料理勝負 side B
自分でいうのはなんだが、俺は料理が得意だ。
一人暮らしを始めてからもう二年半。料理するのは嫌いじゃなかったから、それなりに自炊もしていた。バイト先の大衆食堂の店長に、少しだけ、料理を習ったこともある。
そんな話を大学の食堂でしたら、仲のいい女友達がこんなことをいった。
「私、ご飯にはうるさいから、ちょっとやそっとじゃおいしいって言わないよ」
自信満々のそいつにうまいと言わせたくて、料理を作ってやるからと家に誘った。すぐさま返ってきたオーケーの返事に、俄然やる気が沸いてくる。その日から早速、料理の練習を始めた。なにがなんでもうまいと言わせるつもりだった。
迎えた決戦当日。やってきた彼女をリビングに案内して、俺は一人台所へ。ひつまぶし・・・じゃなくて暇つぶしにテレビを見ていてもらう間、俺は料理に取り掛かる。今日の献立はカレーなんだが、俺はうなぎでも食べたいのだろうか。
ジャガイモ、ニンジンは乱切りにして鍋へ。次にタマネギ。こちらも大きめに切ってフライパンで軽く茶色になるまで炒めてから鍋へ追加。最後はブタニク。角切りにし、こちらはフライパンで炒め、コショウで下味をつけてから鍋に投入。蓋をして、弱火から中火でじっくりじっくり煮込む間、付け合わせのサラダを作っていく。
ニンジンやジャガイモが箸でもさせるくらいになったら、最後にルーを二種類入れる。あとは弱火でしばらく煮込めば完成だ。
出来上がったカレーと、熱々の白米を平皿に盛り付けて、完成。少し味見をしてみたが、練習してきた中でも会心の出来だった。自信満々に、彼女の目の前に皿をおき、食べるように勧めた。
盛りつけられたカレーをじっと見たあと、律儀に手を合わせてから、一口目を口に運ぶ彼女。ゆっくりと噛み、咀嚼してから、驚いたようにこちらを見た。その顔に、目論見が成功したことを感じる。
「どうだ? うまいだろ?」
思わず得意げにそう聞くと、悔しかったのかそいつは顔を伏せた。前髪に隠れた表情は見えなかったが、その反応で自分の勝利を確信する。やがて彼女がゆっくりと顔を上げて、諦めたようにこういった。
「ええ、美味しかったわ。あんたの勝ち」
悔しそうに、それでも笑って言った彼女に、不意に心臓が大きく跳ねた。その笑顔に、思わず見とれてしまう。
赤くなる頬を悟られないように、俺は急いで立ち上がり台所へ向かった。自分のカレーを盛り付けながら、高鳴る心臓を必死に抑えようとする。目を閉じれば、今見たあいつの笑顔がまだくっきりとまぶたの裏に浮かんだ。
勝負には勝ったはずなのに、負けた気がした。だってそうだろ? 俺はあの笑顔をもう一度見たいと思って、すでに次の献立を考え始めてしまっているのだから。
もしよろしければside Aも一緒に読んでみてください。