人雇い入れて、エルを小間使いから侍従見習いに出来ないかって」

「ふぇっ、じ、侍従?」

「側付きの仕事にエルを使いたいらしいのよ」

「う……」

「行く行くは、出仕先での補佐もさせたいみたいね」


あのねっとり絡み付く粘着質の視線が、日中ずっと続くとか、考えると鬱になりそうだ。エルネスタは、文字通り頭を抱えた。


翌日は、勤め出してから初の休日だ。エルネスタは、養父母に会いに行った。同じ街の中だ、地区が離れているが、日帰りで訪ねて行ける。


邸のある北区から家のある南区へと行く途中、東の大通りを駆ける翼犬を見掛けた。街の有名な冒険者の騎獣だ。そのもふもふとしたクリーム色の毛並みを見ながら、その手触りを想像する。きっと極上の手触りだろう。あんな騎獣に乗れたら、最高の気分になれそうだ。


久しぶりの家には、養父母の他、クリストフから届いた沢山の手紙が待っていた。また、長兄のジークベルトも帰省していた。エルネスタより頭一つ背の高いジークベルトを見上げて、満面に笑みを浮かべる。


「ジーク、久しぶり」

「おぅ、エルか。住み込みの仕事に出たんだって?」

「そうだよ。北区の邸で小間使いやってる」


ジークベルトは、成人してすぐ街の大店で奉公に入り、今では番頭見習いになっている。住まいも、住み込みから賃貸に移った。エルネスタにとって、身近にいる目標でもある。今回の帰省も、養父母から話を聞いて、エルネスタを心配して来てくれたのだろう。


「元気でやってるか?」

「ボクはいつだって元気だよ」

「そうか」


ジークベルトの大きな手が、エルネスタの頭をわしゃわしゃ撫でる。やや荒っぽいものの、その優しい手にエルネスタは嬉しげに身を任せた。兄弟達は、皆エルネスタに甘い。


「使用人頭から、読み書きや計算も習っているんだ」

「偉いぞ、エル。読み書き出来たら、もっといい仕事に就ける」

「主が、ボクを侍従見習いにしたいって」

「そりゃ、随分な入れ込みようだな。普通に考えれば、出世してめでたいってことなんだが……」


エルネスタの口振りや浮かない表情から、何かあると悟ったジークベルトは、エルネスタに話の続きを促す。


「どうなんだ?」

「でも、ボク、主の侍従はなんか嫌だな……」

「嫌な奴なのか?」

「別に、嫌がらせされてる訳じゃないけど、いつも難しい顔してるし、なんだかジトーッとした目つきが嫌、っていうか苦手」

「成る程」


ジークベルトは、心得顔で頷いた。それから、真剣な面持ちになる。エルネスタも、自然と姿勢を正す。


「その主と、出来るだけ二人きりになるなよ。分かったか?」

「うん、分かった」

「よしよし、エルはいい子だ」


ジークベルトには、エルネスタの抱く危機感がよく分かった。彼の勤める店でも、上役が権威を嵩にきて下働きの女中に手を出すことはよくあると聞く。エルネスタの勤め先の主を直接は知らないが、下心が全く無い訳はないだろう。


可愛い妹分に、何もしてやれない自分がもどかしいが、せめてもの忠告と、今だけは存分に甘やかすことしかジークベルトには出来なかった。


家に居た頃には、クリストフが独占していたエルネスタの甘やかし役も、他の兄弟達の居ない今なら、その役を担うのもジークベルトは吝かではない。


長兄に存分に甘えて、エルネスタは明日の鋭気を養った。

次回から、一日おきに更新します<(_ _)>

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