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転換!関ヶ原!  作者: 歴史転換
本編
8/29

第一章四節 李氏朝鮮脱出

 飲酒は二十歳からです。これが歴史シミュレーションなのをお忘れなく。


 4 もののふの宴



 李氏朝鮮の陽は完全に消えた。陽をなくし、その次に来るは闇の世。今宵はまだ月が情けの灯を、気まぐれで浴びせてもらっているだけまだいい。だが、恩恵を受けたものの中には、贅沢にも天を睨むものもいる。今まで陽の光の恩恵を受けたものは怯え、恩恵を受けなかったものは暗躍する。獣や虫の鋭い眼光が、時より月の灯によりギラリっと殺気だって光る。その殺気が風の冷たきと共に周りを漂わす。

 

 そんな中、釜山城の一角に何やら音が聞こえる。その音は雑で品がない。出鱈目な上下の音程で音量は煩過ぎる。だが、何故かその音が心地よい。ギャアギャアいうその音は、釜山城の大広間から発声していた。

 大広間では多くの大名達が騒いでいた・・・。とはいえ、何故か先の軍議よりも、大名達の人数が合わない。若干だが少ないのだ。

 もののふの宴は既に酒のつまみはなく、酒しかない。つまみはどちらかと言えば、腹を空かした大名達の腹に、直ぐ収まってなくなった。今は、それぞれが酒の徳利を所持して勝手に飲んでいるのだ。だからこそある意味、好き勝手出来るのだ。酒が切れたら近侍が出入り口の襖にいるので、言えば追加される。兵糧が不安なのはあるが、酒はある。だから遠慮なく飲める。

 大名達を見てみると、殆どの大名は完全に出来上がってる。つまり、酒に飲まれているのだ。中にはグーグーと床に大の字になって、夢に酔ってる者もいる。正に大広間は盛り上がっているという感じだ。闇もこの馬鹿騒ぎには嫌いそっぽを向いたようだ。ここは明るく暖かい。・・・行灯があるのもあるが。


「ちっ他愛もない。」

一人の大名が悪態をついた。その顔は真っ赤にしてて、苦々しい表情をしている。その大名は座していたが、悪態をつくと立ち上がった。手に持った徳利が立ち上がった衝撃で、中の酒が少し零れた。

 その悪態をつかれた浅野従四位下左京大夫幸長は仰向けに酔い倒れていた。真っ赤な顔をして勘弁、勘弁とうわ言を呟いてる。口からは水が滴っていた。目も殆ど閉じていて、微かに開いた目は左右をキョロキョロと泳いでいる。手には杯があった。

 暫くその状態で寝ていると、哀れ幸長。酔いつぶれとして近侍等に運び込まれてしまう。向かう先は幸長の屋敷である。近侍達が汗水流して運んでいる間、幸長のうわ言を言っていたという。

 

 この幸長を駄目にし、更に糟屋従五位下内膳正武則ら、多くの大名を酔い潰し、まだ獲物を狙うのは福島正則である。

 かの者は既に、かなり酒を飲んだが意識はまだある。元々、かなりの酒豪であったので平気なのだろうか。正則は多くの大名達に率先して酒飲みくらべをして、次々と対決者を夢の世に誘った猛将だ。

 ある者はかの者の酒を、目から水を流しながら飲んで夢の世に逝った者もいた。だが、その飲みっぷりに多くの大名達が、歓声を無責任にあげている。その飲みっぷりは見事だったからだ。

 今後のこと、豊臣秀吉の死去など悲観な要素は多い。なので、本来ならこんな馬鹿騒ぎの宴などしない筈だ。だが、ここも大広間にいる大名は誰もが、嬉しく笑い騒ぐ。武の心が一つになった喜びと興奮が、その悲観な要素に勝ったのだ。


