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勘違い

数日間、エルネスタは今後の身の振り方について考えてみた。しかし、幾らうんうん唸って考えてみても、答えを出せない。一人で悩んでいる事に限界を感じて、もう一度身近な人に相談することにした。ここは、同じ邸で働く仲間がいいだろう。


仕事終わりの使用人控室で、エルネスタはバルドルやマーサに王都での話を聞いてみた。二人は、王都の邸から主に付いて、この街に来ている。


「バルドルさん、王都ってどんな所?」

「そうだな。街に比べると賑やかだし、人も多い。邸も、ここよりは広いし、使用人も多く居るぞ。ちゃんと執事も居るし、侍従も居たな」

「じゃあ、ボク、王都では何をやるの?」

「居たと言っただろう? 俺が侍従をしていたんだ。エルが王都へ行くなら、侍従はエルの役目さ」

「そうだったの」


アレクシスは、街への出向が期間限定と知っていて、連れて行く使用人を少なくしていたのだろう。小間使いだけ現地で雇い入れ、邸も小さいもので済ませればいいと思っていたらしい。


「王都の邸って、マーサさんの他にも、女中さんいっぱい居るの?」

「いっぱいって程じゃないけど、何人かは居るわ。料理人も居るし、下働きも居るのよ」

「こことは随分、違った感じの所なんだね」


エルネスタは、ここの小ぢんまりした雰囲気に慣れてしまったので、王都の邸に馴染むには時間がかかるかも知れないし、()してや、侍従として雇われるとなると、女の自分で通用するのか分からない。


「ボク、やっていけるか、自信無い」

「それなら、まずはその心配な処を、ご主人様にご相談したらどうかしら?」

「マーサの言う通りだ。気になる事を聞いてみて、それから考えたらいい」


二人の助言で、エルネスタはまず懸念材料を聞いてみることにした。翌日の夜、夕食後のお茶出しをしながら、アレクシスに話し掛ける。


「アレクシス様、王都行きのお誘いに関して、お聞きしたい事があるんですが」

「何だね?」

「ボクは、侍従として雇われるのですか?」

「そのつもりだが?」

「侍従って、女のボクにも勤まるんでしょうか」

「……え?」


アレクシスは固まった。エルネスタは暫く、主の返事を待っていたが、話だけで無く、全ての行動が止まって動かないのを見て、不審に思った。


「あの……アレクシス様?」

「……」

「大丈夫ですか?」

「……な?」

「はい?」

「エルが、女?」

「はい、そうですけど、何か?」


再び動きを止めるアレクシスに、エルネスタは戸惑い声を掛ける。


「アレクシス様、アレクシス様、息してますか?」

「……はっ!?」

「気がつかれました? アレクシス様」

「ああ、何だか幻聴が……」

「お疲れみたいですね」

「いや、大丈夫だ」


エルネスタは、すっかり冷めてしまったお茶を淹れ直す。手付かずのカップを下げて、湯気の立つカップを主の前に出す。その様子をじっと見ていたアレクシスは、出されたお茶を一口飲むと、切り出した。


「先程の話は、本当か? エルは女の子だと」

「はい。ボクは自分が男の子と言ったことはありません」

「確かに、言ってはいなかった。では、何故こういう勘違いが起こったのだ?」

「多分、街の人達、皆さんボクを男の子と思っています。ボクは孤児で、養父母のところは男の子ばかりでしたし、同じように育てられて、着る物も彼らのお下がりでしたし」

「成る程」

「ボクはここのお仕事を紹介されるに当たって、下働きと聞いていました。下働きなら、男女関係無いですし」

「ふむ、そうだな」

「ここで働くうちに増えていったお仕事は、お手伝いとか見習いとかで、まだボクでも(こな)せる範囲かな、と」

「そうだ。よくやってくれている」

「だけど、王都で、最初から侍従のお仕事となると、今までのようにはいかないかな、って思って」

「エルの懸念はよく分かった。こちらも考えておこう。ただ、これだけは変わらないからな」

「え?」

「私が、エルの人柄を買っている事だ。仕事の内容や処遇はこれから考える。是非とも、王都へ来て欲しい」

「は、はい……よく考えます」


茶器を片付けて、部屋から下がると、ワゴンを押して厨房へ向かう。使用済み食器をシンクに入れてから、厨房脇の使用人控室に行った。そこでは、バルドルとマーサが、夕食の賄いを用意していた。


「遅かったな、エル」

「ちょっと話が長引いちゃって」

「ああ、心配事を聞いてたのか。それで、解決したか?」

「うーん……どうだろう」


エルネスタは、この際だから、バルドルとマーサにも聞いて貰った方がいいと思えた。


「バルドルさん、マーサさん、ちょっと聞きたいんだけど」

「何だ?」

「どうしたの、改まって?」

「あの……お二人共、ボクを男の子と思ってますか?」

「そうだろう?」

「違うのかしら?」

「ボク、女の子なんです」

「「ええっ!?」」


主に引き続き、この二人も固まってしまった。何だか相談するどころではなくなり、すごすごと自室に引き上げた。

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