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転換!関ヶ原!  作者: 歴史転換
本編
12/29

第一章六節 李氏朝鮮脱出

 これが歴史シミュレーションなのをお忘れなく。

 

 6 小西行長等救出の軍議



 釜山城には陽が出ている。今日は晴天とはいかず、雲と逢引しながらの登場である。今日は少し、こちらを見る気持ちではないからか光は弱い。

 いつものことだが、天は陽と月との交代の際に喧嘩にならないかと恐々としている。だが、いつも淡々と月は交代を迫る。そして、それを陽が承知して交代が完了する。月や陽からすれば、一日もそこの滞在が厭きるからである。気分転換しなければ、毎日も役割を勤められないのだ。

 その陽の出す光は弱くとも闇を嫌がらせた。そして、闇は渋々撤退していったのだ。そして、そこに生きるものや寵愛を受けるものも、休む為に数少ない闇に隠れている。やっと光が戻ったと喜ぶものもいる。光に寵愛を受けるものや、生きるものだ。弱い寵愛でも、かのもの達は文句はいえない。慈悲であり、気持ちなのだからである。

 だから、かのもの達はその状況でも文句言わずに動き出す。今日も生きる為に。・・・まさにこの世は光と闇の輪廻に惑わされる世である。

 

 釜山城の大広間には、既に昨日の軍議に参加した大名達が集結していた。まだ、完全に陽は頂点にあがってないからか、それとも陽の光が弱いからか今日は涼しい。大名達は上座、下座っと座してはいるが、段が少し上になっている最上座は誰も座していない。ここは本来、総大将の席なのだ。

 昨日の石田三成の使者は、日ノ本軍の使者としてなので座したのである。本来なら日ノ本軍の総大将である、宇喜多秀家がここに座してる筈である。

 だが、かの者は現在日ノ本に居る。実は、今年の春には豊臣秀吉の体調が悪いのは周囲が承知していたことだ。その際に、かの者は日ノ本に帰国命令で帰国して以来、二度とこの李氏朝鮮に出兵していない。

 何故帰国命令が出たかというと、秀家は秀吉に可愛がられたからだ。その可愛い秀家を枕元に置いておきたいっと秀吉が希望してからだ。だからこそ、現在は総大将不在で前線は戦をしてるのだ。

 だから、このような重要な大勢居る軍議には、最上座は誰も座せれない。因みに、普段はというと小早川秀秋が座している。どんなに馬鹿にされようと、ここの城主を一応は任されてるからだ。

 しかし、出陣要請がなければ敵の襲来もない。だから軍議などは滅多になかったのだが。


 先程から大広間に集結した大名達だったが、誰も声をあげない。大広間ではシーンっと煩く響くだけである。黙って座してる大名達は、まるで石像である。様々な顔と体格、それに平服も各大名違うからある意味では厭きない。

 何故沈黙してるのかというと、これは軍議の進行役がいない為だ。本来は総大将がするが、それはいない。だから大名達はただ沈黙して座したままでいたのだ。

「さて、諸大名方も集まられたのだから、軍議を始めませんか。」

上座にいた細川従三位参議忠興が声をかけた。いい加減に焦れたのか平服の紫色が何故か苛立ちを表すのを惹きださせた。

 この声かけに皆の顔も引き締まる。だが、忠興の声かけに多くの大名達が待っていた。いや、誘い出したと言ってもいい。一人の男が忠興に対して発言した。

「この際、細川殿がこの軍議の進行役をされませぬか。」

この中座からの野太い声は、茶色の平服によって更に強調させるこの発言主は、加藤従五位下左馬介嘉明である。そう、大名達はこの進行役を誰かが名乗り出るのをジッと待ってたのだ。忠興はそれに乗ってしまった形だ。

 因みに嘉昭は、賤ヶ岳の七本槍として有名な武将だ。今回の出兵には、日ノ本軍の水軍の将として各地を転戦していている。

 さて、指名された忠興は本人は困惑したが、他の大名達には特に反対する声もない。かの者は武将としての名もあるが、茶人や詩などの文化人の才覚もある。寧ろ、こちらの方が有名であって、人と戯れるのは得意分野だ。