「まだまだ濃は飲めるぞ。次は誰が相手になるか。」

「市松、もう止めとけ。そろそろ限界なんじゃないか。いい加減に止めておけ。」

正則が吠えている所に加藤清正が正則を諌めた。市松とは正則の通称である。

 その清正も真っ赤な顔をして酔ってはいるが、まだ意識ははっきりしている。かの者は別に酒飲みで酒豪だが、相手に酒飲みを強要しない。正則が多くの大名を夢の世に逝かせたのを見て、止めさせる為にそろそろ頃合と諌止したのだ。だが、これが正則の感に触った。

「んんっ。虎之助。濃はまだまだ大丈夫だ。まだまだ飲めるぞ。」

正則は清正の隣にどかりと座した。正則の顔は若干だが不機嫌に歪む。大好きな酒を止めよっと言われたのに腹が立った。それに、まだ余裕があると自負しているから腹が立った。酔いも末期である。

 この酒豪達の周りに誰も近寄らない。いや、一時的に様子を見ている大名達の野次馬はいる。野次馬は見ては楽しいが、当事者にはなりたくないようである。

 どうやら、正則は清正を次の酒飲みくらべの相手に決めたようだ。野次馬もそれを期待しているようで、遠回りからじっと眺めている。正則は清正の性格を幼い時から子飼いとして、共に歩んだからよく熟知している。

「ふーん・・・そうか・・・。もう歳のなったな虎之助。この濃に酒で負けるのが怖いのか。だから濃に酒を止めさせたのだな。全く情けない限りだ。ほれ濃の酒が飲めんのか。」

正則が清正に大声で、周りに聞こえるように挑発した。そして清正の杯に酒を注いだ。正則の顔も挑発に合わせてか嫌な笑いをしている。

 正則は知恵足らずだが、こういうことには頭の回転は速い。元々、酒豪なのを自慢している清正である。それを大声で否定されたら黙ってはいられないっと正則は読んだ。

 この挑発に簡単に清正が乗る。ここは正則の勝利である。ニヤリっと内心で正則が笑ったが、清正がこれを知る由はない。

「何を。お前の体を心配したから言うたのに、その口ぶりなら大丈夫そうだな。濃はまだまだ飲めるわ。お前もほれ。」

勢い良く杯の酒を飲み干した清正は、怒りと酒で真っ赤な顔をした。そしてお返しと正則の持っていた杯に酒を注いだ。

 簡単に挑発に引っ掛った清正だが、自分が市松を酔い潰して周りを救おうと思ってのことだ。その意味では、正則の策略はどう転んでも逃れる術はなかった。

 その酒豪対決開始に、遠回りに観察した野次馬が歓声をあげて近づき煽る。随分無責任である。だが、この周りには多くの者が騒ぎ立てていた。

 

 その騒ぎの中、小早川秀秋はちびちびと隅の下座で、一人酒を座して飲んでた。宴から結構飲んでるので、顔が赤い。時より、体が熱いのか大広間の温い空気で体を冷ます仕草もしている。簡単にいうと手で顔を仰ぐ仕草である。

 秀秋が軍議では勇ましい発言をしたが、もう殆どの者達は忘れているようである。つまり、また馬鹿にした評価に戻っているのだ。喉元の熱が冷めたら何とやらっである。

 現に、今まで秀秋に大名達は、誰も近寄っていない。その為か青い平服がその存在感を、更に目立たなくしてしまっている。だが、秀秋には文句はない。この楽しい宴の雰囲気を自分が壊すのは嫌だし、陽気な雰囲気にいるだけでこちらも気分が良い。秀秋は一人で十分に楽しんでるのだ。

(これから歴史はどう動くのだろうか・・・。)

