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エピソード0

 夢女子―――それは自分とは別の次元に生きる存在に惹かれてしまった、つまり絶対に叶わぬ恋をしてしまった乙女のことを表す言葉である。


「なんて定義、キラキラしすぎですかね…」

「かよの中ではそれで定義すればいいんじゃない?」


まきちゃん先輩は答えはしたが、スマホの画面を見つめたままだ。そうだ、先輩のやってるゲームのバレンタイン限定イベント、今日の0時までだったか。それなら仕方ない。


「最近、好きな人に会えないってすごい辛いことなのかもしれないと思うんですよね。3次元に好きな人がいたとして、少しの間でも会えなかったら辛くなる人もいるから、そう考えると夢女子って半永久的に会えないじゃないですか。」

「そう、だね。あ、やったスターゲットした、んで、それで?」

「だから、会えるべきだと思うんですよ。」

「んと、何に?」

「だーかーらー、好きな人とか推しにです!」


一瞬だけ顔を上げたが、またすぐ画面に目線が移る。それからもう一度私を見る。見たことがないくらい曇った表情だった。


「声オタの私から言わせれば、こっちの世界に来たらかよは楽になるんじゃない?」

「いやいや、2次元じゃなきゃだめなんですって。そもそもアニメや漫画のキャラクターが魅力的すぎるのが悪いですよ。あんなしっかり者で面倒見良いのに茶目っ気あって色気もある高校生とか、好きになるのは当然だし!にしても科学がこんなに進歩してるはずなのに、なんで次元は超えれないの。3次元に居ながら、2次元の推しと会う方法は…。」


そうだ、推しと会えなきゃ意味が無いのだ。推しと実際に会えるからといって、声優さんを好きになったり舞台俳優を好きになるのは、なんか違う気がする。


「そもそも3次元にいない存在なんだからさ、自分でいい感じに妄想するくらいがちょうどいいんじゃないの?1人の人間として存在しちゃったら人格が生まれて、思い通りにいかないわけだし。自分は夢女子ですって宣言してるんだからさ、好きなように夢見てるくらいでいいんだよきっと。」


そう言うと残っていたアイスティーを一気に飲み干し、「そろそろ出よ、このお店Wi-Fi無いしさ」と私にしか聞こえないボリュームで言った。


 帰りの電車で、この前まきちゃん先輩に教えられたゲームを開いてみた。先輩は出演してる声優陣が豪華で、フルボイスだからオススメだと言っていたが、私はこういったゲームは他のアニメのキャラクターを思い出してしまい、ゲームの世界に入り込めない。“声優さんの声を耳にすると頭で勝手にキャラクターの顔が浮かんでくる”この現象、どうにかならないか…。


 私は漫画を読むとき、アニメ化されている作品ならいつものようにアニメを脳内で再現しながら読み、アニメ化されていないものを読むときは勝手にキャラボイスを想像する。とはいっても、自分の中で黒髪スポーツマン系キャラはこの声、可愛いけれどあざといマドンナ系キャラはこの声、色気溢れるお兄さん系キャラはこの声、と決まっている。特に少女漫画を読むときなんかは、脳内でアニメ化するのは日常茶飯事だ。

 寝る前はいつもクラシックを聴くのが習慣だが、今日は先輩に本屋に付き合ってもらって買ってきた最新刊の漫画を読んだ。昨日でテストは終わったし、読むのは明日にしてもよかったのだが、待ちきれなかった。なにしろ、今1番好きな漫画の新刊だ。しかし徹夜続きのテスト疲れか、3周目あたりで寝落ちしてしまった。


 次の日の朝。いつも朝は、特に寝起きなんかは眠くて仕方がなくて時間が止まればいいのにと心から思うが、いつも通りではいられなかった。なにしろ、寝ている間に私は夢を見たのだ。夢には確かに推しが出てきた。しかし、推しとどこで何をしていたか、これっぽちも思い出せない。自分の記憶力の無さに失望しつつ、あることに気付いた。夢に出てきた推しは、昨日寝る前に読んだ漫画に出てくる人物だった。


 ―――― 推しには会える。


自分の妄想力で、好きなシチュエーションで好きなように推しと会える。夢を見ているときは、それが現実と認識してしまうはず。

私はもしかしたら、寝る前に強く意識したことが夢に反映される、単純な人間だとしたら。これから毎日推しのことを考えて眠れば、1日のうち3分の1は推しと会えている状態じゃないか!す、素晴らしすぎる…!


夢女子の私は、2次元の推しと会う方法を見つけました。それは、眠っているときに夢を見る“夢女子”になることです。

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