第一章十三節 李氏朝鮮脱出
大変、お待たせしました歴史転換です。話は全く進んでいませんが、ご了承ください。
では、歴史シミュレーションなのをお忘れなく。
13 幼き者の訪問
幾たびの時間が流れたであろうか・・・。秀秋は座したまま、まだ己の太刀をじっと陽炎を眺めていた。秀秋にとってはこの一瞬は、瞬きをするぐらいの出来事である。全く時間など関係なかった。
そして外は、いつの間にか曇天を切り裂いて光がいくつかだが地に注いでいる。曇天の僕である雨はいなくなっていた。それを蛙が残念そうに、水溜りから動きを止め眺めていた。それを刹那の油断を逃さず、何処からいたのだろう、蛇が疾風の如く襲い掛かった。蛙は一瞬にして、食われたことに気づかず、その生を終えた。蛇はこれに満足せずに、さっさと移動を開始した。来るであろう、冬の支度をする為に・・・。この世は弱肉強食なのだっと蛇は思っているに違いない。その姿を鋭い眼光で木の上で見物してた鷲を知らずに・・・。
なにやら前触れもなく、急に廊下からドタドタっと足音が聞こえた。その反動でか、キシキシっと古ぼけている廊下が悲鳴が聞こえる。だが足音については、何処も誰も大急ぎで整理しているのだから特別な訳ではない。現に秀秋がボーっと影炎を眺めている時も足音はあった。無論だが、秀秋は全く気にしなかった。
だが、今回の音は何か違う、そう何か・・・。秀秋は耳で聞き取り、そう感じ取った。何事の場でも己の勘は重要である。勘が鋭ければ鋭い程に、物事の迷いもない。あの有名な第六天魔王こと織田信長がいい例である。かの者の鋭き勘がなければ、戦乱の寵児とはならなかっただろう。
秀秋はすっと影炎を鞘に元に直すと、身なりを軽くだが整えた。ふーっと深呼吸を入れる。これから来る何かに、落ち着いた心で整えてことに備えようと考えたからだ。
(・・・・・・・・・・・・。)
秀秋はただスッと息をし、座して待った。心は何時の間にか、無に近い心境まで達した。秀秋のその体を、天から射した赤き灯で染まる。それは、秀秋が心を無にしつつも、今から来るであろう何かの期待感を表していた。
「殿、宜しいでしょうか。」
尋ねてきたのは右筆の村上吉正だった。言うとズカズカっと部屋に入室するや否や、秀秋の前で座して対面した。その間の入室礼法は一切抜きだ。普通の大名なら、烈火に激怒するだろう。なのに吉正は涼しい顔をして、秀秋をただ真っ直ぐに凝視していた。全く気にしてないようだ。
この秀秋に向かっての対応は、吉正にとっては当たり前になっている。何回か小早川家三大家老(誰かは間章の人物設定にて)に無礼だっと非難された。しかしこれに対し秀秋は、用件をすぐ淡々と言う姿勢に好感を覚えた為に許可した。
秀秋は基本、回りくどいやり方を嫌う。元来、報告などはどうしても良くしようと口調が変わってしまう。吉正の対応は、その無駄と私欲を無くした過程である。なので秀秋は許可したのだった。
さて秀秋は、この来客の吉正の粗方ではあるが、大体の用件が読めていた。それは吉正の対応ではなく、発した言葉に隠されたのを看破したのだ。吉正は〔時間〕という語源を使わなかったことである。
(急ぎだな。)
「ああ、構わん。して、どうした。」
秀秋は、内心で気を引き締めつつ尋ねた。もしかしたら、何か異変が起きたかも知れないからである。
「実は・・・。」
「ヒデアキ・サマ・・。」
吉正の会話を遮って、後ろからひょこっと女子が顔をだした。見た目からして十二歳ぐらいだろうが、かなりみすぼらし服をしている。顔色もあまりよくない。
吉正は顔を苦々しくして、告げた。
「・・・こういうことです。」
「おたあ・・・。」
秀秋は久々に見たその知人、おたあに思わず顔を笑みで崩した。
おたあは李氏朝鮮の生まれの子である。戦争孤児として生きていたが、とある縁で小西行長の保護を受けている。これは丁度、半年前ぐらいの出来事である。