 だからか、こういう場所の進行役には不足はなかった。忠興は困惑で一瞬、表情を引きつらせたものの、仕方なく承知した。忠興は最上座の一歩手前、つまり段の前に移動しそこに座し直した。こちらなら、左右に座している者達を見ることが容易だからである。

「では、不肖ながら、この忠興がこの軍議の進行役をさせていただきます。」

流石に皆から選ばれただけはある。忠興の態度は凛としていた。腹が据えたのも無論だがある。

 進行役に必要な要素は、どんな時も中立であれっである。片方に偏れば贔屓だ、八百長だ、などの批判が噴出する。無論、このことは忠興は認知している。


 忠興は一呼吸をした。座した所でグルッと目を動かして周りを見渡す。忠興の前にいる大名達の緊張した顔があった。緊張してるからか、顔色が各自バラバラで様々な色合いがある。

 各大名達の緊張感もかなり高まっているので、大広間の空気も涼しさが弱まっていた。それはこの軍議が、熱くなる論議になることを予知しているようであった。

「では、軍議を開始する。」

忠興の言い方は、上からの物言いである。普通の者ならば、無礼極まりない行為だ。だが、忠興の独特な雰囲気や、本人が細心の注意を払っているのが顔の緊張感から見て取れる。だからか、忠興の物言いに不快さじゃない。大体、それぐらいの問題なぞ可愛いものである。


「今回、李氏朝鮮からの撤退が命じられたことに、まず異存はないか。」

忠興が口にしたこれは、確認事項である。無論皆は首を頷く。当然だが、大名達は是っとの回答だ。大体直ぐにでも帰国したい各大名にとっては、この命は渡りに船である。

 忠興はゆっくりと大名達の顔を一人一人見て、確認した。そして、確認し終わると首を頷かせた。

「異存はないっと決定しました。では、ここにはいない各大名に書状を送ることに異存はないか。」

忠興が口を開いたこれも、確認事項だ。実は昨日の内に、既に昨日の軍議に檀家しなかった各大名達には、李氏朝鮮撤退の書状は送っている。このことは、無論だが各大名達は承知している。

 だが、忠興はしつこく聞いた。万が一に聞いていない大名がいるのかもとの考えてだ。実に忠興は慎重で細心なことである。

 これには数人の大名達が、一番の問題になかなか入らないことに焦れたのか、顔に苛立ちが出た。だがそんな大名達を尻目に、忠興はしれっとして全く気にしない。

 忠興は、自分が進行の規則であり、気に入らないなら出て行くがいいっとの態度である。実に胆が据わってる。

 この問いに大名達は全員、首を頷いて是っとの回答を示した。


 忠興はこれを見て、更に言葉を続けた。

「送ることに決定しました。では、撤退で最も困難なことを挙げられよ。」

「ええぃ。そんなの全州の順天倭城にいる大名達の撤退だろう。」

上座に座している福島正則がこれに苛立ちながら応えた。顔も平服も真っ赤に染まってお揃いである。流石に怒鳴られた忠興は少しだが怯えた雰囲気を見せた。

 元来短気で短慮な正則はこういう遠まわしな発言や細かいことは大嫌いである。だから、簡単に進まない軍議に苛立ってしまったのだ。実は、昨日の宴で酒を飲みすぎや睡眠不足などにより、体がだるいことや頭が痛いのもその苛立ちを悪化させた。

 昨日始まった宴の際に、正則は次々と酒の飲み比べをした。だから酒をしこたま飲んだのだ。更に、最後の酒の飲み比べた加藤清正と明け方まで飲んでいたのだ。因みに、二人の飲み比べは結局は勝負はつかなかった。

 撤退の足掛けは小西行長等が最も問題ではある。だがその他にも黒田従五位下甲斐守長政等が、亀浦倭城に滞在してるなど李氏朝鮮で城に篭っている者も結構いる。だがこれ等は小西行長等に比べれば容易だ。敵が近くに囲っていないからである。だから、李氏朝鮮撤退の書状が、各大名達に着き次第、即時撤退するだろう。

 

