第一章一七節 李氏朝鮮脱出
一年ぶり…話し進歩もない…これが歴史シミュレーションなのをお忘れなく。
17 医者処遇
吉正が奸計を喜々として、進めていたその頃…。秀秋が滞在する部屋に、宗章と景治の二人はいた。三人は連日からやっている撤退時に必要な荷物のまとめをしていた。時に二人がこれは必要か否かを聞き、秀秋がそれを回答する。それ以外三人は、黙々と作業に没頭した。晴天もあり、汗が体中から出ており気持ちが悪いのを三人は感じてはいたが、手は休めない。幸いなのか、彼ら三人は若く体力があり、近侍の二人は武闘派であった為に力もあった。見る見る内に部屋の整理が進んでいく。前日のおたあが来た時よりもかなり早く進んだので、これには秀秋もただただ二人に感謝するしかなかった。
「少し休憩するか。二人とも手を休めてくれ。」
太陽がてっぺんで輝いたその時、秀秋が手伝ってくれてる二人に命じた。ふーっと命じられた二人が息を吐いていたのをしり目に、秀秋は大きな声で小姓を呼び、飲み水と手ぬぐいを持ってくるように手配した。その後に、秀秋もうーんっと手を万歳させて背伸びをした。背の骨がバキバキっと良い音で鳴った。
その音を耳で聞いて、体の疲れを感じた秀秋が密かに苦笑をしていると、小姓が小走りで来たのか、少しだけ息荒く手配したものを持ってきた。急がなくともと思いつつも、苦笑は継続のまま小姓に物を秀秋は受け取った。早速、秀秋が手ぬぐいを顔で拭いた。手ぬぐいは少しだけ水で湿気ており、これは心地よかった。ついつい顔の後に手や腕、首などの汗を拭いてしまった。これは景治達も同様な行動をしていた。水もしっかりと冷えており、ごくごくっといい喉ごしで三人は飲んだ。
「「「美味い!」」」
思わず出た三人の言葉はピッタリと重なっていた。これには三人共にクスクスっと笑ってしまった。三人は笑いながらも自然と向き合うように座してゆっくりとした気持ちになった。
ちなみに冷水や程よく湿気た手ぬぐいを持ってきた小姓は、吉正が選び抜いた者たちである。これは小姓達の指導として秀秋は、景治や重臣達を使わず吉正に任せているからである。
吉正は基本的に小姓に求めたのは気遣いが出来るように指導した。武なんて近衛兵や宗章などの近侍・柳生もいるし、秀秋自身も武は鍛えており小早川家の上位五本指に入るので、武は除外。知は正成がいるし、何より自分(吉正)がいるし除外。吉正自身、驕りではないが自分が知は優秀なのは自覚しており、秀秋の相談役や心情を読むことがある程度出来るのを自負している。それにこんなに楽しい場所を奪われる者を育成する気は更々なかった。これに秀秋も気付いてはおり、一応は程々にと釘はさしている。無能な者ばかり育成されても困るからだ…。
吉正の求めた気遣いとは、人としてこれをやられたら嬉しいと思われる行動をとることであった。これは、秀秋の心情を読み、臨機応変に対応するという難しいものであった。今回の場合、手ぬぐいと水が所望の命令。渡すのならさっさっとすぐに物を渡すのもアリである。だが小姓はしっかりと場面を見て考える。手ぬぐいは汗を拭くだろうを予想し、水で湿気させた方が気持ちいいと判断。更に水も入れる器を水に入れて冷やし、なるべく水の温度を上げさせないようにしていた。
ここまで小姓は思考し行動しつつも、吉正からしたら今回は不合格である。小走りがダメな点であり、秀秋は確かに物を早く欲しかったが緊急ではない。秀秋に苦笑させた時点で、吉正はこの小姓に呆れるであろう。吉正なら物を太々しく運び、しかも本人なら手ぬぐいに香を焚きつけ、水も柑橘類の味をほんの少しだけ入れてやるぐらいはやる。この領域に達しているのは、まだ残念だがいない。そして、その吉正がいなかったのもこの小姓にとってはある意味幸運であっただろう…。
