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ブラックからスカイブルーへ  作者: 合田 社長
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人生の敗北者ブラックマンは果たしてホームレスになるのか?再チャレンジするのか?

世の中はおかしい

この国は一体どうなってしまったのだろう。

毎日百人もの自殺者を産み出す国。

先進国にはありえない。銃を持たないはずの安全神話の国だった、はずなのに、起こる数々の無差別殺傷事件。そして親殺し子殺しは家庭崩壊の前兆か。与田真樹はニュースを見るのが日々苦痛に感じ始めた。そうでなくても自分の生活はたった半月の間にまさに天国から地獄に転がり込んでしまっていたのだ。二十年間経営して年商二十億に成長した会社が詐欺に合い破産して、真樹は最高責任者の指名として、様々な残務整理に追われていた。

住む家を失い、妻子とは離縁し、老いた母親はアメリカの妹の家に身を寄せさせ、自分に一番忠実な愛犬は遠い親戚に預け、真樹は一人母が僅かばかりの年金を貯えた金三十万円を元に下町の入谷のアパートを借りられ寝鞍としていたのだった。理由が何であれ会社を倒産させたのだから真樹に対する債権者の目は怒りで殺気だっていた。ついこの間迄社長と慕われていた社員からも

「おい、あんた!」とまるで厄介払いの如く蔑まされていた。そんな状況であるから管財人の命令と己の責任・義務として残務整理に会社には毎日のように行かなくてはならず、実は交通費も自己負担で、更に時間の制約で一切の収入の辷も断たれ、真樹は程なくホームレスになろうとしていたのだった。今まで何度も人助けでお金を貸す事はあっても人から借金した事も無く又それも自分自身の誇りであり、真樹は途方に暮れていた。到頭最後の万札一枚が真樹の全財産となった。妻子には妻名義の預金から一年は生活出来る貯えがあり、生活費として約束した二十万円は半年猶予して貰っていた。真樹は果たしてこの壱万円で何を為すべきか真剣に自問自答していた。四畳半一間の部屋にはパソコンとテレビがあるだけで趣味で集めたクラシック音楽の千枚以上のCDは二束三文で換金しており、金目の物は何も無かった。

家賃が5万円、電気・ガス・水道・携帯電話で2万円、そして交通費に2万円に食費1万円と、生き続ける為には、なけなしの万札を少なくとも十倍に増やさなくてはならない。そこで真樹はありとあらゆる策を考えた。夜も眠らず考えた。そして辿り着いた結論は、何かに一万円を賭けてみようと言う事だった。

そう、何でもあれの、わらにも縋る思いであった。

とにかく平日は義務と責任で何も出来る訳にいかない。

土日を利用するしかない。 土曜日の朝真樹はスポーツ新聞をコンビニに買いに走り、そのまま浅草の場外馬券売場に向かった。真樹は五十代にまさに突入しようとしていたが、高校時代からの親友で会計士として成功した競馬好きの友がいてその影響でダービー等のメジャーなレースを予想して馬券を購入した事もあるにはあった。しかしそれは単なる遊びで大穴買いで当たった例は無かった。しかし、後の無い今回は何が何でも外れる訳には行かない。最悪、当たらなければホームレスへの道だ。その翌日は天皇賞のレースがある日であった。新聞の一面はレースの予想記事で賑わっていた。真樹は競馬にロマンを求め、最後方から一気に疾風のように追い込んでくる馬が魅力的に映った。が、いざ実際に勝負馬券を購入する際、真樹は友人の言葉を思い出した。

「いいか、与田。馬って言うのはな。本質的に臆病な生き物なんだよ。ちょっとした物音や視界を遮る物に敏感に反応するんだ。だから、いいか、与田。最初から先頭で走る逃げ馬が一切の邪魔やアクシデントの可能性が低い為、確率的にそのまま勝つ可能性が高いんだ。大穴狙うなら、ずばり、逃げ馬だ。」事実、そうして友人は度々万馬券を捕り真樹を居酒屋に案内したものだった。だがその友人はもういない。喉頭癌であっけなく死んでしまった。

