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ゲームの世界からやって来た夕虹ちゃん「いつまでも、こうやっていたいね」

アケミは夕虹と一緒に入浴しながら、理想キャラとも言える彼女が姉なら良いなと思う反面、今まで自分が彼女にしてきた行為に対して後悔もするのだった。



「アケミ……お願い。私ね、少し不安なの」


--------------------

「防人少女MDGF」

 第五話<夕虹と現実>

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 初対面の人の前で服を脱ぐなんて今までの私には考えられないことだった。でも夕虹ちゃんの前では自然に服を脱げた。

彼女は傷が痛むのか時々、顔をしかめている。思わずこちらにも痛みが伝わってきそうで痛々しい。


「大丈夫?」

私は思わず彼女に声をかけて、お風呂に入るの手伝ってあげた。


「有り難う」

彼女は笑ってくれたが何となく無理に笑顔を作っているような感じ。


考えてみたらゲーム画面ではGFたちが怪我をして痛みを堪えるという場面はない。そんなシーンがあったら興ざめだ。違うゲームになってしまう。


ただ目の前の夕虹ちゃんは美人なだけでなくスタイルも抜群だ。萌えゲームのキャラだから当然か。こういうのを兄や父親が好きなのも分かる。彼女はオタクの理想像だから。


私は改めて声をかける。

「大丈夫? 身体痛む?」


「ううん……いつものことだからっ」

そうやって微笑む彼女。そうだ、冷静に考えたら彼女は単なるゲームデータだ。


「……」

そうは言っても目の前に夕虹ちゃんが居るのは紛れもない実物だ。

どう見ても『人間』にしか見えないし存在感がある。


「どうしたのっ?」

私がちょっと考え込んでいるのを見て夕虹ちゃんが逆に聞き返してくる。


「えっと……怪我をすれば当たり前に痛いよね」

私はつい、考えていたことを口にした。


「うん、当然だよ?」

私の変な質問にもニコニコして応える彼女。


 そうか、これが『リアル』ってことか。私は納得し同時に鳥肌が立った。

私は結局、彼女たちを何も考えずに撃沈させていたのだ。そう思うと胸が痛んだ。


そんな悶々した想いを払うように私は夕虹ちゃんに声をかけた。

「背中流してあげようか」

「ありがとう」


私は、お風呂場で夕虹ちゃんのアザだらけで痛々しい背中から痛みそうな部分を慎重に避けながら洗ってあげた。

「アケミちゃん、背中流すの上手だね」

「そう?」


姉が居ない私には誰かの背中を流した経験は、ほとんど無い。そんなに上手いのかな?


私は聞いた。

「夕虹ちゃんは、やっぱり他のGFと背中流したりするの?」

「うん、するよっ!」

「へえ」


 何だかそれもリアルだなあ。ゲームの世界でもGFが何人も居て、お風呂にも入るんだ……。

ホントに彼女たちは単なるゲームデータなのだろうか?


 私は立ち上がって彼女の背中にソッとお湯を流してあげた。

「よし、完了! もう湯船に入って良いよ……だけど傷口とか大丈夫かな?」


「多分、大丈夫っ! よくあるから」

その台詞は私への当て付けではない事は分かっていたが、ついつい深刻になってしまう。


夕虹ちゃんは湯船に軽く手を入れて湯加減を見たあと「お先に」と言いながらお風呂に入った。


浴槽に浸かった夕虹ちゃんは声を出した。


「はぁ……」

とても安堵した雰囲気だ。


「なんか本当に疲れている感じだね」

私が言うと彼女は苦笑した。


「うん。毎日、毎日、闘ってばかりで……」

そこまで言った彼女はハッとしたように慌てて言い直す。


「んー、でもねっ、アケミのことは全然、恨んでないからっ!」

ニッコリした夕虹ちゃんは湯船の縁に手をかけるとアゴを乗せながら私の顔を見た。

その仕草は、まるで子犬のようで、とても可愛らしい。萌えキャラか……やはり実物は平面よりも数十倍、可愛いしリアルだ。


私は応えた。

「有り難う……」


こんなヘボなテートクの私に恨み言の一つも言わない彼女。正直、私は夕虹ちゃんに何度も、お礼を言いたい気持ちだ。


「でも普通の、お風呂も……いい感じだよっ!」

夕虹ちゃんは安心した表情になっている。私もホッとした。


 今、この世界にいる限り少なくとも彼女は戦う必要はない。安全だ。だから私が守ってあげなくちゃ。


夕虹ちゃんはゲーム内でネアカな元気印のキャラクターだ。でも目の前に居る彼女は確かに元気はあるけど、ごく普通の女子高生っていう雰囲気だ。


そんな子をゲームの世界では私は手足のように使っていたのだ。よく分からないけど、恐らく私を含めて人を疑わないのだろう。そんな姿を見ていると涙が出そうになってくる。


 なるほど……目の前に実物が居ると私にも少しずつ『オタク』の気持ちが分かるようだ。

今までの私には兄や父とは、ちょっと違和感があったけど……これを機に少しは分かり合えるだろうか?