まだ基本的にまだ片語ながら、日ノ本の言葉が使える。また、遅く話したらちゃんと言葉の意味も理解できる。幼いことを差し引いても、かなりの頭の良さである。丁度、頭にほとんど使われていない引き出しに、どんどん物を入れるが如くである。
又、みしぼらしい服なのは、一番これが身軽だと愛用してるなど、活発な者でもある。時たま勉学に飽きたっというと木に登り、そこで昼寝をグーグー満喫するというぐらいである。
そんなおたあと秀秋は、ひょんなことから知り合った。ある日、いつものようにおたあは、勉学が飽きて木で寝ていた。
おたあは昼寝をする時は木の上だった。これは体の身を守るための知恵だった。こうしたら、下からも気にしなければならないが、基本的に下だけ気にしたらいい。上・横は鳥や蛇を相手にするだけで、一番厄介な人と相手にする可能性が少ないのだ。だが同時に逃げ場は限定されてしまうが、おたあはそこまで考えてない。ただ、その時は今に必死だったから。
するとおたあは下から声を掛けられた。
「そこは気持ちがいいのか。」
その声こそ秀秋であった。小早川家はこの時期、釜山城に現地総大将の宇喜田秀家の与力となってた。秀秋は総大将から解任され、一大名になり下がっていた。
(あっ確かヒデアキサマ・・・。)
おたあ自身は秀秋を認知していた。それに、何度かだが遠目で見てもいる。おたあは一瞬だが驚きで答えが返せなかった。だが、おたあはお礼が言いたかった。それは、秀秋に恩義を感じていたからだ。
秀秋が現地総大将の頃、戦争孤児についても対策をだした。基本的に現地の民には捕虜、略奪は一切禁止。これに孤児も当てはまる。そして、孤児にはなるべくなら寺社に斡旋する方針であった。
おたあはそれに当てはまった。寺社とは残念ながら何かが当てはまらず、脱走することとなった。この時に秀秋のことを僧から聞いた。釜山城周辺で生きたおたあは何度か秀秋を影から見た。食い物に困っていると、日ノ本軍の物だと日ノ本軍から食糧を渡された。秀秋は周りの反対を押し切って、よく民に食糧を分け与えた。後にこれは秀秋が日ノ本軍に叩かれる要因の一つだ。
注意『』は李氏朝鮮の言語です。
『あっ、あの・・・。』
(しまった。うっかり。)
緊張してしまっているからか、おたあは李氏朝鮮の言語を話してしまった。しかも、下から眺めながらである。周りからしたら無礼極まりない行為に等しい。更に、おたあはその見た人物はかなり名高い人だと本能的に悟った。
(どうしよう・・。)
打ち首になってもおかしくない。やっと未来が切り開いたのに、ここで潰えるの・・・。そう思うとおたあの顔はサァーっと青ざめた。
(朝鮮語。それに、困惑してるのか・・・。)
おろおろとしていると更に考えがまとまらないその様子に、秀秋は思考した。ここに、あのようなことをする女子はそうはいない。日ノ本にも希少であろう。まして日ノ本軍に、朝鮮語を流暢に話せる女子がいない。精々、厳つい男ぐらいだ。
(考えても仕方ないか。)
『そこは、気持ちいいか。』
秀秋は地元の人間だろうっと結論はした。だが、深く思考するのは止めた。まずは、目の前で困惑していう少女をどうにかしようっと決めた。
秀秋は、朝鮮語を言葉を柔らかく言った。まだ歳もそんなに老けてないので甲高い。だから、なるべく聞きやすいように、ゆっくりと言った。
因みに秀秋は、訛ってる現地語は聞き取れないが、日常会話が成り立つぐらいの朝鮮語は話せる。これは秀秋が自ら現地の民と会話したいが為である。しかし一方で、商人や捕虜との会話も率先して情報収集する為という裏の事情もあった。これによって秀秋が現地で活躍してたのは、誰も知る由もなかった。
おたあは、はっとオロオロとしてた顔と目線を秀秋に向けた。秀秋は顔も久方ぶり、表で笑みを浮かべた。一大名になってからというもの、秀秋の政策は悉く廃止された。参加している日ノ本の大名達に、無能やら木偶など罵倒を受けた。別にそれぐらいの罵倒は慣れている秀秋だったが、流石に表では顔を無表情としていた。なので、久々の笑みは何処かぎこちなさが浮かんでいた。
(笑ってる?無理して・・・?)
