3話 名乗り
3話 名乗り
「うぉおお。あんたすげーな」
「なんてやつだ」
「婿に欲しいな」
「どーやったんだ」
村人達もところに戻ると、口々にさっき見たことの感想を漏らしている。おいおっさん、どさくさに紛れて何言ってんだ。
「これは君がやったのか。」
「そうですね、どうやら二手に分けれていたようです。そちらは大丈夫でしたか?」
「そうか、ありがとうこちらは大丈夫だったよ。村長として、一人の親として重ねてお礼を言わせてくれ。本当にありがとう 」
「いえ、僕はできることをしたまでですよ。それに貴方達の信頼関係があってこそでした。」
村長がかしこまって言うもんだから僕は少し恐縮してしまう。だけど次に村長が僕が最後に言った言葉の意味を聞く疑問はミカの登場によってかき消されてしまった。
「ぱぱ、無事でよかった」
「ああ、ミカ。お前も無事でよかった」
盗賊が居なくなったからみんな外に出たみたいだ。よかった、みんな無事に済んだんだな。
「大したことはできないが、お礼をさせてくれ。」
「え。うーん。それでしたら、この辺りに大きな街とか都市ってありますか。情報収集とかできそうな。」
神様からの依頼もあるし、この世界の情報が欲しい僕は、ひとまず人が集まりそうな場所がないかを聞いてみる。
「この辺で一番大きな街って言うと、レクリアだな。」
「れクリア?」
「ああ。商業都市でな、そろそろこの街からも品を卸にいくが、一緒に行くか?」
「そうなんですか?是非お願いします。でもいいんですか?僕なんかが付いて行ってしまっても」
「なあに構わんさ。行くにも危険があるが君がいれば大丈夫だろうしな」
ガハハと笑うシゲさん。なるほど僕は用心棒というわけかちゃっかりしてるな。
「それにレクリアはこの国の商業の中心ね。商業だけで言えばルクスリア王国よりも大きな街よ。情報もたくさんあると思うわ。」
なるほど。と相槌を打ってこれから情報収集をする為の街に思いを馳せる。
宿を借りて情報収集なら酒場がゲームだと定番だよなぁ。それまでの間に今いる世界の事を聞かなきゃなと思って、重要なことに思い当たる。
「しまったお金がない。」
「は?あんた今までどうやってここまで来たのよ。」
これは正直困る。どこまで話していいものか。普通に考えて別の世界から来たとか頭のおかしいやつお思われても仕方ないよね。
「君はもしかして召喚者か?」
なのそれ詳しく!
「私も人から聞いた程度だから詳しくは知らんが、なんでも普通の人よりも一芸が秀でているらしい。さっきの君の動きはとてもすごかった」
「確かに、ありゃ人間の動きじゃなかったな」
「馬にも追いついてたしな」
「婿に欲しいな」
「そうかだからか」
僕がシゲさんの話に納得していると周りも同じように納得し始めた。そしておっさんさっきと同じこと言ってるぞ。とりあえず話を合わせることにするが、そうか僕以外もいるんだな。少し楽しみになってきた。
「実はそうなんです、そして前いたところの記憶もなくて。」
「何だよ、それはずいぶん大変なんじゃないのか。名前は覚えてるのか?」
「家は名前も覚えていないんです。」
「なんだい名前も覚えてないのかい。それも大変だな」
ちょっと重くなってしまった雰囲気を変える為に気になってることの続きを聞いてみる。
「それでですね、この世界でお金を稼ぐの一般的な方法って何ですか?」
「そりゃあ、冒険者だろうな。お前さんの戦闘スキルならそこまで大変でもないだろう。基本的には魔物や魔獣なんかの討伐やキズ薬の薬草の採集や今回の盗賊団なんかも討伐依頼もあるだろうな。ついでだ盗賊の報酬はあんたが貰ってくれ。」
「いいんですか?」
「なーに構わんさ。あんたのおかげでこの町は救われたんだからな」
