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しょうくんはBL漫画家です!  作者: 猫正宗
第1章 BL漫画雑誌『タージマハル』創刊!
4/8

03 睦お姉さんに漫画原稿を見てもらおう

 パーテーションで区切られた場所に、お姉さんと一緒に移動した。

 机と椅子が置いてある。

 ここは打ち合わせのスペースなんだろうか。


「しょうくぅん。そこに座ってぇ」

「は、はい。ありがとうございます……」


 促されるままに着席する。

 するとボクのすぐ隣の椅子に、お姉さんが腰を下ろした。


 あれ?

 多分こういうときって、向かい合わせに座るんじゃあ……?


「あ、あの……お姉さん。場所が……」

「んふぅ。どうしたのしょうくぅん?」


 鼻にかかるみたいな甘い声を出して、お姉さんがしな垂れ掛かってきた。

 腕を絡めてくる。

 柔らかなおっぱいが、二の腕にふにゅっと押し付けられた。


「お、お姉さん。近い、近いですよぉ」

「あら? 他人行儀ねぇ。私は大藤(おおふじ)(むつみ)。『睦お姉さん』って呼んでくれなきゃ、だぁめっ」


 お姉さん改め、睦お姉さんが、ボクの太腿をさわさわと撫でてくる。

 なんだか仕草が色っぽい。


「ふぇぇ……。やめ、やめて下さい、睦お姉さん! そんなにされたらボク、もう……!」

「あら? あらあらあらぁ? 少し大きくなってるかしらぁ?」


 はぅ!?

 気付かれちゃったよぉ!


「んふふぅ……。しょうくんも男の子なのねぇ?」

「ぅう……。恥ずかしいよぉ……」

「恥ずかしがらなくていいのよぉ? だって中学1年の男の子ですものねぇ。これくらい当然よぉ……」


 睦お姉さんが、舌舐めずりをした。

 ますます激しく、ボクの太腿をまさぐってくる。


「だめ! だめです、睦お姉さぁん!」

「なぁにぃ? なにがだめなのかしら、しょうくぅん? ちゃんと言葉にしなきゃ、分からないわぁ?」

「あ、あ、そこはだめぇ!」


 ぅう……。

 どうして、こんなことをするんだろう。

 優しいお姉さんだと思ったのに、酷いよぉ。


 涙が浮かんできてしまう。

 うるうると潤んだ瞳で、睦お姉さんの顔をみた。


「きゅるふぅん!?」


 目があった瞬間、お姉さんが仰け反った。

 びくん、びくんと体を痙攣させている。

 もしかして、またさっきの発作!?


