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転換!関ヶ原!  作者: 歴史転換
本編
10/29

第一章五節 李氏朝鮮脱出

 歴史転換です。今回で二桁の投稿になりました。作品を見てくれている読者様に大変嬉しく作者は思っております。今回の本文で、立花ギン千代のギンが漢字で表していないことをご了承下さい。

 

 5 秀秋と宗茂



 外は既に闇が完全に支配していた。唯一の灯りであった月も厭きたのか、手先に形を隠させているのだ。暗闇には、光を嫌い闇を好むもの達が、我がもの顔で世を見る。その顔には陰険さこそないが、どこか傲慢さがある。自分は闇の恐怖を見て怖くない。この闇以上に怖いものはないからこそ、今は傲慢なのだ。光は完全に消えることが出来るが、闇が完全に消えるのは難しい。だから、いざ光が現れたら隠れればいい。実に姑息である。だが、これこそ闇に生きるものはずる賢くしぶといのだ。これは光にだけ生きるものには、到底真似出来ないことであろう。

 

もののふの宴は終盤になりつつあった。時間も既に始まった日は過ぎて、明日になってしまった。明日は朝一ではないものの、絶対に軍議をやる予定だ。勿論、小西行長等の救出の手筈を決める為だ。

 だが、釜山城の大広間に残って、まだ宴をしてる大名達はこのことが頭に入っていない。ただ楽しんでいる・・・快楽に呑まれているのだ。だから思考出来ないのだ。

 

 この宴の中心は福島正則と加藤清正の飲み比べである。かれこれ、三時間は飲み続けている。途中で二人が厠に行くこともあるが、それ以外は睨み合いながら二人は飲みあっている。

 その二人の近くをやんややんやっと周りを囲んで煽る大名達がいる。かの者達は最初こそ近寄らなかったが、今では二人の周りを囲んでいる。 

 それは、今更遠回りしなくても大丈夫なのを確信しているからだ。何故なら目の前で飲み比べの二人は、かなり限界に近いのだ。現に顔も赤みの中に青い色が肌から出ている。持つ杯の手は酔いで震えている。目も虚ろである。もし、どちらかが倒れて次に指名されても、口先か飲み比べで説得出来るという自信があるからである。

 

 島津義弘などの少々歳を老いた者や、酒で限界でここにいたら不味いと撤退した大名も多い。現に大広間には二十人前後しかいない。これは近侍も合わせた人数だ。近侍は酒も飲まずにいるのと、眠いので少々迷惑げだ。

 その他でもチビチビと二・三人で、飲むのもいる。かの者達はただ酒を飲んでいるっといった所か。だが、飲み比べではない。なんとなく時間を潰しているのだ。

 

 そんな中、唯一違う空間がある。 その空間にいるのは小早川秀秋と立花宗茂の二人である。かの者達の周りには近侍はいない。二人しかいない空間なのである。

 この二人の徳利は既に酒もないが、二人は特に気にしていない。二人は時を忘れたように、ただ時より微笑を用いながら談話している。それは、まるで今までの話していない時間分も、取り戻そうと話しているように・・・。

 

(しかし、ますます変わった男だ。)

宗茂はそう感じた。それは先程からの談話で、秀秋に対する印象である。

 実際に話して見ると、秀秋の心情が宗茂は手に取るように分かる。心情の中には、秀秋の純粋故の残酷さや、冷酷な面を宗茂は理解した。優しさに見える残酷さ。全くその暗い面はこの男にはないっと先程感じたが、今ではそれが当たり前のように感じた。それが二面相なのだから仕方がないことだと。

 寧ろ、この男だけでなく、この者の人生に代われば多分もっと悲惨な性格になっただろうっと結論に出した。このような優しさを持っただけでも奇跡なのだとも感じた。

 暫しの談話で二人も大分、仲が良くなった。そんな時に宗茂はポツリと尋ねた。

「何故、そのように何でも某に話されるのか。」

宗茂は話をしてる間に以上の疑問が湧いた。顔も疑問を隠せないようで、歪んでいる。

 秀秋は先程から、全く嘘を言ってないことを宗茂は分かった。だが、嘘を言わない理由が分からない。まさか酒で、こんなに喋れるとは感じない。現に顔は真っ赤だが、意識はちゃんとしてるし、呂律も大丈夫だ。

 互いに話すまでは仲は良くなかったので、嘘を言って質問をかわしても仕方がない行為だ。このいい雰囲気を壊すかもしれないが、この疑問は是非聞きたかった。

「んー・・・・・・。互いに偉大な義父がいたことが私の口を軽くしてるのかも知れません。」

秀秋自身も何故か解せなかった。だから少しだけ思想してみて、ポロリッと呟いたこの一言に初めて自身が納得した。

 一方の宗茂も秀秋の発言で看破した。秀秋が義父の偉大さの重圧を感じ、その気持ちがわかる自分に共感を持ったことを・・・。

 

