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デイ・マイナス・ワン

「ごめんね、シュウ、私、付き合っている人がいるの」


それは、よくある告白をよくある仕方で振る、普通の光景のはずだった。

だから、ミキは知る由もなかった。

その、たった一言が、シュウを、そして、世界を狂わせることになるなんて。


高純度のシリコンは、わずかな不純物の組成や分量の違いで、物性が大きく変わってしまうという。


人間の場合もそれは同じ。

極めて純粋な人間は、狂気と紙一重の位置にいる。

そして、その純粋さは、ほんのわずかな刺激で、簡単に本物の狂気に変わってしまう…。


そのたった一言は、シュウの純粋さを、狂気へと変えてしまったのだ。


----


〇月×日。


今日は、本当は最高の日になるはずだった。


院試合格を記念し、中学の時に惚れてから、10年来変わらぬ思いを抱き続けてきたあの子、ミキに、思いの丈をぶつけ、私は、…あの子を手に入れられるはずだった。


私には頭脳しかなかった。

ルックスは凡庸で、運動神経はむしろ悪い部類。だから、頭脳を極め、それによってあの子の心をつかもうと考えた。


だから私は、あの時以来首席で通し、日本一の帝大進学実績を誇る開筑高校に入学し、苦学の末、内部進学組をも抑えて再び首席に浮上して通し、帝大でも首席を通し続けて、工学部を卒業した。


私は大学院に入り、修士論文で、ノーベル賞候補とも噂されるほどの、革新的な研究を成し遂げた。そして、いよいよ集大成、博士課程への進学が決まった。


そして、ナノテクノロジーとIoTを組み合わせた最新のナノボットの研究によって、この世界を豊かに変えていくはずであった。


全ては、彼女のために。彼女のいる世界だからこそ、豊かにしたかった。


だが、当の彼女は、私など見向きもしてくれなかった。見向きもしなかったのだ!


私は全てを失った。世界は、暗転した。


死にたくなって「誰でも良かった」と称して無差別殺人に走る者や、突如銃乱射に走る者の心情が、ようやく分かった。


だが、それは愚かだ。

社会に、この世界に報復するのに、高々数十人・数百人殺して満足するなど、あり得ない。

そんな報復など、無関係に終わった大多数からは、1年もしないうちに忘れ去られてしまうだろう。


だから、私は、全人類を滅ぼすことにする。

仮に私自身が死んでも、計画は進行するだろう。

私になら、きっとできるはずだ。


----


デイ・マイナス・ワン。


ある天才が、失恋のショックによって、人類絶滅を決意した。


失恋を侮ってはいけない。ウェルテルはそれで自殺した。


だが、世慣れた人なら、こんなことはしなかっただろう。

天才は、時代遅れの浪漫派ばりに、あまりにも純粋だった。


だから、振った女のみならず、女に振らせた物理法則、自分を女に振られた世界に割り当てた物理法則をも恨み、…つまるところ、全世界に対して怒りを燃やしたのであった。


デイ・マイナス・ワン。


しかし、その始まりを知る者は、天才ただ一人。


天才の引き起こした天災は、思わぬ人災を招き、人類の愚かさをも暴くのであった…。

え、彼は狂っているって?


でも、実際、天才は、しばしばこれに近い脆さを持っているものです。

私自身、こういう危うい純粋さを持った天才を何人か知っていますし…。

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