「お姉さん! 睦お姉さん! 大丈夫ですか!?」


 何とかして震えを鎮めようと、お姉さんの体にギュッと抱きつく。


「〜〜*%$#*〆ッ!? あっ、ぁはぁぁああん!?」

「睦お姉さん! しっかりして、睦お姉さんっ!」


 お姉さんはその後も、しばらくビクンビクンしていた。




「私はホットコーヒーにするけど、しょうくんは何が飲みたいのかしらぁ?」

「あ、それじゃあボクは、バナナオーレで」

「はぁい。ホットでいいかしらぁ? もうすぐ春だけど、まだ肌寒いしねぇ」


 睦お姉さんが自販機で飲み物を買って戻ってくる。

 もう痙攣は治ったみたい。

 ほんとに良かった。


「どうぞぉ。熱いから、ふぅふぅして飲むのよぉ?」

「ありがとうございます!」


 暖かなバナナオーレを受け取った。

 睦お姉さんと、打ち合わせ用のテーブルに向き合って座る。


 説得して、隣から移動してもらったのだ。

 お姉さんは残念そうにしていたけど、しぶしぶながら従ってくれた。


 これでようやく、原稿をみてもらうことができそうだ。


「じゃあ、しょうくん。持ち込みの原稿を読ませてくれるかしらぁ?」

「は、はい! こ、これです!」


 ガサゴソと音を鳴らして、茶封筒から原稿を取り出した。

 ドキドキと高鳴る鼓動を感じる。


 ボクは顔を真っ赤にしながら、まるで好きな女の子にラブレターを渡すみたいな格好で、睦お姉さんに原稿を差し出した。


 睦お姉さんはそんなボクを、トロンとふやけた表情で見つめている。


「よよ、よろしく、お願いします!」

「はぁい。お預かりしましたぁ。じゃあ早速拝見させて頂きます」


 お姉さんが原稿に目を落とす。

 表紙を繁々と眺めている。


『ビッグのビッグ冒険』


 そこにはこんなタイトルが描かれていた。


 これはボクが、精魂を込めて描いた漫画である。

 内容は王道熱血ものの、ファンタジー少年漫画だった。




 ボクは王道少年漫画が大好きだ。

 あれはまだボクが小学校に入学したての頃。


 まだ漢字なんて全然読めもしないボクに、死んだ父さんが1冊のコミックスを買い与えてくれたのだ。

 表紙には『ワンピース』と、タイトルロゴが描かれていた。


 ボクは初めて読んだその漫画に夢中になった。

 無力だった少年が成長し、信じあえる仲間と出会い、大海原に船を漕ぎだしていく。


 さぁ、大冒険の始まりだ!

 夢中でページをめくったのを覚えている。


 漫画のなかの彼らは、いつもキラキラと輝いていた。

 ボクはそんな彼らに憧れた。

 一緒に冒険がしたいと、心からそう願った。


 でもそれは叶わぬ願い。

 どんなに眩しくても、焦がれても、彼らは漫画のなかにしかいない。

 そしてボクは、漫画の世界に入ることはできない。


 なら……。

 それなら……!


 それならいっそ、ボクが彼らを描き出したいと思った。

 頭のなかに浮かんだボクだけの主人公たちを、紙の上に描き出す。

 そうすればきっとボクも、みんなと一緒に、冒険の旅に出られるんじゃないかって!


 ボクはそう、思ったんだ――




(――あっ)


 物思いに耽ってしまっていたことに気付く。


 チラッと睦お姉さんの様子を伺った。

 お姉さんはまだ原稿に目を走らせていた。

 さっきまでの蕩けきった表情からは打って変わり、真剣な顔をして読み込んでいる。


 鬼気迫るものを感じた。

 これが、プロの編集さんなんだ……。


「あ、あの、お姉さん……」

「すこし、黙っていなさい」


 ピシャリと言い切られる。

 感想を尋ねようとしたのだけれども、取りつく島もない。

 集中して原稿を読んでくれている。


 もしかして……、熱中してくれているのかな?

 ボクの漫画って、捨てたものじゃないのかな?


 お姉さんの様子に、期待を膨らませた。




「…………ふぅ」


 睦お姉さんがやっと顔を上げた。

 テーブルに原稿をトントンして、角を揃えている。


 さっきからそわそわしっ放しだったボクは、お姉さんのそんな所作にも焦れてしまって、堪らず口を開いた。


「ど、どうでしたか……?」


 お姉さんが瞼を閉じた。

 冥想でもしてるみたい。

 頭のなかで、言葉を整理しているんだろうか。


 ゆっくりと目を開いたお姉さんは、紙コップのコーヒーを啜る。


 つられてボクも、バナナオーレを口に含んだ。

 熱々だったそれは、もうすっかり冷めてぬるくなってしまっていた。


「しょうくん……」

「は、はい!」


 くるぞ。

 感想がくるぞ!


 手ごたえを感じたボクに、睦お姉さんが告げる。


「……だめねぇ。この漫画はだめ。面白くないわぁ」

「…………え?」


 お姉さんがなんて言ったのか。

 ボクは、少しの間、理解することが出来なかった。

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