 さてその李氏朝鮮撤退の際には、ここの釜山城に寄ってから、釜山の港から日ノ本に向かう手筈になっている。これは、日ノ本軍の誰もが是っとしたことである。

 これには、無論訳がある。

「その時に、李氏朝鮮の水軍が厄介だな。」

浅野幸長が呟くと皆が苦悶する。その幸長だが顔色が真っ青であり、平服の橙色と混雑してて妙に味のある感じになっている。しかし緊張で顔色が真っ青になるには少々青すぎる。

 これは、正則の飲み比べで酔いつぶれた幸長は現在、かなりの二日酔いなのだ。だから必要以上に顔色が悪いのである・

 さて、日ノ本軍の最大の悩みはその幸長の意見で露呈した。

 

 ここで、簡単に整理しよう。李氏朝鮮での日ノ本軍の戦果をいえば、勝利が多い。しかも現在、明の援軍が加わっても戦況が五分以上に保っているのは奇跡的だ。島津義弘が十月に泗川の戦で、明・李氏朝鮮連合軍に大勝利したのは記憶に新しい。

 だが、これは陸戦での話しである。日ノ本軍は陸戦では恐ろしく強い。だが、日ノ本軍は海戦では敗北が多い。李氏朝鮮の将である、李舜臣が率いる水軍が異常に強いのだ。

 李舜臣は陸戦は弱いが、海戦では異常に強い男である。これはちゃんと結果がある。初めから水軍の司令官だった李舜臣は開戦から、閑山島海戦などに勝利して戦功を挙げる。だが、政戦で敗北して陸軍司令官に更迭された。それからは再度開戦されてからの巨済島奪還の際に敗北するなど李舜臣は負けに負けた。これ程弱いのかと敵味方が首を傾げた。だが、政戦で李舜臣に勝って水軍司令官に就任した男が戦死すると、再び李舜臣が指揮を取った。李舜臣が更迭されてから、漆川梁海戦の敗北など負けが続いた。だが、李舜臣が再び就任したからは、鳴梁海戦の勝利など勝利が続くようになる。正に生粋の水の男なのだ。現に、自他共に以上の経緯があって李舜臣の能力は、陸戦弱し海戦強しっで常識なのだ。

 

 さて、その李舜臣と行長等の救出がどう関係しているのか。実は行長等が篭城している順天倭城は海に面してるから、撤退にはどうしても李氏朝鮮の水軍を無視出来ないのだ。無論、陸からも救出は一応は出来るが、そこには数多い連合軍の陸兵がいる。水軍よりも遥かに多い敵兵がいる仲での陸からの救出は、どう見てもかなりの愚策であった。一方の敵の水軍は強いが数は少ない。

 なので海戦に全力で向かえば、日ノ本軍は多分勝利出来る。これは、鉄砲や大砲などの安宅船に乗せて全ての水軍で出陣すればのことだ。数は日ノ本軍が圧倒しているので、それを最大に生かすのである。

 だが、李舜臣はこのことを承知している。だから、基本は小規模な戦に持ち込んでいる。だが、これは李舜臣だけの責任ではない。漆川梁海戦の敗北で李氏朝鮮の水軍がほぼ壊滅したからである。水軍に勝利したからといっても船が増えるのは微量である。兵糧も軍資金も僅かしかない。絶対的に戦力が足りていないのだ。だから、大群で動かせば李舜臣は見守ることしか出来ない。だから、釜山城で一旦合流してからまとめて帰国する手筈なのだ。現代風にいえば、バッファローが大群で移動することにより、チーターなどの天敵から身を守るのと似ている。

 

 海戦での絶対勝利には大勢の水軍が必要である。さて行長等救出の際に大規模な水軍が動かせるのは、実は残念ながら不可能であった。それは、皮肉にも李氏朝鮮の即時撤退が理由になる。

 日ノ本帰国の際は、陸兵の乗る船には水軍の護衛が必須である。そして、大名達の全てを一斉に帰国させる訳にはいかない。

 それは何故か。確かに敵の水軍に襲われる可能性は極限に低くはなる。しかし、それは即時撤退の命を完全無視する形になるのは、日ノ本軍にとって不味かったからからだ。命の発令には三成だけでなく、五大老という御偉い様の命でもあったからである。

 だからあくまで即時撤退をしつつも、行長等救出をするのがここの大名達の最終目的だ。

 

