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【7人で】集まって書いてみた【合作小説】  作者: 倉間鴇 棗草 瑞水鈴 継霧音汰 雪星茜音 藤田稔 飴玉
8/8

この世界で僕たちは

こんにちは飴玉です。

その赤いレンガ造りの小さな家は、窓からその明るい光が漏れ、煙突から煙が上がっていた。


(人がいるのか…?)


冷たくじめじめしたレンガの道を通り、その家を目指した。ところどころに立っている街の銅像はそのほとんどが禿げており、中にはそもそも何の銅像だったのかわからないほど崩れたものもあった。街灯は見た限り全てガラスが割れていて使い物にならなそうだった。


ようやくその家に着くと、それは最初見たときよりも一層輝いて見えた。高さから、一階だてだろうと思われる。唯一のドアは焦げ茶色で、少し目線を上げると柊と牛の角が飾ってあるのが見えた。

恐る恐る、しかし力強くノックする。ドアはすぐに開き、眩しいほどの光が僕を照らした。


「おかえり、西条 心宙。」


予想外の人物に驚いたが、僕はいつも通りの挨拶を返す。

「…ただいま、ガーラ。いつからここの世界に?」

僕の前に立ちはだかるその人は、雨の街で住んでいたアパートの管理人だった。


通されたその部屋は想像していたよりも広かった。パチパチと火花を吹く暖炉近くには小さなテーブルと向かい合わせの黒いソファーがある。床一面にはアラビア模様の赤い絨毯。更に壁の周りには読めない文字で書かれた本や、ガラクタがところどころに積み上げられていた。

「魔法使いの部屋みたいだ…。」

ガーラは後ろでふふっと笑うと、僕に座るように、右手をソファーへ指し示した。


(ソファーの上に何かある…?ーーーーーーーッ!!!!)


それを見た瞬間、手はすぐに口を押さえていた。するとガーラは僕の耳に顔を近づけ、語りかけるように優しく言葉を紡いだ。

「そうだね、君は見ていたんだったね。壊れる前のリリィを。」

そう、壊れる。ソファーの上のリリィはまるで物のように手足が分解されて折りたたまれていた。言うなればこれは。

「彼女は人造人間だよ。」

心宙は何も言えず、ただパチパチとなる火の粉の音を聞いていた。


「彼女は、最初は東洋人に対抗するために造られた人型ロボットだった。」

ソファーに向かい合わせで座ったガーラは、リリィの手を撫でながら話した。


そもそも東洋というのは不思議な地でね、その当時西洋より遥かな科学を使えたんだ。いや、科学というには語弊があるね。実際には『魔術』を基にした科学『らしきもの』だ。君の持っている剣も『魔術』が込められているだろう?…その剣のことをよく知らないのか。まあそれはいい。


とりあえず科学だの魔術だの置いておいて、現実的に豊かな富を得ていたのは東洋だ。そう、だから昔の西洋人はめいいっぱいの科学を駆使して彼女を造った。後々、彼女中心の軍隊でも作るつもりだったんだろう。そしてありとあらゆる知識を詰め込み、対東洋の人造人間リリィが完成する…はずだった。

けれどもある日、思いもよらぬミスが起きた。彼女の知識の一部にとんでもない情報が埋め込まれていたんだ。禁断魔術『時の扉』だよ。彼女は誤情報としてプログラミングされた禁断魔術式を自ら組み立てて、『時の扉』を使い、未来の雨の街へ飛んでしまった。


「もしかして、ガーラ、あなたは」

僕は1つの仮説を思いつき、口を挟んでしまった。けれどもその仮説を肯定されれば今まで過ごした日々が嘘になるような気がして、声は震えていた。


「ガーラはリリィを追って、ずっと別の世界へと飛んでいたの…?」

ガーラは、薄笑い、頷いた。

「そうだよ、私はただの管理人じゃない。西洋から直々に雇われた魔術師さ。君のいう通り、私は君のいう『ノア』が起きる前の昔の西洋から雨の街、そして再び西洋へ戻り、その街でリリィや君の膝を撃って、故郷であるルシアットへやって来た。まあ『ノア』後のこの世界はどこもかしこも事件が起きたり街が消えたりしてるみたいだけどね。」