 宗茂は九州の雄であった大友家の猛将である、高橋紹運の嫡男として一五六七年に産まれた。幼い頃から非凡な才覚があるっと度々、紹運は周囲に自慢して期待していた。この子ならば高橋家は安泰だと確信もした。

 だが、そこに一人の男が目をつけた。大友家の筆頭家老である、立花道雪である。かの者は足が動かない。落雷で動かなくなったのだ。だが、この男は雷に切りかかり、それを切ったと公言した。そして人々はそれを信じた。御輿に乗って指揮するその姿は、正に雷神の化身っと敵は恐怖した。この道雪の名は遠い京まで轟いている。

 だが、この道雪の唯一の泣き所があった。子に恵まれなかったのである。道雪の子は女二人であり、男子は産まれなかった。その内、一人は早々と死んだ。後は娘のギン千代しかいなかった。仕方なしに道雪はこのギン千代に家督を譲った。だが、内心では不安視していた。そこに宗茂を見た。そして直ぐ気に入った。そして勝手に養子にしようと決めてしまった。

 

 紹運に道雪は何度も迫った。時に恫喝し、時に哀願したりと様々な手で説得した。紹運も頷く訳がない。期待してたし、何よりも嫡男だ。断るのは当然である。

 だが、道雪は諦めない。何度も説得する。上官なので話は最低聞かなければならない紹運は、徐々に押され始めた。道雪自身が、この行動が身勝手で、紹運を大変困惑させているのも理解してはいる。だが、どうしても養子にしたいので、感情は一先ず後回しにした。

 そして道雪は決定打をいった。次男がいるではないか。だから嫡男を是非養子に・・・っと。無茶苦茶なこじ付けである。だが、これ以上はもう付き合えないっと、仕方なしに紹運は養子を認めた。この英断に道雪は号泣して感謝しきりであった。

 

 一方の秀秋は事情が違う。木下家定の五男として一五八二年に産まれる。家定は器量はないが、野心が無駄にある男であった。器量がないのに、何故大名になったのか。それは豊臣秀吉の正室である北政所の兄だったからこそ、成り上がることが出来たのだ。性格は淡白だった家定は、秀秋をさっさと秀吉の養子になった。一五八五年のことである。秀吉に媚ったのだ。

 秀吉は道雪以上に、この頃は子に恵まれていない。だからこそ受け入れた。だが、ここは秀秋にとっては地獄であった。誰も秀吉に媚びる為に、秀秋に不自然に擦り寄ったのだ。顔は笑っていて目は笑っていない、その姿の浅ましさと不気味さに嫌悪感がでる。だが、その顔を出すことは許されない。周りに居た者は全て信用が出来なくなった。秀吉の付録、部品しか見ない目を向けられながら生きなければならない身を秀秋は非常に怨んだ。因みに、この頃にも現在の家老である松野重元も仕えたが、秀秋は心を一切開いていない。顔もいつも能面で無気力であった。

 

 追い討ちは続く。秀秋は秀吉夫妻からも嫌われたのである。器量がないのと愛想がないっと印象が悪かったからだ。その為に愛情が与えられない幼少を、秀秋は過ごしたのだ。

 因みに宗茂は、両方の父から厳しく接しられたが、愛情も与えられている。その内、秀吉に実子の秀頼が産まれる。これで更に疎まれた秀秋は、また養子に出されることになる。

 始めは毛利従三位参議輝元にやろうとした。だが、これに反対したのが小早川隆景である。毛利両川の一人である隆景は、この養子縁組が危険と察知した。回避方法として自分の養子にっと申し出た。自己犠牲である。これに秀吉は簡単に方向転換して養子に出した。厄介払いが元々の目的なので、特別執着しなかったのだ。

 

 こうして、秀秋はまた養子に出された。この時に秀秋は、沢山の人間から影で嘲笑された。媚っていたのが無駄になった腹いせである。

 その後、秀秋は小早川夫妻には大変可愛がられた。隆景は自分の能力の全てを教える為に、秀秋に厳しくもあった。だが秀秋は、秀秋個人を見てくれる小早川夫妻に嬉しかったし感謝した。その夫妻に恩返しをしたいが為に、秀秋は真剣に鍛錬をして能力を鍛えていく。

 また、この時に現在の秀秋の正室である古満と結婚。古満にも小早川夫婦にも愛情を与えられた秀秋は、現在の性格が育っていくのである。

 このこともあって、秀秋にとっての父は隆景であり母は問田の大方である。この他の者の子になったことを、秀秋は一切認めてはいない。このことを小早川夫妻に直接言った時は、偽りない喜びを夫妻が感じて涙した。それを見た秀秋も感情が高ぶってもらい泣きした。こうしてやっと、安住の地を秀秋は手に入れたのだった。

