3話
めっちゃ久しぶりの投稿になります。
お待たせしました。
イルゼこと私はユリアさんのカフェでの仕事を終えて自宅に帰ろうとロッカー室に向かった。
が、カフェの入り口のドアが開いてカランカランと付いている鈴が鳴る。
何事かとそちらを見たら黒のスーツに同じ色のネクタイ、また同じ色のズボンをきっちりと身に纏った青年がカフェの中に入ってきた。
ユリアさんが慌てて笑顔を作る。
「いらっしゃいませ。すみませんね、もう夕方だから営業時間は終わりなんですよ。表にある札を見ましたか?」
「ええ。見ましたよ。唐突で申し訳ないがこちらにイルゼ・ウィンリーさんはいますか?」
「え。イルゼさんね。確かにうちにはそういう名前の娘がいるにはいますけど」
ユリアさんが驚いて目を見開いた。
青年は私を見るとふむと頷く。
「榛色の瞳に茶色のまっすぐな髪。うむ、確かに旦那様に似ておられますね」
男性は笑いながら私を見つめた。
彼の深みのある緑の瞳と濃い茶色の髪はこの国では珍しくないが。私は何故、自分を知っているのだろうと疑問が拭い去れなかった。
「あの。私の名前をご存知みたいですね」
「ええ。存じております。イルゼ様、あなたをお迎えにあがりました。わたしはアマーリエ侯爵の家令で名をウィルと申します」
ウィルと名乗った男性は一度ドアを開けて外へ出ていく。
そうして、しばらくすると戻ってきた。両手にはドレスやら箱を抱えている。
ウィルの側にはもう一人の男性がいた。さらに女性もいる。私は驚きながらもウィルを見た。
「まずはお召替えを。これから、アマーリエ侯爵の元へ向かいますので」
「…ちょっと待ってちょうだい。イルゼちゃんが侯爵様の何だっていうんですか?」
ユリアさんが事を無理に進めようとするウィルに割って入った。
「すみません。説明がまだでしたね。イルゼ様はアマーリエ侯爵のご息女です。姉君のイリア様も。母君はお若い頃、侯爵と恋仲でした。そうして、お生まれになったのがお二人です」
「まあ、イルゼちゃんが侯爵様の娘さんだというのは理解できたけど。なのに、なんで今頃になって迎えを寄越したんです。ルイーゼ姉さんからは何も聞いてませんよ」
ユリアさんが言うとウィルは困ったような表情をする。私もそれは思っていたので頷いた。
「…ルイーゼさんは十五年前にアマーリエ侯爵家を出奔して行方知れずになっていました。それに侯爵の正妻であったクリステイーナ様はルイーゼさんを憎んでおられて。その事から迎えを寄越せずにいました。イリア様とイルゼ様には申し訳ないと思っています」
「なるほど。そういう事なら仕方ないですね。じゃあ、イルゼちゃん。着替えをしてきな。二階の部屋を貸すからさ」
「すみません。ユリアさん」
私が謝るといいんだよとユリアさんは笑った。
そうして、カフェの二階の部屋でウィルが持ってきたドレスに着替えたのだった。
あれから、同行していた侍女さんにコルセットやドレスを着つけてもらい、髪をピンやバレッタでアップにした。
横に編み込みもしてくれた。侍女さんはなかなかに器用だ。お化粧も軽く施されてから部屋から出て良しと言われる。一階に降りるとウィルや部下らしき男性、ユリアさんが待ち構えていた。
「準備ができたようですね。イルゼ様、母君と姉君にも迎えが行っております。我らも出発いたしましょう」
「わかりました。ウィルさん、アマーリエ侯爵家まではどれくらいかかりそうですか?」
「侯爵領までは馬車で三日はかかります。その間、わたしや侍女のアンヌ、御者の者にお言いつけください。お世話は致しますので」
ウィルの言葉に頷いてから私はカフェの外に出る。
入り口近くに停めてあった馬車に乗り込んだのだった。