僕は無意識のうちに拳を握りしめていた。喉が、熱い。心臓の下から燃え盛る渦が巻き起こっている。

「そんな西洋の自分勝手な理由でどうしてリリィを…!」

「だってしょうがないだろう。」

それはあまりにも冷たい一言だった。


「わかってると思うけど、魔術には薬でいう副作用があるんだ。言い換えればデメリットみたいなものだよ。禁断魔術『時の扉』は時空を超えてどこまでも行ける代償として、大災害『ノア』を引き起こした。実際に君達が雨の街から再びこの西洋へやってくるときだって『時の扉』を使ったんだろう?そのうちわかるよ西条心宙、『ノア』に匹敵するような大災害がもうすぐ始まる。そんな危険因子をどうすればいいというんだい?私たちは私たちに蹴りをつけた。何もしないのが得策だというのかい?」

部屋は水を被ったように、しばらく静まり返っていた。ただ心臓の音がバクバクと僕を追い詰めていた。それを打ち破ったのは、またしてもガーラだった。


「ところで君、その剣のことは本当に何も知らないのかい?」

僕はふるふると首を横に振った。

「…君はどこまで無知なんだ。まあいいさ。君の剣はどんな魔術でも『無効化』_____つまりなかったことにできる珍しい剣だ。何が言いたいかと言えば、君の剣で僕の心臓をザクッと刺せば、この一連の騒動はなかったことにできる。

西条心宙、君が私を殺せば、リリィも『ノア』も、そしてこれから起こる大災害もないことにできる。どうする?」

居たたまれなくなってガーラから視線を外すと、真っ暗なはずの窓の外の空は、赤や緑のオーロラがぐるぐると大きく回っていた。そう、それはよく聞かされていた『ノア』の前兆。まさしくそれと同じだった。


それはほんの10秒だったかもしれないし、3時間ほどたったかもしれない。幾分の時間が流れたかわからないが、心宙はついに覚悟を決めた。


彼、西条心宙はその腰についていた剣を、ガーラに差し出した。


_____________________


それは珍しく晴れた日のことだった。

「そろそろ行くんだね。」

濃い茶髪の男が、黒いフードを被った青年に声をかける。

「ああ、まだまだ僕は東洋人ってだけで差別されるからね。むしろ君が珍しいよ、バレット。」

バレットと呼ばれた男はハハッと笑い飛ばした。

「まあおいらもガーラと同じ西洋に雇われた魔術師だったからね。始め東洋人と言われたときは、つい冷たくあしらっちゃったが。

ガーラは今もきっとリリィに禁断魔術の情報を埋め込んだことを後悔してるんじゃないかな?」


そう、数年前のあのとき、僕はガーラを殺すことはできなかった。彼は剣を差し出して微動だにしない僕を見ると、「君にその気がないなら私はお暇しよう」とすぐに魔術で消えてしまったのだ。___父の形見であろう『無効化』する剣を奪ってから。

「あれは僕と父を結ぶ唯一の道具だった。それに、ガーラがいなかったらリリィを失うこともなかった。でもガーラだけに憎悪を抱いてるだけじゃないんだ。

昔、僕はリリィに頼んだんだ。あの扉を使って、時を超えて、お父さんに会いたいと。けれどもそれは叶わなかった。僕は、僕が思っている以上に何も知らなかったんだ…!だから知りたい、この世の全てを。もう二度とこんなことが起きないために。

バレット、僕はもう行くよ。世界をこの目でちゃんと見てくる。」

黒いフードの青年は、それだけ言うと歩いていなくなってしまった。バレットは見送った後、彼が通って行った道をぼんやりと見つめていた。

(おいらは西条心宙があれからどれだけ嘆いたか、どれだけ後悔してきたか、一番近くで見てきたんだ。それがあるからあいつは絶対に逃げない。魔術に頼らないできっと新しい扉を開いてくれる。)

珍しく晴れた今日の空には、満月がぽっかりと浮かんでいた。『ノア』に次ぐ大災害が起きてからというもの、天気の不調はひどくなるばかりだ。

(でもこんな門出のときに太陽と満月が出るなんて。)


それはとある世界の物語。お姫様を救えなかった英雄は、世界を救おうと旅に出た。

長々と書いてしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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