4話
私は同乗したウィルと侍女さんに説明を受けた。
何故、私と姉さん、母さんを迎えに来たのかということについてだ。ウィルは穏やかな笑顔で告げた。
「イルゼ様をお迎えにあがったのは実は王太子様の事が絡んでいまして。アマーリエ侯爵家には現在、お年頃の令嬢がおられません。そこで侯爵は昔に愛人であったルイーゼさんの事を思い出されたのです。王家では王太子様の婚約者を探しておられます。侯爵様は名乗りを挙げるつもりはおありではなかったのですが。陛下から打診があって渋々、引き受けられました。イルゼ様の母君のルイーゼさんからお断りの手紙をいただいてはいました。ですが、侯爵は陛下のお頼みを断る事ができません。イルゼ様、そこのところはお分かりいただきたいのです」
ウィルは笑顔から真面目な顔に変わる。私は仕方ないとため息をつく。
「そういう事情でしたら仕方ないですね。けど、私は自由恋愛で結婚するのが夢でした。だから、王太子様の婚約者候補にはなりますけど。もし、候補から外れたら私の望む方と結婚させていただきます。それでいいですか?」
「…イルゼ様はなかなかにしたたかですね。いいでしょう、候補から外れたらあなたのお好きなようになさってかまいません。その代わり、候補から外れなかったら王太子様と婚約をして結婚を絶対にしていただきます」
ウィルはきっぱりと言う。私は彼を真っ直ぐに見据えた。
しばらく、睨み合いが続いた。
先にため息をついたのはウィルの方だった。私は驚いて彼を凝視した。
「イルゼ様。わたしを疑っているようですね」
「…少し。いきなり、侯爵様の命令だと言われても。今回、付いて来たのはお手紙の件があったからです。あれがなかったらお断りしているところでした」
「確かにおっしゃる通りです。イルゼ様、わたしの事を無条件に信じてほしいとは言いません。ただ、旦那様の事は疑わないでいただきたいのです。あの方はルイーゼさんの事を忘れたことはありませんから」
意味深な事を言われたけど私には理解しにくい。ウィルは何を言いたいのか。
「ウィルさん。母が侯爵様の愛人だったという事は聞きました。どうして、母は行方をくらませたのかご存知なんですか?」
「少しは知っております。ルイーゼさんは元々、侯爵家のメイドでした。ですが、侯爵様が彼女を気に入り妻にしたいとお望みになりました。けど、先代の当主や侯爵家の親戚の方々は大いに反対なさいました。侯爵様ー旦那様は仕方なくルイーゼさんを愛人とし、とある名家のご令嬢と婚儀を挙げて正妻になさいました。その後、ルイーゼさんは先代の当主の奥方の勧めもあって別邸に住むようになります。旦那様は熱心に彼女の元へ通われました。そうしてお生まれになったのが姉君のイリア様です」
「ウィルさん。それはどこで…」
私が尋ねるとウィルはああと言って説明をしてくれた。
「父が侯爵家の家令をしていまして。その関連で知りました」
「そうだったんですか。母も姉からも聞いた事はないです。ウィルさんから聞かなかったら知らないままでした」
「そうでしょうね。イルゼ様もイリア様も別邸でご誕生になっています。けど、ルイーゼさんが別邸にいるという事を正妻、奥方様に知られてしまい、命を取られそうになったとか。そんな事件が起こって半年後に彼女はあなた方お子様を伴って行方知れずになって。旦那様は秘かに行方を探させていました。けど、ルイーゼさんはなかなか見つからなかった」
そこまで言うとウィルは口を閉ざした。ガラガラと車輪の音が響く。私はふと窓の景色を眺める。
侍女さんも心配そうに私を見た。沈黙が降りて三人共に無言でいたのだった。