秀秋はフッと思想し始めた。今までは宴に聞き耳をしながら、それをつまみに飲んでいた。要は何も思考していなかったのだ。だが突然、秀秋は今後の未来予想をし始めた。

 (秀吉の死後、果たして平和だろうか。否、ならない。こんなに不平不満を持った、日ノ本軍の大名達の扱いが、上手く出来る者はそうはいない。秀吉の遺した一人息子の、豊臣従二位権中納言秀頼は幼い。しかも母の淀が、存分に甘やかして育った童である。とてもではないが、絶対不可能だ。ならば、誰が抑えるか。石田三成も絶対不可能だ。何せ私を含めてここの大名達がかの者を憎悪しておる。豊臣家の忠義は確かにあるが、我々の他に生理的に嫌いな者が多い。下手をすれば政治混乱が、逆に強くなる可能性もある。三成以外の五奉行は軟弱であって、武将を抑えるのは絶対不可能だし・・・。

 ならば・・・。五大老であろうな。だが、五大老の誰が抑えても問題はある。五大老の権威が強くなり、問題が別の方向にいく可能性もある。淀も他方の権力強化に煩くいうだろうし、豊臣家でも面白くはないに違いない。だが五大老がまずは、日ノ本軍の大名達の怒りを抑えるだろうことは間違いなかろう。問題が誰が抑えるのだろうか・・・。)


「・・・・・っか。」

「っっ。」

秀秋ははっとした。秀秋は慌てて、思考を中断して前を見た。すると、そこには一人の人物が立って秀秋を見下ろしていた。

 思想し過ぎで声をかけてくるまで、人が来たのが分からなかったのだ。その人物が、地味な黒い平服もあって更に気付きにくいこともあった。だが、まさか自分に声をかける酔狂な者がいるとは思わなかった。それは秀秋がどう他人に思われているか自覚してるからだ。

 その男はまだ秀秋の前に立っていた。秀秋の返答を待っているようである。だが、一向に返事がないので、もう一度その人物は言った。

「ここ、宜しいかな・・・・。」

「・・・・。」

秀秋はその人物を見上げて、黙って首を頷いた。その人物は返事を聞くと、どかりと前に座した。その人物も酒を飲んだ筈だが、こちらは顔に全く出ていない素面であった。こちらの人物は、かなりの酒豪のようだ。

 二人の周りには誰もいない。そこは騒がしい空間から全くかけ離れた沈黙の空間である。空気もかなり重い。そこはまるで別空間のだった。

「・・・。」

前に座してるその人物は黙って徳利を持つと、秀秋の右手にある杯に酒を注ぐ。その顔は無表情そのものだ。顔色から見ると、この人物が何を思考してるかなど全く分からない。

 秀秋は少し苦笑しながら、杯に注がれた酒を飲み干す。実は秀秋は酒にあまり強くはない。下呂ではないが、歳も関係してるのだろう。だが、礼儀としては注がれたら飲まなければならない。秀秋は顔は赤いものの、まだ意識はちゃんとある。飲み干した秀秋は徳利を持って言った。

「立花殿。ささ、一献。」

秀秋はその人物、立花宗茂の左手にある杯に酒を注いだ。これも礼儀である。宗茂もこの酒を注がれると、一気に飲み干した。

 暫しの間、二人は代わる代わる互いの杯に酒を注ぎ、飲み干した。その間は互いに無言である。そこは静かなのだが、確かに僅かだが、緊張感がピーンっと漂っている。

 

 そんな中、不意に宗茂が沈黙していたのを破った。

「何故、某の意見に賛同なされた。」

どうも、宗茂はこれが聞きたかったようだ。顔も少し真面目になる。緊張感も最高潮に高まった。

 先程から宗茂はこれが心に引っ掛った。この二人は仲は特に良くはない。どちらかというと、宗茂の秀秋に対する評価は高くはない。勿論、若輩にしては頑張ってはいるのは認めてはいるが、軽率で甘い行動が何度も目に映ったからだ。

