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家族会議

次の休日に、家へ帰って来たエルネスタは、家族勢揃いしているのに驚いた。養父母、長兄ジークベルト、次兄フリッツ、三男ゲオルク、四男ルドルフが、エルネスタを囲み微笑んでいる。さすがに、王都にいる五男のクリストフはいなかった。


「ただいま! みんな、どうしたの?」

「お帰り、エル。みんな、お前のことで、心配して集まったんだよ」


養父の言葉に、皆が頷く。エルネスタは首を傾げた。


「ボクのことで、心配って?」

「フリッツに聞いたんだが、エル、魔力が発現したらしいね」

「うん、ボク、魔法が使えるようになったよ! 今、毎日練習してるの」


エルネスタの能天気な物言いに、聞いている皆は、がっくりと肩を落とした。


「エル、魔力の発現っていうのは、大変なことだぞ!」

「そうなの?」

「誰もが使える力ではないんだ。埋もれさせるには、惜しい力なんだぞ。それを生かすことを考えないと」

「……よく分からない」


諭すような次兄フリッツの言葉に、エルネスタは俯く。ただ単に、珍しい力を授かって浮かれていた自分を、恥ずかしく思った。


魔力持ちは、その殆どが王侯貴族階級で、庶民には滅多に現れない。庶民の魔力持ちは、魔力量の多さから力が暴走して発覚することが大多数で、力の制御は自力で獲得する他は無く、大概の魔力持ち庶民は希少な力を生かす為に冒険者の道を選ぶ。


街にはこれまで、他所から流れて来る冒険者位しか魔力持ちは居なかった為、エルネスタが魔力の何たるかを知る機会は無かった。エルネスタの様な存在自体が希少なのだから、無理もない。他の兄弟達にしても、よく分からない力を持ってしまった末っ子に対する心配で、今回、集まったに過ぎない。


「じゃあ、ボクはこれからどうしたらいいの?」

「別に、今まで通りで構わないよ。ただ、授かった力をどう生かすのか、よく考えることだ」


養父母に頭や背中を撫でられて、エルネスタは不安な気持ちが少し和らいだ。


「しかし、エルが魔力持ちだったなんて、そんな感じなかったのに」

「ああ、それはエルの実の両親から受け継いだものだろうな。彼らは、東部の大森林地帯から来たと言っていたから」


三男ゲオルクの疑問に答えた養父の言葉は、エルネスタに衝撃を与えた。今まで、孤児の自分に対して、分け隔て無く育ててくれた養父母のお陰で、自分の出自に疑問を持ったことがなかった。自分は何者で、何処に向かうのか、生まれて初めて、エルネスタは己と向き合うことを余儀なくされた。


「エルに魔力があるって、本当なのか?」

「うん、本当だよ。見る?」

「ああ」


四男ルドルフのリクエストで、エルネスタは魔力を循環させる。ある程度勢いをつけたところで、魔力を押し出し、掌から光の玉を出して見せた。虹色に揺らめく光は、暫く瞬きを繰り返してから空気に溶けるように消えた。


「これって、何型の魔力になるんだ?」

「テオの師匠は、四大元素型ではないって言ってたよ。珍しいみたい」

「テオって誰だ?」

「ボクの友達だよ。テオの師匠は、元宮廷魔術師さんなんだって」


長兄ジークベルトの疑問に、エルネスタは答える。


「ええと……ボク、考え無しかな?」

「まだ成人前なんだ、これから考えたらいい」


養父の言葉で、エルネスタを少し安心した。その後は、久しぶりに集まった家族と共に、普段通りの一家団欒な時を過ごした。


帰り際に、次兄フリッツがエルネスタを送って行く途中、テオフィルのところに寄りたいと言う。面識のあるフリッツが行く方が話が早いだろうと、兄弟達は判断した。


テオフィルの邸へ寄り、いつもの四阿からエルネスタが声を掛ける。フリッツは、生け垣の外で待っている。暫くして現れたテオフィルに、エルネスタは話す。


「今日は、リッツがテオと話したいって言って、付いて来たの。呼んでもいい?」

「エルのお兄さんだよね。何の用かな?」


テオフィルが了承して、フリッツが庭に入り話し出した。


「今日、うちの家族全員で、エルの魔力について話し合ったんだ。うちには、魔力について詳しいことの分かる奴は居ない。エルの今後について、君のところの師匠と、うちの親が話したいと言うんだが、どうだろう?」

「師匠は、生活が不規則なんで、約束が難しいんだ。こちらの都合で来れるか?」

「母なら時間に自由が利く。兄弟では、俺が一番、都合がつけ易い。ある程度時間を予測できるなら、合わせるぞ」

「分かった。師匠に話しておくよ」


用の済んだフリッツは、早々に帰り、エルネスタとテオフィルが残された。四阿に並んで座り、エルネスタはふっと溜め息を漏らした。


「ゴメンね、テオ。うちの人達、なんだか大騒ぎして」

「無理もないよ。俺の時もそうだった」

「テオも?」


テオフィルは、師匠のところに弟子入りした経緯を語った。


「俺は北の僻地の生まれでさ、たまたま同郷の冒険者に魔力持ちが居て、それが四大元素型魔力の中では珍しい氷型だったんで、師匠が興味を持ったんだ。それで、師匠が村に調査しに来た時、俺の潜在魔力がやたらと多いのが分かってさ。村中、大騒ぎだった」

「村中かぁ。テオも大変だったんだね」

「庶民の魔力持ちって、少ないからな、仕方ないよ」


話しながら、そわそわと落ち着かない様子のテオフィルに、エルネスタは問いかける。


「テオ、どうかした?」

「いや、何でもないよ。練習する?」

「うん」


手を差し伸べるエルネスタに、テオフィルはその手を握って魔力を流す。いつもの魔力循環練習だ。そして、お互いに魔力を押し出して、最後に掌から放出する。光の玉と水の玉が空中を漂い、消えていった。


「じゃあ、またね、テオ」

「エル、待って」


帰ろうと席を立ちかけたエルネスタを、テオフィルが引き留める。


「何?」

「あのさ……魔力交換、しないか?」

「何、それ」

「この間のみたいな、緊急用の魔力譲渡の……その、加減が難しいから、慣れておきたいかなって……」

「ふぅん」


しどろもどろに言い募るテオフィルに、エルネスタは怪訝な表情を見せる。


「それって、練習しないとダメなもの?」

「俺には加減が難しいんだ。また多過ぎて、エルが酔っ払っても大変だろうし……いい?」

「うーん……いいよ」


エルネスタが了承すると、テオフィルは喜び勇んで口吻した。確かに魔力の行き来はあったものの、何の練習になるのか、エルネスタには分からなかった。

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