いい奴程早死にする。

友人は掛け替えの無い真樹の盟友だった。そして今こそ真樹に必要な存在なのに。涙が溢れ出た。あいつの為にも何とか生き抜かなくては。

真樹は友人を呼び出し、その指示の儘に、新聞を眺めどの馬が逃げるか予想家の記事を求めた。

その結果、ほとんど無印の中で一人が大胆にも本命を打った馬がいた。

名前はイングランドオー、英国の王様。

父も母も長距離血統。

オッズは単勝130倍。

もし一万買えば百三十万だ。昔ロンドンへ旅行して以来、英国の圧倒的な伝統と誇りに感嘆したものだった。だから並々為らぬ憧れがある。真樹はこの馬に人生を賭ける事にした。しかしいざ窓口に並ぶと急に弱きになった。何だよ、女々しいな、と思いながらも、結局、単勝を5千円購入し、残りの5千円は財布にしまった。 浅草の場外には浮浪者のような群れが昼間から酒臭い異臭を放ち、時には罵声の遠吠えを喉奥から絞り上げるように発し、辺りをゾンビの様に徘徊していた。

嫌だ嫌だと、その群れを避けながら真樹はひたすら歩き、そう言えば何も食べてないじゃないか、ちょっと早いが夕食をとる事にしよう。なけなしの5千円札を減らす訳にも行かず、定例の牛丼屋の扉を開けた。一日二食の真樹にはこれも定番のメニュー汁沢の並牛丼に更にライスを注文した。紅生姜は取りたい放題。暖かいお茶は飲み放題。締めて390円。今の真樹には生きる術である。 アパートに戻ると、母から電話があった。

「貴方の事が心配で心配で。仕事は見つかったの」。真樹は嘘を付いた。何とか就職していい給料貰っているよ。僕の事は心配しないで。真実はホームレス寸前とは口を酸っぱくしても絶対言えない。 日曜日の朝真樹は朝早くから近くの公園を散歩した。シェルティと言う散歩が三度の飯よりも大好きな名犬ラッシーのような精悍な三匹飼っていた真樹には重要な日課と化していた。何故ならば、三匹の犬のおかげで重病の肝炎も高血圧も治っていた。あれほどヘビースモーカーだった真樹はあっさりと禁煙出来た。実は本音は運動量豊富な愛犬を従えて行く体力を取り戻しかったからだ。さあ、いよいよ運命の時間が間近に迫って来た。真樹は自分の運を奪い返す為に大事な父の形見である牛革の鞄を小脇に抱え又も浅草に向かった。場外は予想の為に新聞紙を携えた人人で大混雑であった。

皆が皆会場のモニター画面に釘づけになっていた。フィナーレが鳴りゲートが開き一斉に美しいサラブレッドが駈け始めた。注目のイングランドオーは一気に加速すると後続をあっと言う間に大きく放した。まるで一頭だけ別のレースをしているようだった。淡々と流れて行く。しかも、その差は一向に縮まる気配は無い。全く予想外の展開に観衆からは溜め息が漏れる。

「まさか横川がこのまま押し切る事は無いわな。」二週目もコーナーを回り後は直線だけとなった。後日分かった事だが横川は西の天才武富に対して東の天才と呼ばれその何をするか分からない一瞬の閃きには神掛かりにも似た奇跡を暫しもたらしていた。直線になり漸く後続の内何頭かが果敢に追い始めたがその差の貯金が物をいった。イングランドオーは何と先頭でゴールを通過した。騎手は勝利のおたけびを揚げ激しく片手を振った。場内も場外も観衆は呆気に取られたていた。が、やがて勝者には静かな声援が送られていた。一番人気の米大統領から拝名した武富の馬は何と魔力に凍り付いたようにブービーで終わった。真樹は激しく感動していた。

何か心に記する閃きがあったものの本当に勝ってしまったのだ。まだ自分には運が残っている。そう思うと生きる希望が湧いて来た。レースは確定し急ぎ払い戻しに並んだ。前日オッズでは130倍で65万円の払い戻しを期待していた。が、80倍迄下がりはしたものの40万円を真樹は実際に受け取る事が出来たのだった。