「陸と海、両方で向かえば何とかなるやもしれん。」

平服を青で極めてる清正が唸る様に言った。確かに、日ノ本軍の海戦と陸戦、両方の完全敗北の可能性は低い。あくまで行長等を撤退をさせればいいのである。だから万が一、戦闘中に行長等の撤退をさせるも仕方なし。勝ち負けはこの際、関係ないはないのだっと清正は言葉を続けた。結構厳しい内容である。

 清正の発言に、皆は様々な反応を示した。論議にはなったが、概ねはこれしかなさそうであるっと合意に近いものがあった。

 特に陸戦は明・李氏朝鮮連合軍も嫌がって避ける可能性があるので期待出来る。片方に力を集中させずに分断させての策に合意の空気があるのを、忠興はしっかり読んでいた。

「では、陸、海からの両面からの救出に異存はないか。」

忠興の催促に、結局は全員同意した。

 

 この他にも撤退の第一陣は亀浦倭城に滞在してる長政等とし、脇坂従五位下中務少輔安治が水軍の大将として警備することなどが決まった。

 また、撤退になるからには各自、用意をすること。撤退の最後の一団は釜山城を焼失させることなどの撤退についての話が進む。ここは全く揉めなかった。


 色々な論議で決めてきた軍議だったが、遂に終局に向かっての最後の設問に差し掛かった。忠興がその設問をゆったりした口調で言う。

「では、最後に小西殿達の救出に対する、陸、海戦の総大将などの配置を決める。」

ここまでに、かなりの時間がかかっているが、これが最後の難関である。総大将といっても、陸の総大将と海の総大将がいるので二人必要である。両方の挟撃が鍵になるのだから、この総大将選びは重要である。


 この総大将決めは大変論議を醸し出した。色々な総大将が各大名から出た。忠興もこれを制するのに苦労した。

 話しが進み、海の総大将に清正が選ばれた。これは意外にも清正が自らの挙手である。自らの挙手はないと思った各大名達は、大変驚愕した。だが、清正の並々ならぬ意思を感じたから結局は選ばれたのである。

 清正からしたら嫌悪している行長に皮肉を言いたいが為である。無論だが、ここで自分の武勇を見せ付けることも目的としてある。


 こうして、最後の陸の総大将を決することとなった。これに清正の就任決定に、直ぐ口にした大名がいた。

「それには、某から推薦したい者がいる。」

その大名である立花宗茂が、黒の平服がより印象を際立たせるような感じで静かに口を開いた。この発言で一斉に宗茂の顔に、大名達の目線が集まる。ここまで、特に積極的に発言しなかった男が言い出した、突然のこの発言である。注目が集まらない訳がない。


ゴクリと誰かが喉を鳴らした。その音は各大名達にも耳に届いた。そんな空間の中で、宗茂は落ち着いた感じであった。そして、一呼吸を置いて宗茂は発言した。

「その総大将は小早川殿が宜しいかと存じます。」

予想外の名に大名達は驚愕したが、秀秋自身もこれには驚愕した。まさかのご指名である。発言した宗茂は堂々としていている。それは、指名して当たり前っと態度で語るようなものであった。

 大広間が大名達が騒然とする中、秀秋は下座で呆然としている。あまりの衝撃に呆然としてる阿呆の顔をしてる秀秋は、正に青い服と同調した雰囲気になっていた。

 その秀秋を見た、殆どの大名が不審そうに宗茂を眺める。どう思考しても秀秋を推薦した宗茂の胸中が読めないっと感じ、今度は宗茂に不信の目が光った。

「静かに、落ち着きなされよ。」

「何故じゃ。」

忠興が必死に騒動の制止を求める中、義弘が宗茂に質問した。義弘は流石に老練というか、老獪というか驚愕こそしたが一切顔に出さない。その顔は平服の土色と同化していて変わりはない。

 だが、理由は分からないような表情であった。義弘の言葉を聞き、騒然としてた皆は嘘のように静まり返る。宗茂は静かに語りだした。

「小早川殿の兵は戦をしてないので元気だ。それに、一応は名は知られている。元々は総大将だったのだから、その名を使わない手はない。家柄もいい。だから総大将に推薦をした。ついでに某は小早川殿の方に従う。」