 だから、今回の自分の発言に賛同するとは微塵も思わなかった。だから、秀秋の心中がどうしても聞きたかったのだ。秀秋はこの言葉を聞いて、杯を置いて腕を組んだ。

「ふーむ・・・。そのことですか。」

秀秋はまるでこの発言を予知してたかと思わせる口ぶりだった。秀秋は直ぐに、宗茂が声をかけた理由が分かった。秀秋と宗茂との接点は、先程の軍議しかないからである。

 酒もそれなりに回ってか、酔いで更に顔を赤める秀秋はどう言おうかと一瞬黙って思考しようとする。だが、酔いであまり思考が整理出来ない。

 仕方ないと思考を止めた秀秋は、淡々口調で宗茂に顔を緩めて親しげな表情で言葉を続けた。

「それは先程の軍議で申したのが理由です。一人のもののふとして感激したからですよ。だからこそ賛同した。無論、将を見捨てたら国が荒れるのが嫌なのもあります。それに小西殿等がこのまま見捨てるのは後味が悪い。撤退を早く、被害が最小にしたいならば捨石にしたら確実でしょう。それをもののふは恥という心意気の憧れました。

 だが、私は・・・。甘いと言われるかもしれないが、日ノ本軍の将や兵はなるべく一緒に帰国したい。この無限地獄を共に戦をした者達と脱出したい。これが本当の理由なのかもしれません。」

言うとと秀秋はぐいっと杯の酒を飲んだ。

 秀秋は体勢を宗茂から逸らし顔をあげる。汚い天井を見てる訳ではない。宙に浮かんだその目は戦で天に逝った将や兵を思ってのことであろう。目も若干潤んでいる。最後の発言も淡々としてた口調がしんみりと哀愁が出ていた。

「なるほど・・・。」

宗茂は自ら杯に酒を注ぎ飲んだ。飲んだ酒は何処か先程より苦く感じた。

 宗茂は今までで見たことのない大名だと思った。偽りの優しさではなく、ただ純粋の優しさに内心驚愕もした。利潤や野心などに燃える者ははき捨てる程いた。しかし、こういう者のもののふなのは勿論、大名になると稀有に等しい存在であった。

(珍しい男だな。今時、面白い。)

だが、悪い気はしない。寧ろ、もっと早く知り合ってたかったと残念だ・・・。ふっと自分に少し驚いた。何故こう思想したのだろうか。自分にはないものに惹かれるのだろうか。もののふらしさにある痛みや闇にこの秀秋の優しさと光が心身に沁みたのか。

 

宗茂は秀秋の悩ましい態度を何とかしようと話を始める。

「貴殿はまだ若い。その甘さも確かにそうだ。戦に命のやりとりがあるのは当たり前だ。だが、そのことに答えはない。誰もが独自に解決し前に進むのだ。前に前に進まなければ時代に遅れ、呑まれるぞ。だから時間があるわけでない。だが、よくよく悩まれよ。しかし、答えを出したら譲るな。安易に譲ると自分も従う者も動揺するからな。それに・・・・。」

宗茂は口下手だ。根っからの武将であった。

 だが、この若き大名に必死に語った。この純粋な大名の力になりたかった。稀有なその純粋なものを失わないように言葉を選んで、顔も必死なものである。雰囲気も厳しさではない。ただただ悩む秀秋を助けたかった。

「ふむふむ・・・。」

秀秋の方も真剣に話を聞いている。名将と言われている宗茂の話である。今後、絶対に役に立つっと感じて酔ってる脳を神経伝達で叩きながらも必死に入れている。

 そのたどたどしいながらも必死に思いを告げる宗茂には好感をいだく。気がつけば、緊張した空間は発散していた。周りはまだまだ清正と正則の飲みくらべに歓声をあげている。

 もののふの宴はまだまだ続いていった。


 秀秋と宗茂。話せば話す内に友情が芽生えていく。それは、何故だろうか。そこには共通の過去があった。

 次回、転換!関ヶ原! 第一章五説 李氏朝鮮脱出 

『5 秀秋と宗茂』「互いに・・・」

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