 

 宗茂は道雪を、秀秋は隆景の偉大な背中を見ている。その勇将である義父達の、魂と誇りの重さも二人は知っている。だからこそ、ある意味似た者同士なのだろう。宗茂もこれには考えが及ばなかった。だが、秀秋の発言は宗茂も納得した。だからこそ、気が合ったのだろうと結論つけた。

 

 その後、二人は沈黙してしまう。体も硬直していて、動かなくなった。どうも、この質問に二人は互いに感じ入るものがあるのだろう。

 だが突然、秀秋は少しフラッっとしながら立ち上がる。顔は真っ赤だが、思考したおかげか意識は結構ハッキリしているようだ。

 秀秋は部屋に帰ると宗茂に告げた。流石に眠くなったし、明日のことをやっと考えた撤退である。秀秋は、宗茂との談話を止めるのは少し惜しい気がした。だが、仕方ないことだと秀秋は割り切った。

 一方、告げられた宗茂はまだ体は大丈夫だ。だがこれ以上大広間にいても、つまらなそうだと宗茂は判断。秀秋と同じく立ち上がると、二人で大広間から退出した。その後もこの二人が退出した後も宴は変わりなく続けられていた。

 

 外はかなり涼しい。酔いも少し醒めてしまうぐらいの涼しさだ。外に出た二人もブルッと体が涼しさに震えた。出来ることなら温まった体のまま、部屋に帰ってごろ寝したかった。

 しかし、廊下を歩かなければ各部屋にいけない。仕方なしに二人は廊下をトボトボ歩く。二人の控えの間にいた近侍達は、既に帰さしている。宴が開始し、初めての厠に行った時に命じたのだ。かなり、危険かも知れない行為に、反対を両近侍達はしたが却下した。

 因みに各大名達の部屋割りは上座な者程、大広間に近いようになっている。だから自然と二人の始めの目標地点は、宗茂の部屋に決している。


二人とも沈黙して歩いていた。そんな中、秀秋は歩きながら顔を空に向けた。空ではもくもくいた手先はいなくなり、月が妖艶に光るその綺麗なのと冷徹さに見惚れた。まるで月が待ってたっと自分にお冠に怒りながら、恐ろしく綺麗に冷徹にこちらを睨んでると秀秋はそう感じた。

 更に、月の僕達はこの妖艶な可憐な所を目立たせようと、必死になって無数に小さく光る。だが、いくら必死に光っていても月の邪魔にはならない。いや、月の相手にすらなっていないのが正しい。


「いやー。月が綺麗ですな。」

秀秋は前を行く宗茂に小声で声をかけた。大声は寝ているだろう別の部屋の者達を、苛立ちながら起こしかねない。それだけは酔ってても秀秋は判断した。

 声をかけられた宗茂は、一旦歩みを止めて空を眺めた。これに秀秋も合わせて止まる。

「そうだな・・・。」

月の綺麗さに宗茂も思わず感嘆した。そして宗茂はフッと思う。星や月などをこんなに穏やかに観れたのはいつだったのだろうと。もう覚えていない程である。だからこそ、宗茂にとって凄く新鮮だった。

 暫しの間、互いに沈黙して空を眺めてた二人はまた歩き始めた。宗茂の部屋がもうすぐで着く。自分の部屋を見た宗茂は寂しさを感じた。

 部屋に近づくその刹那に秀秋は言った。

「立花殿。今日は有難うございます。今日、貴殿に言われたことは、この秀秋は一生忘れません。」

「そんな大袈裟な。」

宗茂は照れた。秀秋の素直な感謝にである。

 遂に二人は宗茂の部屋である、出入りの襖の前に到着した。二人は一瞬だけ互いを見て沈黙した。そして、秀秋は少し照れて言い捨てた。

「本当です。ではまた明日。・・・今宵のことは本当に楽しかったです。では。」

言い終わると足音を立てずに足早に、秀秋は宗茂の元を去った。足音の消し方は、近侍の柳生宗章に習ったのである。秀秋は去る時に言うなり一礼すると、返事も聞かずに振り返ることもなかった。

 これには宗茂は一瞬唖然とした。だがそれは、少々無礼であるからではない。何ともいえない寂しさであったからだ。そして、そんな自分に当たり前と感じているのに宗茂は唖然とした。

(確かに楽しかった。だが、まだ話し足りないのは互いにそうだろうな。)

また今度も話がしたいなっと思った宗茂だったが、明日になれば話せるかっと考え直した。

 そして宗茂は明日の為に寝ようと部屋の出入り口の襖を開けた。

宴の後の朝。遂に行長等の救出の軍議を開く。その軍議は意外な展開に向かう。

次回、転換!関ヶ原! 第一章六節 李氏朝鮮脱出

『6 小西行長等救出の軍議』 「その総大将は・・・。」

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