そんな小姓が下がった後。暫しの間、三人は談話を始めた。荷物整理はかなり進んでおり、今日はもうやらなくても大丈夫な程に片付いていたからである。主に荷物の運搬、近衛兵の体調面や武具の確認など仕事面である。公式の場ではないので、かなり砕けた口調ではあるが頭はしっかりと三人は働かせていた。
「ふーん、なるほど…。」
秀秋は二人との談話で気になったのは、やはり近衛兵達などの体調面である。まもなく小西行長救出戦が始まる。自分が陸軍総大将になった以上、他の大名に示しを見せる為に、ありったけの兵がいる。一兵たりとも不必要な者は出さないようにしなければならない。また、異国でこんな馬鹿馬鹿しい戦中、体調面で死なれては申し訳が立たない。疫病こそ今の所は流行ってないが、義父の亡き隆景もこの地で戦をしている最中に体調を崩してしまっている。秀秋は日ノ本では名医で評判が良い曲直瀬道三の弟子を数人高給で雇っており、常に薬剤や体調が悪い者を見させている。
ちなみに、この曲直瀬道三は既に死去しているものの、秀秋…いや毛利の怪物であった亡き毛利元就の頃から縁がある。元就が中国地方統一の為、当時の難敵だった尼子攻めをしている中で体調を崩してしまったことがあった。その際に治療に当たったのが、京で医者の名声を集めつつあった道三であり、そのおかげか体調は回復した。以降、元就と道三は元就が亡くなるまで交流を続けており、亡くなった後も何度か毛利家に足を運んでもらい、毛利家の医者育成を手伝ってもらっていた。
このこともあって、毛利家は曲直瀬家に敬意をもっており、それは分家である小早川家も一緒である。しかし今は豊臣秀次切腹事件で秀次のお抱え医者だったのもあり、曲直瀬家は没落し佐竹家にお預かりになっている。でも曲直瀬家の弟子はたくさんおり、密かにその中の数人が秀秋のお抱え医者になっている。この医者は亡き道三後に家を引き継いだ玄朔が選んだ優れた医者達である。だから秀秋は全面的に信用し、医者のいうことは聞くようにと家臣達に命じている。これが幸いして、小早川家は体調を崩す者は他の軍と比べるとかなり低かった。だが体調を崩している者がいるのは事実ではあるので、そこはしっかりと治療に専念はさせている。
「病での死者が出ないのは幸いか…。日ノ本に戻ったら医者達に褒美を取らせよう。」
「そうされたら良いかと。少なくとも病人が出てから寝る間を惜しまず働いている故…。」
秀秋の呟きに、景治は間髪入れずに答えた。その横に座してる宗章も鷹揚に頷く。この二人は近衛兵の取締とその副取締である。日頃から病にかかった近衛兵や他の者たちを、仕事上よく様子を見に行っている。その際、医師達が汗水垂らしながらも、一人一人にあった薬を配合していっている過程を見ていた。寝る間を惜しまず対応するその一生懸命な姿勢は、二人から見ても感心していた。だからこそ、医者達の褒美については是非やってほしかったのであった。
その熱心な目線を二人から感じた秀秋はうーんっと二人をしり目にサッと難しい顔で思考し始めた。
(二人も良いと言っておるし、これはやるとして…さてどれぐらいの報酬にすべきか…土地は猶予なんてないし、戦費も莫大にかかってて火の車一歩手前だし…)
秀秋からしても、何とか報いる報酬を渡したい。だが、減封や戦費もあり、小早川家には余金なんて他の大名よりなかった。
「…殿、一つお聞きしたいことがございます。」
秀秋が医者達の報酬内容を今まさに思考中に、景治がそれを中断させる声掛けをしてきた。秀秋の思考中は景治は基本、それがまとまるまでは遮らない。秀秋からしたらおやっと珍し気に思考は中断し、景治を見る。その景治は何処か緊張していた。それが秀秋は気になって、表情は特に曇らせずに訪ねた。
「なんだ?」
最早、皆さま更新には諦めておられるかと思われます。更新は期待0であります。更新をもし期待されてる方がいたら申し訳ございません。もし更新されてたら生きてたのかぐらいに思って下さったら幸いです。