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転換!関ヶ原!  作者: 歴史転換
叶ワナイ恋編
26/29

外章一話 恋ノ夢ハ永遠カ・・・

どうも歴史転換です。今回は外章を書きました。これは間章と違って、一話完結ではありません。間章と区別する為に、外章としました。

 では、これが歴史シミュレーションなのをお忘れないようにお願いします。


※2019年6月25日に場所移動。内容は変わってません。

 

 1 思イ出ニナリシ者ト、今ヲ生キル者。二人ハ、此処ニ交錯スル



 一五九八年、八月の二日。天気は憎らしい程の晴天。真夏でジリジリッとした陽が、大地にこれでもかと照らしている。そのおかげで、地にいる生き物全てに灼熱の暑さが舞い降りる。その暑さに多くの生き物がバテてしまっていた。

 だが、その暑さを全く気にしないものもいる。代表的なのは蝉である。蝉は必死に鳴く鳴く。その音は、蝉が多くを鳴らしてるので何処でも聞こえた。かのもの達は、必死なのだ。本能的に限られた命を悟って、ここに存在していた証を残したいのだ。その証には存在を語り継ぎしものを生み出すのが一番なのだ。だから必死に鳴く。その永久に語り続こうとさせる決意と悲しさと共に。


 その暑い中、京である一団が山登りをしていた。人数は、五人と少ない。五人の格好は山登りを自覚してか身軽で、その中の二人は女であった。普通の女にしたら、ここは少々手強い山登りであった。現に男達も、気温の暑さと山登りで体力が落ちてへばっていた。だが、二人の女はこの何とも思わずに、ただただ階段を歩く。

「やっと着きましたか。」

どうやら、階段を上りきったのは女のようだ。女の額からはうっすらと汗が落ちていた。結構疲れたように思えるが、顔はまだ正規で満ちていた。

 

 山奥にあるその山門もない小さな寺に、この女、古満はここに用があったのだ。だから普通、大阪城にいる各大名達の正室が、そこからの出入りを原則禁止されてるのだが無理をしてここに来たのだ。正室は事実上の人質なのだから、逃げ出すようなことがないよう禁止されてるだ。

 ここは古満が初めて来る場所である。前から夫の小早川秀秋には、ここがどんな場所かは聞いていた。そして今まで、ここに眠るある御仁を毎年、墓参りに来てるのも聞いている。その名を聞いた古満は、嫉妬で内心は怒ったこともあった。

 何故なら、その御仁は間違いなく、秀秋に心を許し恋をした御仁だ。そして、あろうことか秀秋も古満程ではなかったが、この御仁に愛情を感じた。そのことを古満が知っていたから内心は怒ったのだ。そして秀秋の女としての愛情が、自分以外に向けられたことに対する嫉妬で怒ってることを古満は重々承知してた。だが秀秋の前では出さなかったが、一時期は尾を引いた。

 だが暫く経つと、既に御仁が死去してる以上は、一度は御仁の墓参りをしようと思ったのだ。そして、今回は夫は李氏朝鮮の出兵でどうしても来られない。なので、自分が代理で参ろうっと都合がいい理由が出来た古満は、思い立って現在ここの古い小さい寺にやって来たのだ。


 古満はうーんと体を反らせた。最近は情報収集や秀秋の代理として家の指示など、事務的なことばかりやってたので体を一部でしか動かしていない。なので、山登りは結構いい運動ではあった。

 その登り切った階段にいる古満は下を眺めた。そこからは辺鄙な村が見えた。珍しい鷹が、村の上空を気持ちよさげに独占していた。その下にいる農民達は殆どが女で、水田の米を虫から守る為に悪戦苦闘をしている。女ばかりなのは。男は李氏朝鮮に出兵しているからである。だから男が殆どいないこの村では、女が必死で村を守っているのだ。

「二番で着きました。」

古満が眺めた視界に、割り込んだのは女の顔。古満の右腕であり、姉のような存在である福であった。夫は筆頭家老の稲葉正成であるかがどうかは知らないが、福もかなり体力の余裕があるようだ。顔は無論だが、暑さと疲労で汗は出ている。だがまだまだ余裕であった。

「早いですね。」

「これぐらいはどうもありませぬ。・・・ですが男共はそうは思わないようですが。」

チッと下品に舌打ちして悪態つく福に、古密は顔を引きつらせた。階段だけでも、三百段はあった筈の道のりだ。普通ならば疲れるのが道理であるが、この二人は特に気にせずに登り切った。それが若干おかしいことを思って、古満は顔を引きつらせながら苦笑したのだった。

 因みに彼女等の服は、大変地味の土色で、しかも身軽な服だったので農民と間違えても仕方がない服装だった。これは、大阪城を抜け出す際に、監視の目を欺く為にしたのである。現に門番などは、この変装に簡単に騙されてしまっていた。だが二人をよく見れば、どことなく気品が漂っているので、変装が露呈してもおかしくはなかった。だがまさか、ここを出ないだろうという概念から監視の目達は、二人を見破れなかったのである。