これでは、秀秋というより小早川家を推薦したことになる。宗茂は秀秋が無能にも聞き様では聞き取れる。

 しかしその発言に対して、意外に他の大名達の反応はいい。一万近くの兵を率いていると言われる秀秋は無能かもしれない。だが、義父の小早川隆景は名将なのは誰もが知っている。碧蹄館の戦では、宗茂と隆景は共に戦をしている。この宗茂は、秀秋ではなく秀秋の兵達を見てるのだろうと殆どの大名達が勝手に解釈した。


「なるほど・・・。よし、濃も小早川に従おうではないか。後、一人いたら陸は問題なかろう。」

義弘は突如、秀秋支持を声高々と表明した。顔は老獪を隠そうともしないものである。だから、各大名達に義弘の思惑は分からなかった。

 義弘の発言に、おずおずと寺沢従四位下志摩守広高も是非っと言ってきた。これ等の成り行きには大名達に困惑感が漂った。

 やっとのことで呆然としてた秀秋はやっと意識が戻ってきた。宗茂のまさかの総大将推薦だが、秀秋は正直乗る気ではなかった。

 秀秋は確かに行長等は救出はしたかった。それに対しての協力も惜しむつもりもない。だが、それは一大名としてである。


「恐れながら、私如きがやるのは皆様が困惑しましょう。なので・・・。」

辞退したいっと秀秋は消極的な発言をした。秀秋はそれから必死の形相で、大広間に居る大名達に総大将推薦の固辞を並べる言葉を発した。

 発言を言っている秀秋を無視して宗茂は言葉で押した。

「某は小早川殿以外にいないと申しているのだが・・・。」

宗茂男の声も低く、腹の底から出している。顔も憤怒しているようで赤く、不機嫌さを隠そうともしない表情だ。雰囲気も刺々しいものを醸し出して、大広間の空気をピシリっと亀裂が入った音がした。はっきり言って宗茂のこれは脅迫である。

 秀秋もこれには発言を止めて、大いに困惑した。宗茂がそこまで押す目的も意図も、秀秋は全く分からない。その他にも、これまた義弘が軽々しく宗茂に賛同し、つられて広高も賛同するように発言したことも、全く秀秋には分からないことだった。

「では、小早川殿を陸の総大将にすることに異存はないか。」

忠興はこの空気を断ち切りたかった。まだまだ決めることもあるから混乱は不味いとの判断だ。だから早めに採決したのだった。


 その時、忠興の採決に待ったがかかった。 

「私はその総大将推薦は反対だ。」

宗茂の推薦に対して、怒鳴るように真っ向から反対した上座に座してる者がいた。その男に大名達の視線が集まる。その反対意見に宗茂は、苛立ちの為か舌打ちを隠せなかったようで、小さく打った。

 この反対した者の名は、吉川従四位下侍従広家であった。顔は興奮からか、真っ赤にして平服の薄赤色よりも真っ赤にした。その目は宗茂には向かわず、推薦された秀秋を見ている。その目からははっきりと侮蔑を示していた。

 この広家は大の秀秋嫌いであった。秀秋が小早川家にいること自体不快であり、存在すら否定的なくらいに嫌悪している。

 元々小早川家と吉川家は、毛利家を本家とした分家に等しい。先代の隆景と吉川元春は毛利両川として、互いに本家を助け合う仲だった。だから、広家も隆景には敬意をしている。

 

 だから、小早川家が秀秋を養子にした時に毛利両川の絆は崩れた。いや、厳密にはそうではない。

「私も秀秋の推薦には、些か疑問を感じます。」

広家に青い平服の男が静かな口調で同調した。今度はこちらに皆の視線が集まる。宗茂は今度ははっきりと分かる程、舌打ちした。

 この中座に座して発言した、男の名は小早川従五位下筑後秀包である。この男もまた秀秋を評価していなかった。嫌悪感もあるが、どちらかと言えば廃嫡された恨みからである。

 この男は秀秋が養子に来る前にいた、小早川家の養子の者だった。しかも、血筋は毛利家の本家の者と大変良かった。

 だが、秀秋が来てたか秀包は直ぐに小早川家から廃嫡された。流石に哀れに思った隆景は秀吉に小早川家の別家を立てて欲しいと懇願。秀吉は秀包のことを気に入ってた。それは秀の字を与えた程であり、即座に認めた。こうして、小早川家に二家出来てしまったのである。

