出会い
王都行きを決めてからも、エルネスタは魔力循環の練習をする為に、テオフィルの所へ通った。テオフィルの方では、心穏やかではないものの、一緒に過ごせる残り僅かな時間を惜しむように、熱心な訓練振りを見せた。
そうして、四阿に二人で居る時に、何処からかふよふよと変わった鳥が庭に舞い降りた。白銀に輝く翼と羽毛に被われた、見たことの無い鳥だ。いや、鳥に見えるが、嘴に見えるそれには鋭い歯があり、細長い胴から前肢が突き出している。鳥では無さそうだ。
「テオ、この子、何だろう? 鳥?」
「うーん……何処かで見たことある気がする」
その鳥では無さそうな何かは、エルネスタ達を見ながらグェーだかギャオーだか、可愛くない声で鳴く。すると、その声に応えるように、邸の生け垣越しに声が掛かった。
「ルーイ、勝手に入ったら駄目だよー」
「誰?」
「ああ、ここの家の人? 入ってもいいかな?」
テオフィルが生け垣の破れ目から顔を出し、声の主を手招きする。
「こっちからどうぞ」
「お邪魔するよ」
声の主が庭に入って来ると、エルネスタは一目見て気が付いた。
「あっ! この間の、デューイと一緒に居た人!」
「おや、君、デューイと知り合い?」
「デューイとは中央広場で会って、その時、撫でさせてくれたよ。あ、そうだ、その時デューイの名前教えてくれた人だよね?」
高い背丈と薄茶色の髪、水色の瞳。その時に会った人に間違い無い。エルネスタの問い掛けに、青年は笑顔で答える。
「中央広場でデューイと会った子かぁ。ウチの連れと一緒で、従魔に好かれ易いタイプなんだろうねー」
「連れ?」
「あ、置いて来ちゃった。おーい、こっちだよー」
青年が呼び掛けると、生け垣の破れ目からもう一人、庭に入って来た。
「何て所から入って行くんだよ、ステフ。門から入れ」
「だって、ここから呼ばれたしー」
「だってじゃないだろう。ああ、君たち、驚かせて悪かったな」
そう言ってエルネスタ達に向けた顔に、見覚えがある。麦わら色の髪に緑色の瞳、整った顔貌、従魔連れの人物といえば、この街に知らない者はいない。
「有名な冒険者さん! ええと、すい……『翠聖』のヴィルヘルムさんだ!」
「ああ、よく知ってるね」
「だって、有名だもの」
エルネスタが目を輝かせて言うと、隣のテオフィルはキョトンとして、その場の面々を順繰りに見遣る。王都でも宮廷魔術師付きで勤めていて、街に来ても日の浅いテオフィルは、世情に疎かった。
「二つ名付きの冒険者ってことは、上級なのか?」
「あ、テオは知らない? 街では有名なんだよ。すっごい美人で、強い従魔をいっぱい連れてる上級冒険者さんなんだ」
「俺は、上級冒険者って、同じ村出身の氷属性魔力持ちしか知らないんだ」
テオフィルの言葉に、ヴィルヘルムが反応を示す。
「氷属性魔力持ちって、『蒼牙』のレフのことか?」
「そうだよ。レフを知ってるの?」
「知り合いだ。何度もクエストで一緒になるんでね」
そうして話している四人の周りを、ルーイと呼ばれる従魔がふよふよと飛び回る。エルネスタは、そのふわふわに見える羽毛を撫でてみたくて、ステフと呼ばれた青年に聞いた。
「お兄さん、この子、撫でてもいい?」
「ルーイに聞いてごらん」
「ルーイ、撫でてもいい?」
エルネスタが手を差し伸べると、ルーイはすいーっと寄って来て、その身を擦りつけた。
「うわぁ、ふわふわ! 可愛い!」
「へぇ、羽根竜が懐くなんて、君もテイマーの素養があるのかな?」
「テイマーって、何?」
「魔物遣いのことだよ。ヴィルもテイマーの素養がある一人だね」
「ボクもヴィルヘルムさんみたいになれる?」
「君は冒険者になりたいの?」
「まだ考えたことない。出来そうな仕事してるだけ。もうすぐ、今の雇い主に付いて行って、王都へ行くんだ」
「君はまだ成人前だろう? ゆっくり考えたらいいよ」
青年はそう言って、エルネスタの頭を撫でた。その様子を、隣で微笑まし気に見ていたヴィルヘルムが、思い出したように言う。
「そういえば、ここは宮廷魔術師のガイラル師の邸か? 指名依頼で訪ねて来たんだが」
「あっ、師匠のお客様ですか? 今、呼んできます!」
テオフィルが邸へと駆けて行き、エルネスタは冒険者達と庭に残された。ルーイのふわふわな羽毛を撫でながら、エルネスタは改めて二人に挨拶した。
「ボク、エルっていいます。さっきの、宮廷魔術師さんの弟子がテオっていって、友達なの。ボクは、役場の文官をしている雇い主付きで、侍従見習いしてるんだ」
「よろしく、エル。オレはステフ。ヴィルの連れで、冒険者だよ」
「俺はヴィルヘルム。同じく、冒険者だ」
「ボクの兄の一人も、冒険者だよ。王都で修行してるの」
「さっき、もうすぐ王都へ行くって言ってたね。お兄さんが王都に居るなら、心強いよね」
「そうだな。王都は広いから、知り合いに案内して貰うといい」
「ボク、不安だったけど、少し楽しみになってきたかも」
取り次ぎに走っていたテオフィルが戻り、冒険者二人を邸内へ案内して行く。エルネスタは三人を見送って、四阿に腰掛けた。暫く待つと、テオフィルが四阿へ顔を見せる。
「あの冒険者さん達、師匠の魔力調査の為に呼んだらしいよ」
「魔力調査?」
「えっと、上級冒険者さんの方が、特殊な魔力持ちなんだって。レフやエルみたいに」
「そっかぁ……」
その後、何となく練習を再開する気になれず、二人でぼんやりと残り時間を過ごした。
前作の主人公キャラ達と会わせてみました( ´艸`)