 その後、二人の護衛兵が三人登り切った。顔面からだけでなく、体から汗が湧いて出ていた。護衛兵の服はこれも地味な土色の平服だが、護衛兵なのでちゃんと腰には太刀を掛けている。なので、彼等の言い分としては太刀が重いので、彼女等の歩く速度に追い付かなかったのがある。だがそれでは、二人の護衛兵などとても勤まらない。

 ガミガミと護衛兵三人の情けなさを叱りとばす福。それを宥める古満。叱られてシュンっと体を縮む三人の護衛兵。それぞれ、顔は福は赤、古満は土色、護衛兵の三人は青に染まっている。五人はそれぞれ共通の、嫌な汗が別々に出始めた。


 その一団に近づく老婆がいた。いや、老婆の年齢は六十と高年齢で合ってはいるが、顔にはあまり皺はない。その顔だけで判断すると、五十前半に見える。それに、腰も真っ直ぐで新著婦が高い。身長が五尺七寸(約百七十一センチ)はあるので長身である。そして白髪交じりの頭には暑いのに、白い布地を被っている。どうやらここの寺、天魔寺の神主をしている尼のようだ。

 ここは山奥の小さな寺だし、あまり人は立ち寄らない。だから静かな日々を老婆は過ごしている。そんな中で、甲高い女の声を筆頭に、寺の参道から何人かの煩い声が聞こえた。本堂で黙祷してた老婆は、少その声を聞き迷惑げに眉を歪めた。騒がしいのはあまり好きではないのだ。

 

 だから何事かと思って、黙祷を止めて外に出た。そうしたら、この寺では多い五人の人間が参道で揉めてた。寺で争うことは大変無粋なものである。老婆は仲裁に動くことにした。

「どうしましたか。」

参道へ向かう足音は全くなく、気配も感じさせないよう近づいた老婆は、五人に向かって急に声を掛けた。甲高くはないが、ハッキリとした声である。

 その声に、五人は驚愕して慌てて老婆を見た。五人は老婆が近づくこと事態が、全く気付かなかった。護衛兵は条件反射的に太刀の鍔に手をかけたが、尼の姿をしてる老婆と判断すると止めた。敵意も全く感じられなかった。

「もしや・・・濃っ言われる名ですか。」

「はい、濃っと名乗っている尼です。ここの神主をしています。」

五人が戸惑ってる中、古満は名を恐る恐る聞くと、濃は能面の顔立ちでハッキリと名乗った。その顔からは不快感が出ていた。

 元来、濃はハッキリとしなければ気が済まない、竹を割ったような男勝り性格だった。なので、嫌なことはハッキリと何らかの形で濃は表す。今回はたまたま、顔立ちであっただけだ。

 その濃の発言と顔立ちを見た五人は、寺で迷惑をかけたこともあったので申し訳なさそうな顔をした。しかし、その申し訳なさは寺の出来事でなく、濃の魂の気魄に威圧感を感じたからだ。ただ者ではないのを感じた五人は、怒らせないように濃に勢いよく謝罪した。濃も、そんな五人の謝罪を受け取ると、穏和な顔にした。


 この五人をただ者ではないっと感じさせた濃っとは誰か。実はかの者は第六天魔王と称し、時代の申し子、戦国の風雲児と全国に名を轟かせた織田信長が正室、鷺山その人であった。濃はしかも、戦国の下克上代表、美濃の蝮と悪名を轟かせた斎藤道三の娘でもあるのだ。だから濃の魂の重さは、決して軽くはない。

 鷺山と名乗っていた時代は、基本的に信長の側にずっと寄り添っていた。残念なことに子は一生涯、宿すことはなかった。だから信長の子は、全員が側室から産まれた者達である。 

 そんな鷺山だったが、信長は離縁はしなかった。鷺山は大変賢く、賢妻であったからだ。だから信長は正室の座を、鷺山にずっと委ねていた。そして鷺山も、そんな信長に対して、鷺山は深い愛情を感じて幸せだった。

 だがそれは、永遠には続かなかった。一五八二年、六月に起きた本能寺の変である。信長は毛利討伐のために向かう最中だった。だが実は鷺山も、信長と一緒に本能寺に滞在していた。鷺山は位を任命される予定だったのだ。天皇に位を任命される際、拝謁する為に鷺山も上洛したのだ。目的は違うが合理化した結果、二人は同じ本能寺に宿泊したのだ。

 鷺山は当初は、信長と共に果てるつもりであった。だが、信長はそれを拒み逃げるように勧告した。鷺山は生涯で、信長の命を逆らったことがない。なので、泣く泣くその命に従って、鷺山は本能寺から逃走したのだ。謀反した家臣の明智光秀も、男こそ逃さなかったが女は易々と逃した。なので、鷺山の逃走も成功した。

