冒険者達と騎獣狩り
王宮での仕事から邸に戻って来たエルネスタは、クリストフからの言伝を聞いた。騎獣狩りに同行して欲しいという話だ。エルネスタは、種類問わず、モフモフとした生き物が大好きなので、騎獣狩りは魅力的な誘いだった。
その日の夕食後、アレクシスへのお茶出しの時に、エルネスタは兄から騎獣狩りに誘われた事を話して許可を求めた。
「アレクシス様、次のお休みを二日間続きで頂けませんか?」
「構わないが、何かあるのか?」
「兄から騎獣狩りに誘われたんです」
「ああ、王都で冒険者をしている兄がいると言っていたな。それにしても、何故エルを誘う? 素人には狩りなど危険ではないか」
「ボクは、何故だか従魔に好かれ易いんですよ。だから、ボクが行くと、騎獣のテイム率が上がるんじゃないかって」
「そんな事で、危険な狩りに妹を呼び出すのか?」
「兄のクランは、上級冒険者が付いています。危険も少ないと思います」
「……行きたいのか?」
「はぁい、是非!」
「気を付けるように」
渋々といった態でアレクシスから許可を貰い、エルネスタは喜び勇んでクリストフへ返事を書いた。手紙は、先輩の小間使いに託して届けられた。
エルネスタは、ヘルムート師にも騎獣狩りに行く事を報告した。
「ヘルムート様、ボク、今度の休みに騎獣狩りへ行くんです」
「騎獣狩り? 何でまた狩りへ?」
「ボクは何故だか、従魔に好かれ易いんですよ。だから、ボクが付いて行けば、騎獣のテイム率が上がるんじゃないかって、冒険者の兄から頼まれて」
「従魔から好かれ易い? ほう、興味深いな」
ヘルムート師の目が、キラリと光を帯びた。
「ガイラルからも、街に居る特殊な魔力持ちの事例を聞いている。やはり、従魔から好かれ易い特徴があるのだ。従魔と魔力の関係は、興味深い研究テーマだな」
「ヘルムート様、ウキウキしてますね」
「いや、つい……まあ、気を付けてな。無事に帰っておいで」
そして、騎獣狩りへ行く当日──
早朝から起きて身支度を済ませたエルネスタは、着替えと携帯食だけ持ってクリストフの下宿へ向かった。冒険者ではないエルネスタには、装備品などの用意は無い。
下宿に着くと、クリストフが用意していた装備品を身に付ける。クリストフのお下がりの外套や胸当て、護身用のナイフなど、最低限の装備だ。素人で戦力外のエルネスタには、これで充分だろう。
それから、クリストフを含めた騎獣狩りの希望者達に、トールが号令を掛けて庭先に集合した。トールは、騎獣の狩り場に詳しい助っ人を呼んでいた。
「お前ら、こいつはここのクランの先輩で、上級冒険者のサイラスだ」
「俺はサイラス、こっちの一角馬はフロル、よろしくな」
「あ、サイラスさん!」
エルネスタは、思わず声を上げた。以前、王都へ来て間もない頃に、迷子になったエルネスタを助けてくれた恩人だ。サイラスの方も、エルネスタを覚えていたようだ。
「おや、君は確か、迷子になってた子だったよね」
「そうです。あの時は、助かりました。ありがとうございます」
「ほう、サイラスとエルは面識があったのか」
トールに問われて、初対面の状況を説明する。トールは笑って、エルネスタの肩を叩いた。
「お前はつくづく、引きの強い奴だな!」
「引き? 何ですか、それ?」
「運が良いって事さ」
それから、騎獣に乗るトールやサイラスを除いた面々がクランの馬車に乗り込むと、狩り場に向けて出発した。
一行は王都を出ると、北西方向に進んだ。草原や荒れ地を過ぎ、丘陵地帯に入る。切り立つ崖を回り込むようにして進み、見えてきた森の中を行くと、木々に隠れるようにして小さな泉があった。そのほとりには草地が広がっていて、水を求め集まった動物達が佇んでいる。その群れの中に、騎獣になりそうな一角馬や大山猫などが混じっていた。
トールとサイラスの指示で、クランの面々は森の外で馬車を降り、徒歩で泉の傍まで来ていた。ディーンとフロルも、馬車の近くで待機している。泉を臨む位置に潜んだ一行は、サイラスから小声で騎獣狩りの注意を受けた。
「泉の傍では、一切攻撃しないこと。水場を離れたターゲットを追跡して、テイムの機会を窺うんだ。いいか?」
「「「了解です」」」
「はぁい」
エルネスタは、クリストフの隣から泉を覗き込んだ。クリストフを含むクランの面々は、それぞれにテイムを狙うターゲットを定めたらしい。エルネスタはこっそり尋ねた。
「クリスはどの子がいいの?」
「迷ってるんだ。赤鹿か一角馬か」
「クリスと相性の良い子がいいね。あ、あの子はどう?」
エルネスタの指差す先には、ちょうど水場を離れた白い大きな猫がいた。クリストフは目を剥いた。
「あれは白虎の仔じゃないか! 無理!」
「えー、可愛いのに。相性も良さそうだよ?」
そう言いながら、エルネスタは白虎の後を追う。クリストフはハラハラしながらエルネスタに付き添った。エルネスタは、白虎が自分やクリストフと仲良く戯れる様子を想像しながら、魔力を練って、白虎に放った。光の玉は、ふわりと飛んで白虎に当たると、パッと光の粒が弾けて白虎を包み込む。動きを止めた白虎に、エルネスタはクリストフを連れて近付いた。
「虎ちゃん、仲良くしてね」
エルネスタが白虎を撫でる。白虎は、エルネスタを受け入れて、ゴロゴロと喉を鳴らした。クリストフは、唖然としてエルネスタと白虎を眺めた。
「ほら、クリスも虎ちゃんを撫でてあげてよ」
エルネスタに促されて、クリストフも怖々、手を伸ばした。モフモフとした白虎の毛皮が手に触れる。白虎はフンと鼻を鳴らしたが、クリストフを拒否することはなかった。
「凄いな、あっという間にテイムしやがった!」
「想像以上だ……エル、只者じゃないね」
遠巻きにその様子を見ていた上級冒険者二人が噂するのをつゆ知らず、エルネスタとクリストフは白虎と戯れた。