 

 秀秋の小早川家とは仲が悪い吉川家だが、秀包の小早川家とは仲は悪くはない。だから現在の毛利両川は、秀包の小早川家と広家の吉川家となっている。秀秋は仲間外れにされた形である。

「濃も秀秋殿の総大将はどうかと思うんですがね・・・。」

また一人、上座から秀秋推薦の反対のしゃがれた声が出た。だが、この声に反対してた二人は何故かしかめっ面をした。更に秀秋も二人の反論には心中である意味反対するのに納得してたが、この男には納得はしなかった。この三人に共通するのは、この男を嫌悪しているからである。

 

 その男は僧なのか、そのような格好をしていた。服は黒であり、何故かそれが合っているこの男の名は安国寺恵瓊という。

 恵瓊は毛利家の外交僧の身分である。だがら僧の身分なのに大名になってしまった男なのだ。恵瓊は秀吉に大変気に入ってたから出世が出来たのである。

 何処が気に入られたのか。秀吉の主であった織田信長存命中の時に、信長は途中で没落し秀吉が飛躍するだろうと予知した。本能寺の変の際に、毛利家と秀吉が対峙していたが講和に力を貸した。毛利家の完全服従の際にも交渉をこの恵瓊がした。等により秀吉からは、毛利家で一番の寵愛を受けていた。

 

 その恵瓊は何故三人に嫌悪感を持たれたか。それはこの男は些か毛利家で威張っているのと、野心家なのに対してである。恵瓊は秀吉から寵愛を受けているのをいいことに、毛利家中をいいように操っている。恵瓊に逆らうようならば、直ぐに秀吉の名を出して脅すのだから始末が悪い。毛利家第一主義には苦々しい限りである。

 秀秋は恵瓊のことを嫌悪してはいるが、少々理由は異なる。勿論、毛利家も大事であるが恵瓊を警戒しているのが正論である。それは義父の隆景がよく、恵瓊は信用するなっと口にしてたからだ。敬愛している義父の隆景の言葉を信じた。だから嫌悪しているよりも、警戒感の方が強い。


 三人の反対の意見により、本格的に総大将決めが荒れそうになることを察知した。現に宗茂は眉間に血管を浮かばせたり、義弘もそれに同調するかのような不機嫌さを出している。雰囲気は両者の対立で最悪な状況になったことに、忠興は本気に焦った。

 忠興自身は実は総大将は誰でも良かった。ただ、本人自身がやることには嫌であった。だから、この際秀秋の名が出たから、それでさっさと決定したかった。

「静粛に。では、改めて多数決で決します。」

忠興は機転でこれ以上の反対派を即座に封じた。三人はまだ反対を言っただけで、意見したとは言えない。だから不満そうに忠興を見たが、忠興はそれを無視してさっさと採決を迫った。

 そして、多数決では辛うじてだが秀秋の総大将を賛同が勝った。これは、秀秋の評価ではなく、秀秋の小早川家の評価を重んじた采配であった。一方の反対した者達は、秀秋の実力や嫌悪感から反対したのである。

「採決は小早川殿を陸の総大将と決しました。・・・宜しいな。」

「分かりました。陸の総大将はこの不肖、秀秋がします。」

秀秋はこれには渋々認めざる得ない。何せ、一応は多数決で勝利した意見なのだ。顔は苦渋に満ちている。反対派の大名も何か言いたげだったが、決定には逆らえなかったようで沈黙した。

 この他にも簡単に海軍の参戦大名などを決めた。今日はこれ以上にして、詳しいことは明日に持ち越しすることとし、軍議は忠興が終了の声を出して終了した。

秀秋は困惑した。何故、この自分が陸の総大将に任命されたのかを・・・。

次回、転換!関ヶ原! 第一章七節 李氏朝鮮脱出

『7 陸総大将 小早川秀秋』 (この童・・・。)

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