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自分の出来る事を

テオフィルの身を案じながら日々は過ぎ、エルネスタは休日にクリストフを訪ねた。白虎のドミニクを撫でてモフモフに癒される。


「エルは本当にモフモフが好きだな」

「ドミニクが好きなんだよ! ね、ドミニク」


エルネスタはドミニクの毛皮に半ば埋もれながら、艶やかな毛並みを撫でた。ドミニクは気持ち良さそうに、ゴロゴロと喉を鳴らす。


「ねぇ、クリス、前にここのクランも合同討伐クエストに参加するって言ってたけど、クリスも行くの?」

「ああ、そのつもりだよ。エルのおかげで、ドミニクっていう強い味方も付いているからね」

「ドミニク、強いんだ」

「白虎が弱い訳無いだろう?」

「そうか。ふぅん……」


少し沈んだ様子のエルネスタを見て、クリストフは尋ねた。


「エル、合同討伐クエストがどうかした?」

「……うん、ちょっと心配で」


クリストフは、エルネスタが自分を心配していると思い、少し浮かれたが、続く言葉に落胆した。


「友達がね、その合同討伐に行くことになって、心配で……」

「その、討伐に行くエルの友達って、冒険者?」

「ううん、魔術師見習いだよ。軍に同行して、前線に出るらしくて」

「魔術師かぁ、今回のクエストでは、最前線だな。物理攻撃の効き辛い魔物がメインらしいから」

「ボクもそう聞いた。だから、心配で……」


エルネスタはドミニクの毛皮に顔を突っ込み、暫く動きを止めた。そして、プハッと息を吐き出すと、頭を振って気持ちを切り替えた。


「クリスも行くなら、気を付けてね。怪我しないで」

「ああ。俺達のような初級冒険者は、後方支援が主な役割だからね」

「でも、ドミニクを連れていると、前線に出されたりしない?」

「俺の技量じゃ、間違っても無いな」

「何言ってるのー」

「いや、半分は冗談じゃないさ」


そう言うと、クリストフは武器の説明を始めた。ドミニクに騎乗して魔物と戦う場合、クリストフが使っている片手剣では届かない。なので、サブウェポンにチェーンフレイルを持つことになり、練習を始めたばかりだという。


「そう言う訳で、全然、最前線なんてお呼びじゃ無いんだ」

「そうは言っても、状況次第では分からないよ」

「まあな」

「気を付けてね。無茶しないで」

「了解。エルの為に無傷で帰って来るから」

「ボクの為じゃないの! クリスの為だよ」


そう言うと、二人で笑い合って、その日はお開きになった。


邸に帰ってからも、エルネスタは沈んだ気持ちが上向くことがなかった。その様子を見かねたマーサから、アレクシスに話が行ったらしい。エルネスタは夕食後のお茶出しの際、自分のお茶も淹れてアレクシスの隣の椅子に座るよう促された。


「エル、皆が心配している。何故、沈んでいるんだ?」

「いえ、別に……」

「例の友達の件か?」

「……ボクの周りは、守るとか、ボクの為にって言うばかりで……ボクだって守りたいし、役に立ちたいのに」

「成る程」


アレクシスは、出された茶菓子をエルネスタに勧めた。エルネスタは、モソモソと茶菓子を囓る。喉が詰まるのを、お茶で流し込んだ。


「以前、その友達とエルの立場が違うと話したな。その意味を誤解していないか?」

「誤解?」

「人はそれぞれに、寄って立つ場所がある。そして、その場所で自分の出来る事をする。一所懸命に努める事、それが全てだ」

「……難しいです」

「自分に出来る事を精一杯するのが大事、って言う事だ」

「自分に出来る事……」


エルネスタは黙って、カップに残ったお茶の表面を眺める。アレクシスはそれを見守り、静かにお茶を口にした。


思い悩むエルネスタを余所に、軍や冒険者協会による準備は着々と進み、いよいよ大規模な合同討伐クエストが開始された。軍が先発して前線基地を設け、冒険者協会は招集した冒険者達を順次、送り込んだ。


協会は今回も、上級冒険者達に指名依頼をしていた。王都最強と言われる『紅刃(こうじん)』を始めとして、『蒼牙(そうが)』『白爪(はくそう)』といった錚々たるメンバーに、クリストフのいるクラン代表の『黒槌(こくつい)』のトールも参加する。瘴気溜まりの浄化には、エキスパートの『翠聖(すいせい)』ヴィルヘルムも呼ばれている。豪華な布陣だ。


遥か後方から中心人物達を見ながら、クリストフは息を飲んだ。勢いで参加してしまったが、この中で自分に出来る事があるのか、と思った。傍らの白虎ドミニクを撫で、気を落ち着ける。ドミニクを撫でていると、この騎獣をテイムした時の事、エルネスタの笑顔が思い出される。何でもいい、自分に出来る事をして、エルネスタを守るのだ。そう、心に誓った。

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