「ねえ、二人いっぺんに入ろっ!」

急に言う彼女。


私は抵抗した。

「そう……? ちょっと普通の風呂だから狭いよ」

「大丈夫、一緒に入ろっ」


躊躇する私を見て彼女は言う。

「私ねっ、鎮守府でよく皆で入って居たんだよ。ギュウギュウでさ……」


「え?」

GFって兵隊だから、もっと規律正しいかと思っていた私には意外だった。


彼女は続ける。

「そうするとね……とっても仲間がさぁ、いとおしくなってくるんだよ」


「……」

そこまで言った夕虹ちゃんは急に真剣な表情になった。


「アケミ……お願い。私ね、少し不安なの」

「……」

そうか、そうだよね……私は夕虹ちゃんを見詰めた。


彼女は、また微笑んだ。

「だからさ、そんなときはね、GF同士で肌を密着させてさ、一緒にいると安心するんだ」


「はぁ」

何となぁく、分かってきた感じ。


「だから湯船でも一緒になったりするんだ。分かる?」

「うん、何となく……」

普通の世界なら非常識かも知れない。


でも私はゲームの世界ではテートクなんだ。そして夕虹ちゃんは私が沈め……そんな想いが再び襲ってきた。


 私は慌てて、その過ちを誤魔化すように夕虹ちゃんと同じ湯船に飛び込んだ。ザーッと音を立てながら、お湯が溢れ出す。

「ウフフ」

「アハハ」


確かにギュウギュウ詰めだ……でも、可笑しかった。何だか自然に笑みがこぼれた。


「いつまでも、こうやっていたいね」

夕虹ちゃんがボソッと言う。


「うん」

私も頷いた。


「……」

暫く二人とも黙っていた。


やがて夕虹ちゃんがボソッと口を開いた。

「指揮官も大変だと思う」


急にシリアスな話だ。


「私は良く分からないけど、アケミはきっと指揮も慣れていないんだよね」

首まで湯船に浸かった彼女は静かに言った。


弁解しかけた私に夕虹ちゃんは手を上げて制しながら続けた。

「ううん……責めてるとか、怒っているんじゃない。分かるんだ……これって、そういう仕掛けって言うか、世界がそうなっているんだよね」


「……」

私には何も言えなかった。


彼女は浴室の窓を見上げた。すりガラスだから何も見えない。

「私たちには、どうしようもない決まりだから」


単なるプログラムかと思っていた夕虹ちゃんは、意外にいろいろなことを考えているんだ。


私は、ふっと古代ローマ帝国のコロッセアム……権力者が奴隷同士を闘わせて楽しむ見世物を連想した。

しかも「MDGF」は基本プレイ料金は無料だから、よけいに胸が痛む。



 お風呂から上がると脱衣所に少し大きめの寝巻きが置いてあった。


母が廊下から顔を出す

「えっとね、夕虹ちゃんの制服? 洗っといてあげるから」

「有り難う」


母は続けて言った。

「ごめんね、お母さんの服……ちょっと地味だけど」


夕虹ちゃんも「有り難う御座います」と言って頭を下げる。彼女は礼儀正しいなと時々感じる。


やっぱり軍人だから? でも私にとっては『お姉さん』のように思える。


さっき母親が言った通り私の姉が生きていたら、やっぱり夕虹ちゃんのような感じになるのだろうか? そう思うと何か胸が苦しいような不思議な感覚になった。


 私たちが風呂から上がってリビングに戻る。珍しく家族全員が、まだそこに居て私たちを待っていた。

「お茶が入っているよ」

「有り難う」


すると急に夕虹ちゃんが笑顔になった。

「わぁお茶だ。落ち着くっ!」


「あ……」

そうか。夕虹ちゃんは『国立海軍』という設定だから和風のものには馴染みがあるんだ。私はゲーム設定を、おぼろげながら思い出した。


 お風呂上りでさっぱりした夕虹ちゃん。体中にアザがあることを除けば普通の少女だ。

そして何度も言うが、美人で可愛い。それは家族全員が認めているようだ。


 私たちは居間のソファに腰をかけて、お茶を手に取った。


母もどうやら、この夕虹ちゃんがゲームの世界からやって来た事を二人の男子から聞いたらしい。理解は出来ないが納得しようと務めている雰囲気だった。


 夕虹ちゃんが、これからどうなるか分からない。だが、いつまでも私と一緒に居るわけにもいかないだろう。それに、この先ずっと隠し通せるとも限らない。


物語に良くあるパターンで、いずれ必ず夕虹ちゃんは元の世界に戻らないといけないだろう。


