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武闘派と学究派

エルネスタは魔力を練りながら、心の中でテオフィルに呼び掛ける。


『テオ、今から行くよ』

《……エル……》

『道を繋げたいから、なるべく気をしっかり持っていて』

《……道……繋ぐ?……》

『迎えに行くよ』


エルネスタは魔力を放ち、テオフィルの声が聞こえる方へ一歩踏み出した。視界が一瞬、光の粒に覆われた後、霧が晴れるように辺りの景色が見えてくる。もう一歩踏み出すと、そこは既に魔術師団塔のヘルムートの部屋ではなく、見知らぬ森の中だった。


「テオ、何処なの?」

「……エル……なのか?」


エルネスタが声を掛け辺りを見回すと、足元にある草叢がガサリと音を立て、中から傷だらけの手が伸びる。その手をとって屈み、草叢を覗き込んだ。


「……エル……どうやって……」

「会えて良かった。テオ、迎えに来たよ」


久しぶりに見る友達は、随分と面窶(おもやつ)れしていた上、着ているローブもボロボロだった。おそらく、魔力も枯渇しているだろう。エルネスタの(ささ)やかな魔力量では、譲渡してやる事も難しい。


エルネスタはテオフィルの手を両手で握り、魔力を練った。先程まで居た魔術師団塔を思い浮かべて、片手を離し魔力を放つ。光の粒は二人を包み込み、辺りの景色が歪む。瞬く間に、二人は魔術師団塔にあるヘルムート師の部屋に現れた。


「テオフィル!」

「エル!」


二人の魔術師は、弟子達に駆け寄った。ガイラルは消耗の激しいテオフィルを抱え上げ、部屋に備え付けの仮眠用ベッドに横たえた。ヘルムートは魔力切れ寸前のエルネスタに、魔力譲渡して声を掛ける。


「よくやった、エル」

「何とか上手くいきました、ヘルムート様」

「テオフィルが何処に居たか、分かるか?」

「森の中で、草叢の陰に倒れていました」

「森か。軍の演習用の森かも知れん」


テオフィルの介抱をヘルムートの弟子に任せて、ガイラルが話に加わった。


「演習用の森だとすると、まだ前線に出る前だったという事だな」

「おそらく」

「エルの魔力量だと、もし前線に出ていたら、二人で戻るには厳しかっただろう。危なかった」

「さて、後はイェレミアスの奴をどう黙らせるかだ」


ヘルムートとガイラルの話は、テオフィルの事から次第に離れて、武闘派(のうきん)学究派(ひきこもり)との対立に及んでいった。


エルネスタは、師匠二人の話には付いて行けないので、ヘルムート師の弟子に混ざってテオフィルの介抱をした。顔や手足を拭われたり、ボロボロのローブを着替えさせられたテオフィルは、人心地ついた後、気絶するように眠ってしまった。


エルネスタは、テオフィルを助けられて良かったという思いと、自分のせいで辛い目に遭わせてしまったという思いとが綯い交ぜになって、複雑な気持ちだった。


帰りの馬車で、エルネスタはアレクシスに今日の出来事を報告した。アレクシスは話を聞き終えると、エルネスタに言った。


「この件は、エルのせいではない。元々、このような懸念があったから、魔術師団に通うのを反対していた」

「でも……」

「友達を案ずるのは分かるが、魔術師団には深入りしてはいけない。エルは、私の秘書だろう?」

「……はぁい」


翌日からエルネスタの日常ルーティンに、仕事後の魔術師団塔通いの他、テオフィルの見舞いが加わった。テオフィルの部屋は、ガイラル師の隣で、ヘルムート師の部屋から二つ下にある。訓練を終えたエルネスタが階段を下りて訪ねると、ガイラル師の案内でテオフィルと顔を合わせた。テオフィルは、まだ起き上がれない状態のようだ。


「テオ」

「エル、久しぶり。助けてくれて、ありがとう」

「大丈夫?」

「まだフラフラするんだ」

「テオが魔力切れなんて……ボクでは、魔力譲渡するほど量がないし……」

「来てくれるだけで嬉しいよ」


テオフィルが疲れないように、短時間で見舞いを切り上げる。その代わり、エルネスタは毎日顔を出した。テオフィルは日毎に回復の兆しを見せる。エルネスタが見舞いに通う足取りも、徐々に軽くなっていった。


「エル、どうやって俺を助けに来れたのか、聞いていいか?」

「それはね、ボクの精霊魔法だよ。ここで訓練するうちに、精霊の近道を使えるようになったんだ」

「精霊の近道か。エルも精進しているんだな」

「テオはどう? 魔法、覚えた?」

水撃弾(ウォーターバレット)とか、(フォグ)とかなら使えるよ。後は、(フォグ)の応用で隠遁(ハイド)とか、かな」

「凄い! さすがテオ!」


エルネスタが訓練後、いつものように階段を下りて行くと、ガイラル師の部屋から話し声が聞こえた。聞き慣れない声で、ガイラル師の声が殆ど聞こえないほど大きい。誰だろう、と思いつつ隣の部屋に入って、テオフィルを見舞う。


「テオ、調子はどう?」

「エルが来てくれるだけで、気分がいいよ」


隣から絶えず聞こえていた声が止むと、程無くこの部屋のドアがノックされ、テオフィルの返事を待たずにドアが開かれた。

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