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しょうくんはBL漫画家です!  作者: 猫正宗
第1章 BL漫画雑誌『タージマハル』創刊!
2/8

01 こんにちは双花社!

「きょ、今日こそは、勇気を出すんだ……」


 胸に抱えた茶封筒を、震える両腕でぎゅっと抱きしめた。

 封筒のなかのものが、カサカサッと音を鳴らす。


 ここは都内にある、とあるビルの玄関前。

 視線を上にあげてみる。


 目に映ったビルは4階建だった。

 結構年季が入っている様に見える。


「すぅぅ、はぁぁ……。……よ、よし!」


 大きく深呼吸をひとつ。

 覚悟を決めて、ボクは建物の自動ドアを潜った。


「入った……。入っちゃった……」


 もう後戻りをすることは出来ない。

 するつもりもない。


 ボクだって男なんだ。

 倒れるときは前のめり!

 死んだ父さんも、よくそうボクに言い聞かせてくれていた。


「え、えっと……」


 キョロキョロと玄関ホールを見回す。


 飲み物の自動販売機と、パーテーションで区切られたスペースがいくつか。

 奥には一基のエレベーターも見える。


「どうすればいいんだろ……」


 困惑しながら玄関ホールを歩いていると、無人の受付カウンターに、電話機が置いてあるのを見つけた。


「そ、そっか。この電話を使えば、いいんだよね……」


 ゴクリと喉を鳴らして、受話器を取った。

 口のなかは、もうカラカラだ。


 貼り紙の案内に従ってボタンをプッシュする。

 耳に押し当てた受話口から、トゥルルと音が聞こえてきた。

 その呼び出し音がひとつ鳴る度に、ボクの心臓の鼓動が強く、強く、高鳴っていく。


 ――ドクン!

 ――ドクン!

 ――ドクン!


 もういっそ、うるさいくらい。


 トゥルルと鳴っていた呼び出し音が、不意にガチャリと音を立てて途切れた。


(だ、誰かが電話に出たんだ!)


 ボクの心音はもう、最高潮だ。

 このまま放っておいたら、死んじゃうかもしれないくらいである。


『……はぁい。こちら双花(ふたか)社、第3コミック編集部ですよぉ』


 で、出た!

 女のひとだ。

 な、なにか話さなきゃ!

 でも頭が真っ白になって、咄嗟に言葉が出てこない。


『……? もしもーし。聞こえてますかぁ?』


 なにを話せばいいんだっけ!?

 それ以前にボクは、なにをしにここに来たんだっけ!?

 パニックを起こしてしまって、なんにも考えられない。


『えっと……なにかしらぁ? 悪戯? もうっ……』


 受話器を置かれそうな雰囲気が伝わってくる。


 ダメだ!

 はやくなにか言わないと!


「あ、あのっ! すすす、すみませんっ!」


 汗ばんだ手のひらを感じながら、思わず胸の茶封筒を握りしめる。

 なかに大事にしまった原稿が、クシャッと潰れた。


『あぁ、悪戯じゃないのね。それでは、ご用件をお伺いしてもいいですかぁ?』


 良かった。

 電話を切られずに済んだ。


 でも用件ってなんだっけ?

 頭がぐるぐるして、なんにも分からなくなる。


『もしもーし?』


 電話の向こうのお姉さんが、会話を急かしてきた。

 なにか話さなきゃ。


 そ、そうだ!

 こういうときは――


「は、はじめまして! ボクは阿波(あなみ)翔太(しょうた)。中学1年生です。み、みんなには『しょうくん』って呼ばれています!」


 電話越しにペコペコ頭を下げながら、ボクはそう自己紹介をした。

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