何かそう思うと出会ったばかりなのに急に寂しい気持ちになった。何となく2人の男子たちも私と似たような感覚になっているようだ。


父親がボソッと言う

「でもこれからどうするかな」


「そうだね」

兄も同意するように言う。


母親もひと言。

「警察に言うのかな」


私は慌てて首を振った。

「そんなことしたら大変だよ!」


「なんで?」

「だって……」


すると私が部室で心配したのと同じようなことを父親が言う。

「たって、この子は人間兵器っていうか……」


兄も言う。

「そうそう戦う兵隊なんだよ」


そこまで話が行くと母親は分からないらしい。彼女は夕虹ちゃんに聞く。

「でも金髪だよね。あなた日本人なの?」


「多分、日本人!」

夕虹ちゃんは自分で答えた。


「そうだよな日本の艦船だし」

その艦船という単語になると母は理解不能らしい。呆けた顔になる。


……でもどうなるんだろう? 

「やっぱり向こうの世界から、そのうちに『お迎え』とか来るのかな」


この言葉には兄がすぐに反応した

「お前もさ、メールチェックとか、しといた方が良いぞ」

「え? わざわざメールで来るの」


……て言うか

「うちのメールアドレスなんか知らないでしょ」

「でも物語のセオリーとしてだいたいさ向こうは、こっち側の、いろんな事知ってたりするんだよね」


「そんなもんかな?」

「ある日突然、ウチの電話が鳴ってさ、向こうの世界から」

兄はニタニタする。


「やだ、やめてよ怖いよ」

「無言電話で『フフフ』とか?」

「嫌だなあ」

そんなことを言いながらも夕虹ちゃんはニコニコしている。


「えっと、アケミの、お兄様?」

「え……、あっ、ハイ」

急に振られて兄はドギマギしている。


「済みません、改めてご挨拶を……夕虹です!」

意外にも彼女は、いつもの独特の喋り方ではなくキッチリとした話し方だった。


「こここ、こっちこそ」


私はドギマギする兄に呆れた。

「ワケわかんないし」


だが同性の私が見ても、やっぱり夕虹ちゃんは可愛い。


 萌えキャラかどうかは知らないけど生きているGFは貴重だ。しかも目の前にいる。不思議な感覚だ。


「どうなるか分からないけど。しばらくは家で面倒を見るしかないよね」

父親が言うと母親も頷いた


「そうね。家族が、もう一人増えるくらいは何とかなるかな」

「良いぞ」

ニヤけた顔で変な反応する兄。さっきと態度が違う。


「ダメダメ、お兄ちゃんは変な気を起こさないでよぉ、GFは強いんだから」

私は釘を刺した。


母は言う。

「夕虹ちゃんって何歳なの?」


振られた彼女はちょっと戸惑う。

「ワカラナイです」


「そうか、向こうの世界では年齢なんて無いのか」

兄が知った風にいう。


「……だろうな」

父親も同意する。何だこの二人は。


「それじゃ、学校に行く必要も無いのね」

ちょっと、お母さんまで……。


夕虹ちゃんは言う。

「暫くここに居るなら、いろいろ、お手伝いできると思います。掃除とか洗濯とか……料理は苦手だけど」


恥ずかしそうにうつむく夕虹ちゃん。可愛い……その反応に家族は微笑んだ。


「良いな、こういう感じ」

私は何気なく呟いた。


 夜は私の部屋に布団をもう一枚敷いた。普段の私はベッドに寝ているから夕虹ちゃんは床になるのか。

「私が床で寝ようか?」


「ううん、大丈夫っ! 鎮守府ではいつも二段式ベットだったから、これでも贅沢っ!」

何か細かい反応の一つ一つが、とてもリアルな感じだ。疑っては居ないけど、やっぱり本物のGFなんだな……と思う。


そのとき彼女は何かに反応をした。

「……あ!」


「どうしたの?」

私が聞くと彼女は、なぜか小声で応えた。


「大殿さんから通信が入った……無事かって」

「え?」

そうか……もうお迎えが来るのだろうか?





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※これはオリジナル作品です。

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最新情報はTwitter

https://twitter.com/46cko/

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