おたあは秀秋を見て感じた。笑みの中の意味を。
笑うとは、非常に曖昧なものだ。笑うと嗤うと漢字からして種類も豊富、見た目も笑いを威嚇にすることもある。相手が笑っていた場合、まずは相手を洞察する目がなければならない。じゃないと、相手の心理とかけ離れた答えになる。そしてそれは、相手とすれ違いに繋がってしまう。
おたあはさっと木から降りて秀秋の前で柔らかく笑って言った。
『はい、気持ちがいいですよ。』
あの後、おたあは秀秋に感謝を伝え、秀秋がこれに莞爾として笑って答る。それ以降は城で顔を会わせたら話しをし、木の登りかたを秀秋はおたあに教わったりと[友]として付き合いをしていた。
「久方ぶりじゃな。」
秀秋は吉正の後ろで立ち竦んでるおたあにそう呟いた。おたあもその呟きにすぐに頷いた。秀秋は座してる吉正の隣に座布団を敷かせて、おたあに座らせた。そんな隣に座された吉正は、それを苦々しく見ているだけだ。
ここ最近は、秀秋は色々と忙しいのもあってか、おたあと全く会わない日が続いていた。おたあ自身も、行長の進軍の際に道先案内として働くこともあった。今回はたまたま従軍に参加しなかった。
「吉正・・・。火急の用とは。」
「これでございます・・・。」
おたあを目で一瞥すると、吉正は重いため息を吐いた。そうした後、ではこれでっと言うとさっさと出て行ってしまった。その速さは、秀秋が声を出す間もなかった。
(吉正、子が苦手にも程があるぞ。)
秀秋はそう苦笑しつつ呟いた。おたあはいそいそと秀秋と対面の為、移動していた。
さて吉正と言う男は、小早川軍の知恵袋である。だが、知恵袋といっても謀が大半を占めている。吉正自身も陰湿な所もあってか、その役割を十二分に発揮している。その姿は薄気味悪い狐に見えると一部家中から揶揄されている。
その吉正が最も嫌うのが、意外に子そのものである。嫌うというより苦手というのが正解だろう。吉正曰く、動きが読めないからであるらしい。秀秋はそれを直接問いただした時に納得した。
子と言うのは、感情豊かで単純な者が大半である。だが吉正は、時に神出鬼没でありその無垢故の発想展開に恐怖しているようだ。謀は常に、現実と結果だけが求められる。その為に長い年月が過ぎても、結果がついてくればいいのだ。だが、子の無垢でその唐突な理想家な所がある。
主に謀を仕事をしている吉正にとって、子は非常に厄介な存在でしかないのだ。特に自分の後ろめたさやみすぼらしさの闇が照らされているようで…どうも苦手であった。
「ヒデアキ・サマ・イイ?」
「・・・っああ、問題ないよ。」
おたあが秀秋に声をかけると、秀秋は即座におたあに集中した。実は、秀秋自身も子は苦手である。これは秀秋が過去、不遇な日々を思い出すからである。
過去の話は今、話すことではないだろう。
だからこそ、おたあに秀秋は集中している。というよりも、子に話すときは常に集中している。集中することで、過去の自分と切り離す為に。子の考えと思いを理解する為に。
おたあは顔を緊張した面持ちだ。緊張してたのは、公式の場で二人が会うのは初であった。だがおたあは、どうしても秀秋に言いたいことがあった。だからここに居るし、今からその内容ゆっくりと静かに話し始めた。
何とか投稿しました。まさかのまた転勤になって、今回はインターネットカフェで投稿しました。
半年でまた転勤・・・。会社は俺を殺す気かっと思いつつ・・・言い訳ですよね。遅れて申し訳ございませんでした。
次の投稿は、来年以降が濃厚です。どうも仕事が忙しすぎるってのが理由です。こんな歴史転換ですが、見捨てないで下さると非常に励みになります。
後、この場を借りて、まさかのお気に入り二桁になったことを謹んで喜びました。本当にありがとうございます。これからも何とか完結まで行くように頑張っていきますので、宜しくお願いします。