「ありがとうございます」
「今日はうちに止まるなさい。レクリアに行くのは3日後だ。それれまでゆっくりしてくれ。」
シゲさんが僕の事を気にかけて家に泊めてくれるというが、さっきからシゲさんの後ろに隠れていたミカの顔が赤くなって行く。風邪でも引いてしまったのだろうか。
とりあえず夕食をご馳走になってその日は、すぐに寝てしまった。
「ちょ、ななな、なにすんのよこのバカッ」
ドゴンと朝からすごい音が響き渡る。
次の日になってミカが起こしにきてくれたんだけど、やっぱり顔が赤いのでおでこをとおでこで熱を計ってあげただけなのに、ヘッドバットを食らうとは思ってもいなかった。
「ご飯、早く来なさいよ」
それだけいうとミカの姿は見えなくなった。
元気そうでよかったなんてこと思いながら、着替えて部屋の隣に行くとすでに起きていたシゲさんとミカがテーブルに座ってパンを食べていた。
こちらの朝食はパンに野菜のスープと野菜のサラダが多いみたいだ。
ひとまず今日の行動はどうしようかと考えているとシゲさんから自由にしてていいとのこと
なので、ひとまず村を見て回ることにして、この世界のことがなにもわからないからまずは情報収集からだなーっと思っていた時期が僕もありました。
「何これ」
朝食を取り終えて村の散策に出かけた僕は途中で拉致されて、今は羊を追いかけ回している。
「おーう。兄ちゃんすまねえな。手伝って貰っちまって。あとで美味しいもんご馳走するからよ!」
「それはいいですけど、捕まえてのはどこに運べばいいんですか。」
「それは惚れあっちの柵に頼むわ。あの柵も直さんとな、またでて来ちまう。」
どうやら、この前の盗賊のせいで柵が一部壊されてそれで出てきてしまったようだ。
「まぁ、労働のあとのご飯は美味しいっていうし頑張りますか。」
そんなこんなで、お昼を過ぎるごろには羊を捕まえて、僕はそのままトミーさんの家でお昼をご馳走になることになった。ついでにこの世界のことについても情報取集するのも忘れない。とは言え、田舎の村らしいのでざっくりとした、事しかわからなかった。
この世界では7つの大国が国を治めていること。あんまり仲は良くないこと。この国の首都はインウィディアで王様が何かを探している事。冒険者はギルドに所属できる事と命を落とすことがあること。中でも一番の発見はこの世界には魔法。正確には魔学と呼ばれる学問らしいがそんなことは関係ない。魔法使える事があるなんて生きててよかった。あ、いや一回死んでるんだけど。
その後も剣を振ったり、村の周りの散策で魔物が出たのを少し狩ったりと2日間はすぐに過ぎて出発の日になった。
レクリアに向かうのは村長のシゲさんだと思ったら羊飼いのトミーさんだった。トミーさんは羊以外にも牛なども扱っており、今回はチーズなどの発酵食品と革を卸に行くらしい。
「それでは、お世話になりました。ありがとうございます」
「ああ、こちらこそ助かったよ。この近くに来る事があったらまた立ち寄ってくれ。それと名前は決まったのかい?」
早朝僕たちは出発の準備が整った所で最後にシゲさんに挨拶をする。名前がないのは不便だから名乗りたい名前を考えるといいと、この2日間の間に言われていたんだ。
まあ、貴族でもない限り苗字はいらないしね!
「そうですね。ナナシにしようかと思います。」
「ナナシか。随分安直な名前だな」
ガハハとしげさんが笑う。
つられて僕も笑ってしまうが自分で自分に名付けって意外とむずかしいだよ。それにここの人たち以外には普通に聞こえるでしょ。
「では行って来ます。」
「ああ、いつでも会いに来てくれ。」
こうして僕は初めての村を後にした。
お読みくださりありがとうございます。まだまだ続きます。