少女たちは突然に出会い、戸惑う。果たして会うべくして出会った二人なのだろうか?
中学生の私はGFを撃沈させた。最初は気に留めなかったのだが、その撃沈したGFが目の前に出現したことで事態は急展開する。
「ごめんなさい……私がバカだったから」
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「防人少女MDGF」
第二話<邂逅す>
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「やばい……寝坊した!」
翌日まだ寝ている兄を尻目に私は少し慌てて朝食をとる。昨日の変な夢のお陰で目覚めが悪い。このままだと遅刻しそうだ。
「行って来ます!」
私は慌てて登校する。
ちょっと駆け足で校門を目指す。
「アケミ、お早う!」
「おはよ」
後ろから猛ダッシュで近寄ってきたのは同じ剣道部のミサトだ。彼女はいつも明るい。
そういえば彼女には私たちと同じ剣道をやっている姉が居る。それも影響しているのかな?
「ホラ! ハリアップ!アケミ」
「うん」
私は彼女に聞きたいことがあったが後回しになった。
始業のチャイムが鳴って淡々と授業が始まる。
教室では大人しい少女を演じている私。まぁ演じなくても喋る相手も限られているしムダにエネルギーを使って疲れる必要も無い。
今は取りあえず部活に専念しようと思っている。
放課後、私はミサトと一緒に剣道部へ行く。部には男子が多いがウチの学校では女子もソコソコ居る。既に卒業したミサトの姉は特に強かったらしい。
部活で下級生の私たちはランニングや素振りがメインだ。それから新人戦のレギュラー選手の練習試合を見学。先生や先輩の指導のあと夕方になって部活も一段落した。
先輩が着替えたあとの部室で一年生が数人で掃除をした。それが終わって防具の整理も一通り済んだところで私たちも、ようやく帰る時間になった。初夏なので6時を過ぎてもまだ十分に明るい。
「アケミ?」
ミサトがロッカールームで声をかけてくる。
「なあに?」
私が生返事をすると彼女はニコニコしながら言った。
「ホラ、うちの防具の件」
「あ!」
彼女の言葉で私は思い出した。実はミサトのお姉さんも剣道をやっていたのだが、その使い古しの防具を私に譲ろうか? ……という話があったのだ。今朝、それを聞きそびれていた。
「で? で?」
私の問い掛けにミサトは大きく腕で丸を作った。
「オッケーだよ!」
「わぁ、ありがとう」
当然、まともに買えば高い防具だ。しかし中古品も程度の問題がある。だからこそ先輩とか知り合いの『お下がり』なら抵抗も少ない。
「でも……防具って重たいんだよね?」
私が呟くように言うとミサトは言う。
「そうだ、練習で着けてみる? ……部室に私のがあるし」
彼女は小学生の頃から剣道をやっているのだ。当然、自前の防具を持っている。
「えぇ? 良いの?」
「平気だよ。どうせ、しばらくは使わないだろうから、ちょっとは人肌に触れさせないとね」
「へえ、そんなものなんだ」
そういえば彼女、剣道歴はソコソコあるはずなのに今回の新人戦のレギュラーからは漏れていた。でも全く気にしていないようだ。
彼女の、お姉さんは県大会でも優勝している兵だ。しかし妹である彼女はノンビリしていて性格も姉妹で正反対らしい。
私は、そんなことを考えながら聞いた。
「部室の鍵は?」
「持ってるよ。今日は私が当番だから」
「ラッキーだね」
私たちは部室の鍵を開けてミサトの防具を取り出して付け始めた。手馴れたミサトのお陰で私は直ぐに防具を付け終えた。面以外の防具を付けた状態で私は彼女に感想を言った。
「わぁ、ブカブカだ」
「そうだね、アケミは私よりちょっと小柄だから」
彼女は私より背が高いのだ。
くすくす笑っているミサトに私は聞いた。
「貰う予定の、お姉さんの防具って……もっと大きくないかな?」
「あ、大丈夫。あれは姉貴が小学生の頃に使っていた奴だから」
彼女は屈託なく笑う。
「小学生……」
その言葉に私はちょっと複雑だった。ミサトの家族は皆長身だ。ウチは……家族は平均的だけど私自身は少し背が低い。
でも直ぐに思い直した。背なんて直ぐ伸びるだろう。
私は言った。
「嬉しいなあ……お姉さんにも、お礼を言わないとね」
ミサトの顔を見ながら言うと彼女はギョットしたような表情で凍り付いていた。ただならぬ様子だ。
「何?」
私は彼女が凝視する先に気付いて振り返った。
「え?」
次の瞬間、私も凍りついた。
そこには防具……ではない。何かゴツゴツした物を背負った少女がジッと座り込んでいた。
調子が悪いのか彼女は目を閉じている。
「まさか」
「夕虹?」
そのミサトの言葉に私は慌てて彼女を見て言った。
「ってかミサトあんた「MDGF」やってんの?」
「うん」
「うんって……だってあのゲームは18禁」
と言いかけた私は慌てて口をつぐんだ。そもそも「MDGF」を知っている時点で私だって同類じゃないか?
