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呼び声

その後、クリストフ以外のクランの面々が日暮れまで粘って騎獣狩りをした。一人が騎獣獲得に成功したが、他は空振りだった。成功した一人は、赤鹿をテイムしていた。


狩り場から少し離れた場所で野営し、翌日、帰路につく。帰り道は、上級冒険者二人の他、新たに騎獣獲得した二人が馴らしがてら騎乗し、他の面々は馬車に乗った。エルネスタは、クリストフと白虎に同乗した。


白虎は、まだ若い個体だったが、エルネスタ達を易々と乗せて走って見せた。


「クリス、この子は何て名前にするの?」

「そうだな……エルがテイムしたから、エルが付けてくれ」

「えー、クリスの騎獣なんだから、クリスが付けてよ」


二人の会話に、フロルに乗ったサイラスが近付き、口を挟む。


「エル、名前付けてあげたら? クリスは、君が付けた名前を呼びたいんだよ」

「えー、何で?」

「名前を呼ぶ度に、エルとテイムした事を思い出せるだろう?」

「ふーん……そういうもの?」

「そういうもんさ」


何だかよく分からない理屈だが、サイラスの執り成しをクリストフが激しく首を縦に振って肯定するので、エルネスタは名前付けを引き受ける事にした。


「うーん……白いからヴァイス? 虎だからティガー? それとも、猫っぽいからカッツェ? キトン?」

「型通りに付けなくていいよ。エルの思った名前で」

「……ドミニク」

「よし、ドミニクで決まりだ!」


クリストフは嬉しそうに、新しく付けた名前を呼びながら騎獣を撫でる。それを見ていたエルネスタも、つられて嬉しくなった。


一行は王都へ戻ると、旅装を解くなり通常の鍛錬を始めた。大規模な合同討伐クエストが近いので、皆、気合いが入っているようだ。エルネスタは借りていた装備品を返すと、邸に戻って休んだ。素人には、体力的に厳しい行程だったのだ。


翌日、出仕する馬車の中で、エルネスタは怠そうにしていた。それを見たアレクシスから、休日の事を聞かれた。


「疲れた顔をしているようだが、騎獣は無事に獲得できたのか?」

「はぁい、兄は白虎の仔をテイムできました! ドミニクって名前で、とってもモフモフで可愛いです!」

「……それは良かったな」


怠さを吹き飛ばす勢いで説明するエルネスタに、アレクシスはやや引き気味で返答した。


それから、通常通りに仕事して、そろそろ魔術師団塔へ向かおうかという頃、エルネスタの耳に微かな声が聞こえた。小さくて聞こえ辛い声だったが、とても切羽詰まっているのは分かった。


《……エル……もう……ダメ……》

「誰?」

《……俺……テオ……》

「テオなの? 今、何処?」

《……分から……》


突然、動きを止めて、誰も居ない方へ話し出したエルネスタを不審に思い、アレクシスは声を掛けた。


「エル、一体どうしたんだ?」

「何処からか、声が聞こえるんです。どうやら、友達の声らしくて、でも聞こえなくなってきたので、心配で……」

「とりあえず、そういう案件はヘルムート師の管轄だ。少し早いが、行って相談してみなさい」

「はぁい」


魔術師団塔へ行くと、エルネスタは早速ヘルムート師に先程の件を相談した。


「声が聞こえたのか? その、テオフィルから?」

「凄く微かな声でしたけど、テオって言ってました」

「場所は言っていたか?」

「よく聞こえなかったんですが、本人にも分からないみたいなこと言ってたような……」

「ううむ……」


ヘルムート師は暫く考え込んでいたが、何か思いついたようで、弟子の一人に言付けて遣いに出した。そして、戻って来た弟子はある人物を伴っていた。


「何か用か、ヘルムート」

「ああ」

「あっ、テオのお師匠様!」


現れたのは、テオフィルの師匠であるガイラルだった。ガイラルはエルネスタに気が付くと、ヘルムートに向けていた無愛想な表情を一変し、相好を崩した。


「エル、元気にしていたかい?」

「はぁい、毎日ここに魔術の練習しに来てます! お師匠様、テオは何処に居るんですか? 変な声が聞こえて、心配なんです」

「声?」


ガイラルには、ヘルムートから経緯を説明した。ガイラルは話を聞くと、顔色を悪くした。


「実は、テオフィルに王都から召喚状が来たのだ。それで二人して王都へ転移陣で戻って来て()ぐ、テオフィルは師団長に連れて行かれたんだよ」

「何処に?」

「近々、王都付近一帯で大規模な魔獣の討伐クエストがあるという。それに王都軍も参戦するらしい。魔術師団も軍に同行するのだが、その中にテオフィルが加えられてな」

「テオが、魔獣討伐に? まだ攻撃魔術があまり出ないのに」

「テオフィルは魔力量が多いのを、師団長のイェレミアスに目を付けられてしまって、事前の訓練から駆り出されて……無事だといいが」


ガイラルの悲痛な声に、ヘルムートは項垂れ、エルネスタは震え上がった。


「済まない。イェレミアスの奴が、エルに目を付けたので、焦って目を逸らそうとつい、テオフィルのことを口にしてしまった」

「え、じゃあテオはボクのせいで危ない目に遭ってるの?」

「エルのせいではない。私が悪いのだ」

「ヘルムート様……」


項垂れたヘルムートを、ガイラルは無表情に見遣った。エルネスタはヘルムートを気遣うように背を撫でると、ガイラルに向き直った。


「お師匠様、ボク、テオを探しに行きます」

「エル、そうは言っても、テオフィルの居場所ははっきりしないのだよ? まだ訓練中なのか、もう前線に移動したのか」

「声が聞こえたんだから、道が繋がるかも」

「道?」

「ボクの精霊魔法で、精霊の通る近道みたいなものがあって、魔力を出しながら思った場所に道が繋がるんです。これなら、テオのところに行けるかも」


ガイラルとヘルムートの見守る中、エルネスタは魔力を練った。

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