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独り立ち

新作、始めます。

よろしくお願いします<(_ _)>

物心ついた頃にはもう、エルネスタは天涯孤独な身の上だった。


この街で、孤児は珍しくない。幾つかある孤児院は何時も満員だし、路上に浮浪者と混じって孤児の姿もよく見掛ける。エルネスタも、自分の身の上を、殊更に不幸と思ったことはない。


亡くなった両親のことは、はっきりとは覚えていないエルネスタだったが、一つだけ、鮮烈な記憶がある。エルネスタが両親に手を繋がれて、何処かの森の中を歩いていると、木々の間からふわりと舞い飛ぶ光に包まれた。


「お母しゃん、あれ、なぁに?」

「それは****よ、エル、仲良くしてね」

「お父しゃん、抱っこ」

「エルは甘えん坊さんだな。****に笑われるぞ?」


記憶の中の言葉ははっきりしないが、その時の躰がフワフワ浮くような高揚感と、両親の穏やかな笑顔とが、今も思い出す度にエルネスタを幸せにする。


エルネスタは、街中の子沢山な家族の所で、世話になっていた。この家の夫婦が、エルネスタの両親と生前、懇意にしていたらしい。孤児となったエルネスタを迷い無く引き取り、自分の子供達と分け隔て無く育ててくれた。


養父母を慕い、恩義を感じているエルネスタだったが、自立心も旺盛だった。早く独立して養父母に仕送りし、恩を返したいと思う一方で、あの記憶の中で見た光に、再び出会うことを夢見ていた。


兄弟達は、男ばかり五人で皆粗雑だったが、エルネスタはその中で揉まれて、女の子ながら逞しく育った。一番年下でお下がりの男物の服ばかり着るのと、兄弟達に倣った立ち居振る舞いとで、近所の人達はエルネスタを男の子と信じて疑わなかった。呼び名も『エル』で、男女どちらともつかない。


エルネスタの外見は、緩くウェーブしたハニーブラウンの髪に、ラピスラズリのような濃い藍色の中に星の散ったような瞳で、愛らしい顔貌(かおかたち)をしている。兄弟達が揃って、焦茶色の髪に灰色の目をしている中で、際立っていた。黙ってさえ居れば美少女といえるが、粗雑な言動で台無しだった。


兄弟達皆と仲良くしていたが、その中でも歳の近いクリストフと、特に仲が良かった。エルネスタより二つ上のクリストフは、放任主義で開放的な家族の中で、常にエルネスタの世話係のような役回りを担っていた。周りの家族からは「過保護!」と言われていたが、クリストフは一切耳を貸さず、最愛の妹を甘やかす。


着替えをすれば──


「クリス、ボクはもう一人で着替え出来るよ」

「ほら、ボタンが掛け違ってるよ、エル」


食事時には──


「ボク、自分でご飯食べれるってば」

「そう言って、嫌いなもの除けでるだろう? エル、あーん」

「……あーん(´□`)」


遊びに行っても──


「クリス、着いて来ないで!」

「この前、迷子になったのは誰? さあ、エル、手を繋ごうね」


一事が万事、この調子で、エルネスタは次第に諦めの境地に至った。クリストフがこの家に居る限り、自分に自立する道は無い。クリストフにしたいようにさせ、時が経つのを待つしか思い付かない。エルネスタにとって、クリストフは決して嫌っている相手ではないのだ。ただ、ちょっと愛情表現が重たいだけで。


上の兄弟達に続き、クリストフが成人して家を出る時、エルに向かって繰り返し言って聞かせた。いつもエルを甘やかす時のように、膝に抱いて髪を撫で、耳許で囁く。


「俺が迎えに来るまで、この家で待っていてくれよ、エル」

「でも、あと二年したら、ボクも成人するんだよ、クリス。だから、仕事を探して独り立ちするんだ」

「仕事をしていたって、家を出なきゃいけないことは無いよ。居ていいんだから、家で待っていてくれ」


エルネスタが何を言っても、クリストフの言い分は変わらない。過保護で頑固なクリストフの態度に、エルネスタはいつも通り諦めて、是とも非とも言わず言葉を濁して送り出した。


「手紙、書くからな」

「クリスってば、ボク、まだ字が読めないよ?」

「父さんか母さんに読んで貰えばいいだろう?」

「……分かった」


他の兄弟達が、街中の堅実な仕事を選んで独立したのと違い、クリストフは冒険者の道を選んだ。冒険者は危険は伴うが、己の実力次第で早く一人前になれる。初心者はともかく、クラスが上がれば稼ぎも悪くない。クリストフは一日でも早く、一人前になってエルを迎えに来たかった。そこで、敢えてこの街では無く、王都へ出て修行を積む道を選んだ。


エルネスタは元々、成人を待たず早めに独立して家を出るつもりだったが、クリストフにずっと止められていたのだ。クリストフが家を離れるが早いか、これ幸いとエルネスタは働き口を探した。


伝手(つて)を頼って、エルネスタは住み込みの下働きの仕事を決めた。家から程近い所にある小振りな邸で、使用人も少ない。邸の主人は、街の役場で文官をしているという。


仲介した近所の商家の主に連れられて、エルネスタは邸へとやって来た。

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