私は頭を振った。いや、そんなことはどうでも良い。
そもそも現実問題として、なぜ目の前にGFの『夕虹』が居るのか? ということだ。
さすがのミサトも、この突発的状況が理解不能らしい。
だが彼女は急に言った。
「アケミ手を繋いで!」
「は?」
呆然とする私の手を強引に握った彼女は続ける。
「はい、深呼吸!」
私たちは大げさに深呼吸をした。すると不思議と気持ちが落ち着いてきた。
「はあ……」
ため息と共に私たちは改めて夕虹を見る。彼女は妙な機械を背負って手には長い銃らしき武器を持っている。だがその銃身はグニャグニャと曲がっていた。ただゲーム画面から抜け出てきたような衣装とカラー……そういえばゲーム画面は動くから、夕虹をはっきりと見ているわけではない。逆に印象的ですらあった。
ただ彼女自身は良く見るとススで汚れて服はボロボロ。さすがにMDGFゲームのダメージほどに素肌は顕わになっていないが……それでも彼女の素肌は黒ずんだスス汚れと、よく見れば赤い血も滲んでいる。痛々しい。
私は思わず呟く。
「ねえ怪我してない?」
「日本語、通じるのかな?」
「だってGFって日本の……」
そこまで言ったとき夕虹は痛みを堪えるような表情をしながら口を開いた。
「ここは何処っ? あなたGFっ?」
彼女は私の姿を見て言った。そうか……剣道の防具をつけた私は、まるでA級のGFのように見えるのだろう。
私は頭を振った。
「ゴメン私はGFじゃない。でも貴女は夕虹?」
彼女は少し驚いたような表情を見せながら弱々しく頷く。
「まるで戦闘直後ね」
ミサトの言葉に私はハッとした。
「ねえ、部室に救急セットあるよね!」
「あ……あ、そうだね」
直ぐにミサトは先輩のロッカーの側にある扉を開いて救急セットを持って来た。
私は防具を着けたまま夕虹に近寄る。一瞬、警戒したような表情の夕虹に私は言った。
「大丈夫、心配しないで……とりあえず血を止めなきゃ」
私はミサトの持ってきた箱を開いた。消毒液にガーゼ、絆創膏……本当に基本的なものしか入っていない。しかも開封済みの絆創膏の包みが乱雑に散らばっている。この時ほど普段の整理整頓が重要だと痛感したことはなかった。
「止血……」
私は自分のロッカーへ引き返すとハンカチとタオルを取り出した。それを見ていたミサトもまた自分のロッカーからタオルを持ってきた。
「タオル濡らして来るから、とりあえず傷口の手当を」
ミサトの言葉に頷いた私は救急箱から消毒液とガーゼを取り出した。ミサトはタオルを抱えて部室を飛び出した。
一瞬ミサトを見送って振り返った私は思わず小さく叫んだ。
「あっ」
手当てをする前に夕虹の装備だっけ? ランドセルのような変な機械とかを外さなきゃ。何となく重たそうだ。
さっきから硬直している夕虹に私は話しかけた。
「傷の手当をするから、その装備を外せる?」
やはり一瞬身構えた夕虹だったが防具をつけている私がGFに近いと感じているのだろう。直ぐに小さく頷くと自分の装備を外し始めた。
「うっ……」
時おり顔をしかめる彼女。あまりにも痛々しい。
私は夕虹に近づいて装備を外すのを手伝う。ムッとする独特の匂い……何となく車のエンジンとかタイヤのような臭いも混じる。これが戦場独特の砲弾とか火薬の匂いなのだろうか?
ずっと半信半疑だった私は夕虹に接し改めて、このGFはきっと本物なのだと思った。
「お待たせ!」
ミサトが水道で湿らせたタオルを持って来た。
「ミサト手伝って!」
「あいよ!」
私たちは一番大きな装備……夕虹が背負っていたランドセルみたいな小さいけど重たい機械とアンテナを二人がかりで持ち上げる。ただアンテナは途中から折れて熱で溶けたようになっている。
「……」
私と一緒に作業をするミサトも無言だった。しかし彼女も私同様この夕虹が本物であると確信しているようだった。
私たちは濡れタオルで夕虹の顔や腕、脚などを丁寧に拭いた。みるみる私たちのタオルは赤黒くなっていく。
「もう一回、洗ってくるから」
「うん」
この半信半疑な異常事態であってもミサトはキビキビ動く。二人分のタオルを抱えた彼女は再び部室から飛び出す。今が夕方の遅い時間で良かった。こんな子がいきなり現れたのが分かったら昼間だったら大騒ぎになっていただろう。
私は救急箱からガーゼと消毒液を取り出して夕虹の傷口に近づけた。思わず不安そうな表情になる彼女。その緑色の瞳がとても綺麗だ。
私は彼女を落ち着かせるように、ゆっくりと説明をした。
「大丈夫、これは消毒液だから……ちょっと沁みるかもしれないけど」
「えっ?」
あ、この反応とか口調……やっぱり夕虹だ。そう思いながら私はガーゼに消毒液を浸して、あまり深くない傷口にソットつける。彼女は痛そうな顔をしたがグッと堪えている。その様子は単なる萌えキャラではない何か凛としたものを感じさせた。
少しずつ傷口に消毒液をつけながら私は彼女の髪の毛をチラッと見た。戦闘で薄汚れているとはいえ彼女の茶髪ロングの天然パーマも、きちんと梳かしてあげたらきっと綺麗だろうなと思った。
「髪の毛……綺麗ね」
思わず呟く私。
夕虹は、ちょっと驚いた表情を見せた。でも直ぐに穏やかな表情に変わって応えてくれた。
「ありがと」
いわゆるアニメ声ってやつか……私はMDGFのアニメは見ていないけど多分、夕虹はこんな声なんだろう。微笑む彼女を見て私も微笑んだ。何か空気が和んだ。
「ミサト遅いな」
私が呟くと夕虹は不思議そうな顔をした。
「ミサト?」
「……ああ、さっきのトモダチ」
私は、そう応えながら改めて彼女の顔を見た。
ゲーム画面で平面で見るGFは、あまり分からなかったけど。実物のGFは、とても綺麗なんだ……そうか、これが萌えキャラか?
