鏡と吾が身は
僕はずいぶん捻くれた性根を持つてゐるから、ほんとうは随分といやな野郎なのかも知れぬ。しかしわずかなる僕の友は其れを何ともしないと云ふのは、類い稀なる善き友を得たりと云つたことだらうか。しかしこんな僕であるから、それがなかなか眩しく、僕の心身の虚することが在る。そんな時分にふと手帳に書きつけた詩さへ実に捻くれてゐた。
鏡と吾が身は
硝子窓をとほつた透明な陽を
水銀のやうな鏡が煌かせてゐる
朔風さへ あたたかく見え
吾はひととき 黄埃を忘る
揺られ さんざめく木々の葉も
やはらかな 赤鴉も
水銀のやうな鏡が反射する
きらきら と
吾が眼には 些かまぶしすぎたやうで
少し眼を逸らせた
いや ほんとうは
あの清らなる鏡に映らぬ吾を恐れ
気の附かぬふりをしたに過ぎぬ
こんなにも 黄埃の纏はる吾は
宇宙の黒穴の如く
透明なる陽を吸い込み
鏡に煌かせぬ