どうやら昨日の新聞の一面の記事の所為でやや穴人気に祭り上げられたようであった。真樹はしっかりと鞄に一万札四十枚を確認し仕舞った。が、そのうち突然思い立ったように一枚を抜き、自分への褒美として何か美味い物を今夜は味わろうと決めた。そんな訳で真樹は浅草の寿司屋の暖簾を潜った。未だ五時前だと言うのに真樹が座るとカウンター席は一杯となった。

そこは築地の出店でねたの割に良心的な勘定で評判の店だった。

寿司を食べるのは半年振りであった。まずはビールを頼み、摘みは赤貝の紐と中とろをお願いした。久しぶりに喉を潤し、真樹は楽しく、瞑想した。そう言えば、真樹は人生の敗北が決定してから自分自身に三つの約束をした。一つ、過去は振り返らない事。二つ、敗者復活する事。三つ、世の中の為に何か貢献する事。

その為には綺麗事は抜きにして、やはりお金は必要だった。

まずは三十万円の資金を元手に何かを始めよう。今回の競馬は奇跡の賜物であって確率的にはそうそう当たらない。株は全くの素人だし、最近はディトレード等で主婦などの儲け話も良く耳にはするが。他に何かあるか。いろいろ考えていると、余り贅沢はしてられないと悟り早々と寿司屋を切り上げた。お勘定2800円。その帰り道古本屋を見つけ、二冊の本を購入した。

三十万円から出来るディトレード入門。

誰でも儲かる外国為替取引入門。

翌日から真樹は株かFX(外国為替証拠金取引の略称)の勉強を始めた。どちらも証券会社に口座を開設すれば取り敢えず始められる。だが問題は破産した自分が口座を開設出来るかどうかだ。多分無理であろう。弁護士からは向う十年はクレジットカードも作れなければ銀行からの借入も出来ないと言われている。

果たして証券会社はどうであろう。やはり、なにはともあれ実践だ。試しに真樹は日託証券の窓口に行き口座開設をその若い女性担当者に依頼してみた。開設書類を記入しアンケートの欄を適当に、例えば株式投資の経験を初心者とは書かず経験十年とか、職業の欄に無職とは書かず会社経営と書いたり。実際はちょっと前迄そうだったんだ。女性は書類に一通り目を通すとそのままどこかに消え真樹は長い間待たせられた。三十分も経っただろうか奥から眼鏡を掛けた管理職の男が現れ

「与田さんは○○○○の社長さんだっではないですか」と大きな威圧した声で確認され

「申し訳ないが口座開設は勘弁してください。」男のその目は狡猾に

「ブラックはブラックらしく日陰でおとなしくしていろ」と語っていた。やはり無理なのだろうか。落胆した真樹は犯罪者のように脱兎の如くその場を逃げ出した。

にわか投資家は無理だろうか?。

その晩真樹は考えた。

今現在は相談する人は皆無であり、何か道は無いかひたすら探った。

やはり自分自身で何事も決めなくてぱ。パソコンでネットサーフィンした真樹はインターネット専門の証券会社を徹底的に調べてみることにした。その結果従来の対面営業とは全く乖離したビジネスモデルには何か抜け道を直感した。もう失う物は何も無い。

世間体とか生き恥もどうでもよい。

やるだけやってみるか。

真樹は駄目元前提で幾つかのネット証券会社に口座の申請をしてみる事にした。結果何と申し込んだ全ての七つの口座が開設出来てしまった。それは真樹にとっては賭けであったが、果てしなく大きな追い風となった。熟慮した結果コアラ証券と言うFXの口座に三十万円入金する事に決めた。何故ならば理由は三つあった。ず証拠金が二万円で一万ドルの取引が可能な点である。これはレバレッジと言い五十倍の取引が出来る。又スワップと言って馬鹿みたいに低い日本の金利と正常な高金利な他国との差によりかなりの利息を受け取る事が出来る点。更にもし取引が損しても証拠金二万円の範囲内で決済され後から損失補填しなくてもいい点であった。

しかし、世の中はおかしいことばかりでもない

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