オタクな兄が惹かれるのも、ちょっと分かる気がしてきた。
そんな私の気持ちを察したのか夕虹は私の顔を見て言った。
「私の顔、変?」
「ううん、ごめんなさい」
少し黙って私の顔を見ていた彼女はおもむろに言った。
「私もトモダチ……かなっ?」
「え?」
彼女の意外な言葉に私は驚いた。でも直ぐに頷いて答えた。
「うん、トモダチだよ」
その言葉に夕虹も笑った。
「ねぇねぇ私もトモダチ」
いつの間にか戻ってきていたミサトも私たちの輪に加わった。
「遅かったジャン?」
私はミサトにちょっと膨れて見せた。
「ゴメンゴメン……ちょっと自販機まで走ってジュース買って来たんだ」
そっか。気が付かなかった……。
「ああ、有り難う」
ミサトから缶ジュースを受け取った私は夕虹に渡した。
「飲める?」
「うん」
夕虹はチラッと缶ジュースを見ると直ぐにフタを開けた。シュッ! という音がして甘い匂いが漂う。きっと喉が渇いていたのだろう。彼女は「頂きます」と言いながらジュースを一口飲んでホッとした顔をする。
「へえ、夕虹の世界でも缶ジュースはあるんだね」
感心したように言ったミサトは近くのイスに腰をかけると自分のジュースを開けた。
「うん、あるよっ」
初めて安堵したような表情を見せる夕虹。
彼女の口調にミサトも笑う。
「あはは……やっぱり夕虹だな」
「うん、私だよっ」
夕虹も自然に笑ってくれた。その笑顔を見て私もホッとした。
私はミサトが持ってきたタオルを彼女に見せつつ聞いた。
「まだ使う?」
「うん」
夕虹はジュースを床に置いて私からタオルを受け取るとサッと広げた。
どうするのかと見ていたら迷うことなく自分の顔をゴシゴシと拭き始めた。まさか……オヤジ? その萌えキャラに似合わない大胆な行動に私は思わずミサトの顔を見てしまった。
だが彼女はニタニタして言った。
「うーん……それっぽいなあ」
「は?」
私が困惑していると夕虹は「はぁー」と言いながら顔を上げた。
「サッパリしたっ!」
彼女はニコニコしながら言った。表情がかなり柔らかくなってきていた。その姿を見て、ああ、そうか……と私は納得した。
この夕虹は、たとえその風貌が萌えキャラだったとしても中身は本当に「GF」……いわゆる戦士なんだ。そして、どういう理由か分からないけどゲームの世界からやってきに違いない。
「ゲームの世界」
私は思わず呟いた。そして冷や汗が出てきた。
「どうしたの?」
ミサトと夕虹が私を心配そうに見る。
何となく直感で悟った。この夕虹は私がプレイしていたゲームの世界からやって来たに違いない。だから……私は昨夜のゲームプレイを思い出していた。そう、きっと彼女をこんな目に遭わせたのは他でもないテートクである私自身なのだ。
そう思うと急に悪寒のような妙な震えが来た。思わず自分の腕を擦った。
すると夕虹が立ち上がって私に近寄ってきた。そして私を軽く抱きしめて言った。
「え?」
「大丈夫っ……私のテートクは……とっても優しい人だっ……それっ、たった今、ホント分かったからっ!」
ああ、彼女にも何となく分かっていたんだ。私がテートクだったこと……。
涙が溢れてきた。
「ご免なさい……」
私も彼女を抱き返した。ああ、彼女はとても暖かい。そして夕虹の少女っぽい独特の香りを感じた。本物のGFか……でも、これからどうしようか? 私は不安になって来た。
取り敢えず彼女を守らなきゃ。
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※これはオリジナル作品です。
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