 その後、京の山奥にあった寺に鷺山は逃げ込んだ。鷺山は悟っていた。信長あっての織田家であることを。唯一、家を任せられる嫡男の信忠は。二条城に滞在している。本能寺からは目と鼻の先である。信忠も死ねば、織田家は完全に崩壊してしまうことを、鷺山は読んでいたのだ。そして、織田家に自分の居場所がないことも同時に悟った。

 

 逃げ込んだ小さな古い寺には一人、神主をしている老婆の尼がいた。その老婆は、人が出来ていて鷺山に何一つ聞かないまま、老婆は鷺山をここの滞在を許した。この際に出家して、鷺山から濃っと名を改めた。更に年月が経つと、老婆が死んだ。身寄りのない老婆は、濃にこの寺の跡継ぎに指名した。これを濃は受理し、名前を天魔寺と改め神主の尼となった。天魔は信長の天下統一をしようとした魔王の墓があるっと略しての名である。

 さて、これで信長の墓は二つあることになる。ここの墓ともう一つ、豊臣秀吉が信長の為に建設した、大徳寺の総見院にある墓の二つである。

 秀吉は信長の遺体が無くとも、葬式は豪勢にやった。こうしなければ、夢かあの世で信長に罵倒されるのを心底恐怖したからだ。秀吉は織田家を結局は蔑ろにはしたが、信長は永遠に逆らうことが出来ない主君であることはよく自覚していた。その後、総見院というのを建設し、そこに遺体無き豪勢な墓を作ったのだ。

 一方の濃の墓は墓石もない、ただ土盛りのある所に木に念仏を書いたものが中央に刺さっている質素過ぎるものだ。念仏も止めようかと一時は考えた濃だったが、一応は出家した尼なのでつけた。信長が大の仏教嫌いなのを、濃はよく認知してたからである。濃の墓にも遺体はないが、信長の髷が埋められていた。これは本能寺で信長と永遠に別れる刹那、突如信長が切って渡したものであった。濃はそれの一部を、墓に埋めたのだ。

 なので、本当の信長の墓は天魔寺の方である。


「して、何のご用事でここまで参られたのですか。」

「夫、小早川秀秋の代理に、正室のこの古満がここのある墓参りに参りました。」

濃の質問に古満は答えると、もうそんな時期ですかっと濃は呟いた。確かに秀秋は、この日に墓参りに来てたのを濃は知っている。だがその墓は秘匿であり、無闇に教えられるものではなかった。

 だが、濃は代理である古満を案内しようと決めた。秀秋の正室なら秘匿内容も知っていよう。ならば隠しても無駄であるっと瞬時に頭を回転させて案内を決めたのだ。

 他の四人は本堂で休憩しておくように濃は進めた。四人は実は誰の墓参りか知らない。古満はいくら質問されようとも、こればかりは決して口を開かなかった。四人は護衛と墓参りの相手が誰なのかが気になって反論した。だが、古満がこれを認めて、四人には待機を命じた。なので、四人は渋々ながら本堂で待つことになった。


 古満を一人だけにして、目的の墓へと案内をする濃。この案内間際に古満は、一人の護衛兵が結構な束にして持っていた釣船草という花を受け取った。これは、秀秋が墓参りの際にはいつも携えている花である。そのことを古満も認知していた。なので、代理の以上は同じ花を用意させたのだ。

 ジリジリと陽が元気な中、二人はそんなに歩いていないが、少し本堂から離れにある墓の前に着いた。ここの墓は少ない。十しかないのだ。少ないのは、山奥だから敬遠されてしまってるからだ。目的の墓にはのしっかりと墓石があった。そこにはちゃんと死去した名が、墓石に刻んである。

「では、ごゆっくり。」

案内を終えた濃は少し離れた。不用心だが、これは古満がそれを望んだからである。どうしても、この墓に語りかけたかったのだ。そして、それを誰にも知られたくなかった。ミーンミーンっとゼミの声が木霊している中、古満は墓前で暫し仁王立ちした。

 しかし古満は直ぐに動きだして、右手の持ってた釣船草という花を墓前に添えた。墓前に置かれ風で揺らめくその紅色の小さい花は、華麗で綺麗だった。そして、そこには幾ばくかの儚さ出ていた。それが生前に一度だけあった、御仁の姿によく似ているっと古満は思った。

 その後、墓を濃が持っていた桶に入った水を使って洗ったり、周りの雑草の草などもブチブチと抜いた。時よりプーンと煩い蚊などに苦戦しながらも、一通り終えた古満は墓前の前でしゃがんだ。

(さて、何から話しましょうか。時間はありますから。ゆっくりと考えましょう。)

 ヒューっと季節外れの涼しい風が吹いた。その墓には『駒 此処ニ眠ル』っと不器用に掘ってあった。

次は過去編です。

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